WEB特集
アプリ「LINE」躍進と課題
9月14日 20時50分
インターネットを通じて多くの人が交流する時代。
その中心は、これまではパソコンでしたが、徐々にスマートフォンに移りつつあります。
そのスマートフォンの世界で、今、日本で開発された「LINE」という無料で通信やメールなどが出来るアプリが、急激に利用者を伸ばしています。
運営する会社は今月10日、サービス開始から約1年2か月で、世界中の利用者が6000万人を超えたと発表しました。
しかし、利用者に若い女性が多いことから、犯罪に悪用される可能性もあるのではないかと懸念する声も出ています。
すでに多くの似たようなアプリがあるなかで急成長した背景と抱える課題について、経済部で情報通信業界を担当している安井誠一記者が解説します。
若い世代に大人気
「LINEを使ってる?」
スマートフォンを利用している方は、こんな風に尋ねられたことがありませんか?。
「LINE」は、インターネットを通じて無料で通話などが出来るスマートフォン向けのアプリです。
無料通話では、すでに「スカイプ」などが有名ですが、「LINE」は通話だけでなく、無料でメールのやりとりができるほか、インターネットの交流サイト=SNSのような機能も備えています。
サービスが始まったのは去年6月ですが、利用者が急増。
若者の街、東京・原宿で話を聞いたところ、多くの高校生や大学生がこのアプリを利用していることに、改めて驚かされました。
その一方で、その親の世代の人たちに話を伺うと、「LINEって何?」という反応が返ってくることも多く、世代間で認知度に大きな差があるようです。
しかし、そういう世代の人たちの中にも、職場の仲間同士で情報交換するのに利用している人もいて、それぞれのライフスタイルにあわせてサービスを利用している姿が印象的でした。
特定の仲間と交流できる
LINEがここまで受け入れられたのは何故なのか、大きく分けて2つの特徴が浮かび上がってきました。
まず特定の仲間との交流サイトだということです。
無料で通話やメールを楽しめるのは、お互いにスマートフォンに電話番号を登録している人に限られます。
LINEを始める時に専用のアプリをダウンロードすると、スマートフォンに登録してある電話番号のデータが運営会社に送られます。
例えばAさんのスマートフォンにBさん、Cさんの電話番号が登録されていた場合、その情報が会社側に送られるのです。
そして、もしBさんやCさんも自分のスマートフォンにAさんの電話番号を登録していれば、双方に「友達」として通知され、無料で電話やメールや出来るようになるのです。
他のSNSの場合、交流の輪がどんどん広がるような設定になっていることも多いのですが、それに不安を覚えたり、面倒だと感じる人もいました。
これに対してLINEは、あくまで限られた人と交流するためのアプリなのです。
“スマホ時代の申し子”
もう1つの特徴は、スマートフォン専用に開発されており、操作がシンプルだということです。
世界最大の交流サイト「フェイスブック」は、もともとパソコンを通じた大学生同士の交流からスタートしたサービスです。
「ツイッター」や国内最大手の「ミクシィ」も、当初はパソコンが中心でした。
これに対してLINEは初めからスマートフォンに特化して開発されたサービスです。
携帯電話からスマートフォンに替えた人の中にはパソコンのユーザーに比べてITについてよく知らない人が多いのが実情です。
そのため、LINEは簡単に操作出来るように設計されています。
例えば無料のメールサービスは、スマートフォンに相手の電話番号が登録してあり、「友達」と認定されるだけで、利用できるようになります。
複雑な登録手続きや初期設定は必要なく、相手のメールアドレスを知らなくても電話番号さえ分かっていればメールをやり取りできるのです。
さらにスマートフォンの文字入力が、従来の携帯電話に比べて面倒だと感じている人も多いことから、「スタンプ」と呼ばれる様々なイラストを簡単にメールに貼り付けられるようにしました。
これが手軽に自分の気持ちを伝えられるとして、若い世代に受け入れられたと言われています。
この結果、運営会社は今月10日、サービス開始から約1年2か月で、世界中の利用者が6000万人を超えたと発表。
普及のスピードは「フェイスブック」や「ツイッター」よりも早いとされ、日本だけでなく、韓国や台湾、中東などにも利用者が広がっています。
急成長の課題も
LINEを運営しているのは、韓国系IT企業の日本法人です。
約80人のエンジニアやデザイナーが、連日、ソフトの開発を進めています。
無料での通話やメールを売りにして、まずは利用者を増やす戦略をとってきましたが、実は会社側も、当初はこれほどの広がりを予想していなかったといいます。
今後の課題は、収益をどう伸ばすかです。
会社側では、占いのコーナーや有料のイラスト販売など、毎週のように新たなサービスを打ち出しています。
また、LINEの利用者の増加に伴って、コンビニや化粧品会社といった大手企業とのタイアップも増えてきています。
さらに運営会社ではアメリカでの利用拡大も狙っており、「日本発の交流サービスとして、さらに1億人、10億人と利用者を増やし、世界で共通に使われるサービスを目指す」と意気込んでいます。
しかし、すでに「フェイスブック」や「ミクシィ」が多くの利用者を抱えるなかで、後発のLINEが急成長したように、変化のスピードが速くトレンドが変化するのが情報通信やIT業界の特徴です。
新しい交流アプリやSNSは、日本や海外で次々に生まれています。
メディア論が専門で、若者のコミュニケーションに詳しい東洋英和女学院大学専任講師の小寺敦之さんも「特に若い女性のコミュニケーションの道具として、教室の中で手紙をまわしたり、おしゃべりをしたりする文化の延長で、チャットやメール、SNSなどのサービスが時代に応じて利用されてきた。LINEは、今のスマホ時代にマッチしているから受け入れられているが、数年後にはコミュニケーションの主役は、ほかのサービスに移っているかもしれない」と話しています。
さらにほかの課題も指摘されています。
若い女性を中心に利用者が増えることから、犯罪に悪用されるのではないかと懸念されているのです。
実際、いわゆる「出会い系サイト」などを運営する会社が、LINEのサービスを使って見知らぬ男女の出会いの場にしようとする動きも出始めていると言います。
LINEの運営会社では、未成年の利用者に対して、知らない人に電話番号を教えないように呼びかけているほか、大手通信会社と協力して安全対策を強化していますが、今後、こうした対策の充実も求められそうです。
スマートフォンは、ますます市場での勢いを増し、人と人とのコミュニケーションの姿を変えようとしています。
“スマホ全盛時代”の今、LINEがさらに拡大し、交流サイトの市場を塗り替える日が来るのか。
それとも、全く別のサービスが利用者の心をつかむのか。
今の段階では予測ができず、スマートフォンを使う人たちにとって、今後の動きから目が離せない状態が続きそうです。