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国力回復なくして摩擦鎮静なし

2012/9/17付
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 尖閣諸島の国有化で中国が反発し、領土をめぐる日中間の緊張が一気に高まっている。中国側の対抗措置がさらにエスカレートする事態も予想され、両国関係は際どい状況になりかねない。

 竹島の領有権では韓国との対立が先鋭化し、北方領土ではロシアの圧力が強まる。国境問題をどうとらえ、対応したらいいのか。解きほぐす方法はないのだろうか。

戦略的一致見いだせず

 領土をめぐる摩擦が一度に激しくなった背景には、いくつかの理由が考えられる。

 第1は、安全保障面での微妙なバランスの変化だ。民主党政権のもと、米軍の普天間基地の移設問題やオスプレイの配備で日米の同盟関係が揺らぎ、米国との距離感を、周辺諸国とりわけ中国に見てとられた。

 「原発ゼロ」の政府方針は米国の核戦略にもからんでくるだけに、米政府の懸念が同じ文脈で中国に受けとめられる可能性もある。

 第2は、日本との経済的な力関係が大きく変わったことがあげられる。中国が国内総生産(GDP)で日本を抜き世界第2位になり、成長を続ける韓国にとっても日本の存在感はどんどん薄れている。日本の相対的な地位の低下だ。

 第3は、各国とも今年が政権交代期で、政権の基盤が不安定なことがある。中国では習近平新体制への移行、韓国では12月の大統領選と権力の空白期が訪れる。日本も衆院解散・総選挙が取り沙汰され、政権交代も指摘される。米国は大統領選の真っ最中である。いずれも内向きの政治力学が働く。

 もっと長い目でみた場合、米ソ冷戦構造の崩壊で、日韓、日中にとって共通の脅威だったソ連という存在がなくなり、戦略的な一致点が見いだせなくなったことも無視できない要素だ。

 それでは、どうしたらいいのか。まさか実力行使で自国の領土であることをはっきりさせよという外科手術を主張する人はいないだろう。強い姿勢で臨むのは必要だが、声高に自国の領土だと叫んでいても、物事は前に進まない。

 対立をすぐさま解消する特効薬が見つからないとすれば、ここはじわじわ効いてくる漢方薬の処方箋を考えるしかない。

 日本からみて、領土衝突の鎮静剤として考えられるのは、国際司法裁判所(ICJ)への提訴だ。政府は竹島について手続きを開始した。韓国側は拒否しているが、国際的な場で法と正義にもとづいて解決をめざす方法は有効だ。

 尖閣諸島についても、ICJ提訴をひとつの選択肢として検討してもいいのではないだろうか。もちろん尖閣は、日本固有の領土で実効支配しており、竹島とは違いそもそも領土問題は存在しない。

 しかし、今回の中国側の出方を見るにつけ、行動がさらにエスカレートする事態に備える必要がある。竹島と同様、自国の正当性を国際社会に訴えるやり方だ。

 次は領土摩擦の熱をできるだけ下げるための解熱剤になるのが、人的なパイプづくりである。中韓との間では、世代交代もあり、議員連盟などを通じてのつながりがすっかり希薄になっている。新世代の政治家による人間関係の構築を超党派で進める必要がある。

 対症療法に加え、熱を出さないための体質改善も必要だ。栄養剤の最たるものは経済である。日本の経済を強くし、経済的相互依存を深め、協力分野も広げて、手出しをしない方が双方得だという関係を作りあげなければならない。

領土対応も政治指導力

 民主主義・自由主義・資本主義の価値観を共有している日韓間では、経済的、文化的な相互依存関係をより強め、歴史や領土の比重を低くする努力をするしかない。

 日中韓とも、国際的な生産のネットワークづくりが東アジアで進み、共通の利益を生んでいるのを、いま一度確認した方がいい。

 ただ、今回の対応を見ても分かる通り、中国とは経済的相互依存という考え方だけでは摩擦は防げない。安全保障上の体力を兼ね備えるための強壮剤も必要になる。力の均衡という国際政治のリアリズムが、中国の行動原理を支配しているとみられるからだ。

 忘れてならないのは処方箋通りに薬を調合できる日本国内の体制づくりだ。「決まらない政治」が続き、対外的な調整力に欠ける指導者では、周辺諸国から足元を見られるのがオチだ。

 領土でナショナリズムをあおり、政治的な影響力の拡大を狙う動きにも注意を払う必要がある。

 外交力、経済力、防衛力、政治力……。国の総合力の回復なくして領土摩擦の鎮静はない。

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習近平、韓国、GDP、中国

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