つながる:ソーシャルメディアと記者 福島から伝えること=石戸諭

毎日新聞 2012年08月18日 東京朝刊

 先日、取材で福島県を訪れた。そこでツイッターで相互フォローしている同県のテレビ局「テレビユー福島」の報道局長、大森真さん(55歳、ツイッター:@yard_1957)に会った。局長といっても単なる管理職ではない。自身も現場に出て取材に奔走する。姿勢は明確だ。「データと事実を軸に、住民や避難者がなるべくリスクが低く、ストレスがない暮らしを取り戻す力になる」。福島の現状を幅広く伝えようと、テレビ番組とユーチューブ(http://www.youtube.com/user/TUFchannel)を連動させた報道を展開している。

 ツイッターやインターネットでは真偽不確かな情報もあふれている。「福島の新生児の中から奇形児、スクープです」「福島県民は何も知らされていない」といったツイートが広まることもあった。発信者は正義感から現状を批判して警鐘を鳴らしたつもりかもしれない。しかし、適切な根拠や因果関係の検証に基づく発言だったのか。

 大森さんは言う。「逆に県民はよく知っていると思う。東京電力や行政への強い怒りや今後の不安を抱えながらも、日常生活を送ろうと情報を集めながら住んでいる人が多い。ジャーナリストでも根拠の無い情報を拡散させていた人もいた。それが住民の無用なストレスになることを考えたことはあるのだろうか」

 大森さんは、原発事故以来、当事者として被ばくに向き合ってきた。個人線量計を持ち歩き、内部被ばく調査、県産農産物の検査など多くの数値を調べる。得た数値の意味を知ろうとツイッターなどでつながった研究者にインタビューを繰り返した。たどり着いたのは「数値が低い点は安心できるが、まだ油断は禁物。必要なのは無理なく余計な被ばくを避ける知恵を考える」ことだ。

 今、私たちは福島から何を伝えないといけないのか。危険・安全の二元論から離れ、地元生活を支えようとする記者の姿勢に学びたい。【大阪社会部】

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