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がくの飛耳長目録 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2009-06-03 侵食, 侵蝕、浸食、浸蝕

侵食, 侵蝕、浸食、浸蝕???

| 08:29 |

いま内輪で議論中。erosionに対する漢字訳は、侵食, 侵蝕、浸食、浸蝕???

人によって違う。意見が分かれる。

私も以前は気にせず、ワープロでの変換で最初に出て来る、侵食を無意識に使っていた。

しかし、いつだったかあるとき、浸食を使った。サンズイかニンベンか?

Yahooの辞典(大辞泉)では、

しん‐しょく【侵食/侵蝕】

[名](スル)他の領域をしだいにおかし、損なうこと。「他国の市場を―する」

しん‐しょく【浸食/浸蝕】

[名](スル)流水・雨水・海水・風・氷河などが地表の岩石や土壌を削り取ること。また、その作用。「波が岩を―する」◆ 「侵食」とも書く。

とある。

山口飛鳥君が調べた。

地形学事典(文部省編纂)では、侵食であり、

地学事典(平凡社篇)では、浸食だという。

前者は地形学、後者は地質学。用語不統一だ。どうりで混乱するはず。

そこで「そもそも論」を。

そこで、そもそも漢字とはなんぞやとの意味を考える。漢字とは、へん、つくり、かんむり、などの部首の集合体であり、そこに物語がある。だから読めずとも意味が伝わる。

ピラミッドの中に描かれている絵文字と同じであり、Macが最初に使い、Windowsがパクったアイコンの2200年も前の元祖なのだ。西洋世界は、アルファベット世界となり、表音文字しかない。しかし、東洋には表意文字としての漢字が生き続けた。たった15年(紀元前221-206年)しか存在しなかった始皇帝の秦、そしてそれを引き継いだ漢帝国の偉大な歴史的功績であることは皆知っている。

しかし、漢字は滅ぶ運命にあるのか、それともコンピュータという偉大な文明の機器を得て、復活の未来があるのか?

アイコンの爆発的普及、若者たちの絵文字メイル、そして100万部を突破した「読めない漢字」(今朝のニュースでやっていた)、公益法人「漢字鑑定協会」のおおもうけ、はその意義が大きく復活していることを示している。情報爆発の中で瞬時にして意味を伝えるからである。圧倒的情報伝達力があるのだ。耳ではなく、目なのである。

だとすると、自然現象の中で進行するerosionに対する訳語としてどれが適切か?おのずと見えて来る。浸食もしくは浸蝕である。人が関与する事柄は人という絵がどこかに張り付く。

まさにinvasionの訳語としての「侵すこと」は侵食(侵略)である、となる。文部省の地形学事典がおかしいのだ。やりすぎなのだ。それが混乱の源だ。

食と蝕。食は食べること。蝕は虫が食べる事?だとすると前者は広義であり、後者は虫が食べるようにゆっくりと食べること?などと物語を想像できる。

日食(日蝕)、月食月蝕)はまさに月や太陽(日)が食べられてゆくことであり、大昔から一般化されている漢字だ。

自然科学において拡散と移流という移動を表すことばがある。拡散的現象には「蝕」移流的速さには「食」と想像できる。自然科学ではその速さの違いには8ケタ程度もの違いと明確だからだ。

だとすると、日食月食がより妥当という気がして来る。

漢字世界とは、そこまでの微妙なことまで表現して来たのである。

kimura-gakukimura-gaku 2009/06/05 00:39 その後、いただいたコメント

「地形学事典(文部省編纂)」というのは「文部省学術用語集 地学編(日本学術振興会)」のことだと思います.この編纂にあたられたのは巻末の委員一覧によると地質学の先生方ばかりなので,地形学と地質学だから不統一ということではなさそうです.

ちなみに「地形学辞典」というのは別途,1981年に町田貞先生ほかの編集で,二宮書店から出ていて,この中でも「侵食」のほうが使われています.また「文部省学術用語集 地理学編」でも,もちろん?「侵食」です.

さて,「広辞苑」ではどうかと調べましたところ,面白いことを発見!

1983年の第三版では
====
しんしょく【侵食・侵蝕・浸蝕】㈰漸次におかし,そこなうこと.㈪流水・氷河・波浪・風
などが地表面を掘り削る作用.−・こく【侵食谷】略 −・りんね【侵食輪廻】略
====
となっていてどちらかというと「侵食」派なのですが,

2008年の第6版では
====
しんしょく【侵食・侵蝕】㈰漸次におかし,そこなうこと.㈪浸食に同じ.

しんしょく【浸食・浸蝕】[地]流水・氷河・波浪・風などが地表面を掘り削る作用.−・
こく【浸食谷】略 −・りんね【浸食輪廻】略
====
と項目が分かれていて,地学的な作用については「浸食」で統一されておりました.広辞苑にしたがうと,最近では「浸食」を使うようになった,とも解釈できてしまいますね.

○●はこれまで地形学の先生方とのお付き合いが多かったので,「侵食」で統一してまいりましたが,うーむ.

学先生のおっしゃる「そもそも論」でいけばもちろん「浸食」でしょうが,人偏の付いた漢字の意味を自然現象に敷衍して使うようになった,という例はほかにもありそうですね.漢字は微妙だからこそそのあたりの歴史的経緯も知りたいところです.それとも,学先生のいうように,invasionとerosionを同じ言葉にするなどありえない,と断言すべき
でしょうか?

kimura-gakukimura-gaku 2009/06/05 00:50 その後いただいたコメント2

「地球と宇宙の小辞典」(岩波2000,5:gaku注)に侵食が詳しく書かれていました。ーーー

ーーーーーーーーーーー
侵食
erosion
地表面が削り取られることを侵食という。ふつう、何が削り取る働きをするかによって、川の侵食、海の侵食、風の侵食、地下水の侵食、重力移動による侵食などに分類する。
英語のerosionは、ラテン語の”かじり取る”に由来する。浸食と書くこともある。"浸”は”水につかる”、”水にしみ込む”の意味、”侵”は”おかす”の意味であり、おかす方がerosionに近い。
ーーーーーーーーー

kimura-gakukimura-gaku 2009/06/05 01:36 さてさて、皆さんが調べ始めていただいたことは多いに結構ですね。
そこで私も改めて、手元にある岩波漢語辞典(1987第一版)を眺めてみました。「漢字そもそも論」に立ち戻って。

侵(しん、おかす)
常用漢字、呉語、漢語
<意味>おかす。他人の領分に(じわじわ)入り込む。
<解字(なりたちのこと)>形声 右半分は音符で「帚」の省略形+「又」(=手)「人」に加えて、人が帚(ほうき)を手にもって次第にはきすすむ意。

熟語 
侵害、侵攻、侵寇、侵食・侵蝕、侵入、侵犯、侵略・侵掠

ーーーーーーーーー


しん、ひたす、ひたる、つかる
<意味>
(水が)しみこむ。じわじわと中に入り込んでおかす。じわじわと。ようやく。やや。
<解字>形声。「水」+音符(右半分:次第にすすめる)。水が次第にしみわたる意。

熟語:
浸出、浸潤、浸食・浸蝕、浸水、浸染、浸炭、浸透、浸入、浸礼

(ワープロを打つと、しんにゅうには侵入も出ます)
ーーーーーー
感想:熟語の例はほんの一部でしょうが、侵は侵食以外は人為的ことがらであり、侵食は、市場を侵食する(大辞泉)のように人為的意味も含みます。すなわち、侵食のみが本来的意味の「侵」を超えて使われていることがわかります。それに対し、「浸」はすべて自然現象にのみ使われています。いずれも「じわじわ」というイメージが右半分の、”つくり”から醸し出されます。浸食の場合も、本来的な水の関与を超えて風の作用や氷河の作用等へと意味は拡張されていることとなりますが、依然として人の関与しない自然現象のことであるとのイメージは強く残ることとなります。

侵も浸も、日本語ではまったく同じ音ですが、漢字によってほとんど全て音が違う中国的四声の世界では違うかもしれません、近くに中国からの留学生がいれば聞いてみましょう。

漢字の勉強なんて、中学校以来だな〜!

kimura-gakukimura-gaku 2009/06/05 01:54 記載し忘れましたが、浸も常用漢字です。

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