『ブックオフ』から“お宝”を発掘する事にかけては他の追随を許さない人気コラムニスト・吉田豪。そんな彼が、今後100円均一のワゴンセールに埋もれてしまうにはあまりに惜しい名曲&珍曲を毎週紹介!
最注目アイドル・でんぱ組.incメンバーによる自虐アルバム
古川未鈴
『リモコン・ディスコ』
ここ最近、でんぱ組.incの業界関係者の評価の高さは、まるで一時のももいろクローバー級。プログレ路線から渋谷系路線へと変貌していった雑誌『MARQUEE』の松本編集長や、氣志團やナンバーガール、フジファブリック、相対性理論といったバンドを発掘してきたEMIの加茂啓太郎氏といった、幅広く音楽を聴いてきたはずのアラウンド50歳な人たちを順調に狂わせているのが非常に興味深いです。
「でんぱ組.incがベルベット・アンダーグラウンド、もふくちゃんがアンディー・ウォーホール、ディア・ステージがファクトリー、秋葉がNYという構造で捕えると他のアイドルとの違いと面白さが分かると思います」
「ジャズに例えるとAKB48が渡辺貞夫なら、でんぱ組.incは阿部薫、パンクならクラッシュとカオスUK、テクノならクラフトワークとATNR(ATR=アタリ・ティーンエイジ・ライオット)、渋谷系なら小沢健二と暴力温泉芸者、グラムならデビッド・ボウイとジョブライアスという事ですかね」
そんな加茂さんのTwitterでのつぶやきも面白すぎてボクはしょっちゅうRTしているし、松本編集長と加茂さんの対談がとうとう実現して「今のアイドルを否定するのは当時、パンクなんてただの3コード、ヒップホップなんて演奏してないじゃんと否定したロジックと同じ」と意気投合したというのも納得。「似てるんですよ、この2人」とはBase Ball Bear・小出祐介氏の証言。そして、小出さんに「いまさらでんぱ組に気付くなんて遅い」とかいじられて、トラウマになったと加茂さんがボヤいていたのも最高!
さて、でんぱ組とは秋葉原のディアステージというライブ&バーで働く女の子たちによって結成されたグループで、そのメンバーのガチなゲームヲタ・古川未鈴は、元パール兄弟のサエキけんぞうプロデュースでミニアルバム『リモコン・ディスコ』を自主盤でリリースしているんだが、これがまたすごいインパクトで。いや、曲自体はすごい真っ当なんですけど(アイドルテクノとしては旧作『トゥインクルリンク』や『乙女トリック』のほうが好きですが)、最後に収録されたサエキけんぞうによる彼女のインタビュー『未鈴とおしゃべり〜変貌編』がヤバすぎたんですよ!
あまりにも衝撃的なので『ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル』の「吉田豪プレゼンツ、ライブアイドル特集」でオンエアしたこともあるぐらいなんですが、せっかくだからこの場でなるべく再現してみたい。
まず、ディアステージの若き女社長として、加茂さんに言わせるとアンディ・ウォーホル的な活動をしているらしい「もふくちゃん」は、もともと彼女と一緒にディアステージでバイトしていたとのこと。07年12月に彼女がディアステージで働き始めた時点で「もふくちゃんはすごい人って聞いてたんで、怖いなーって思ってたら、意外と普通の人で」と最初に話を振ったせいか、「もふくちゃん、最初はアルバイトだったんでしょ? いまは社長だけど。一緒に働いてたけど、頭を飛び越して社長になったんでしょ? 友達が社長になるってどう?」などと、いきなりデリカシーゼロなことから追求していくサエキさん。「いや……でも、もふくちゃんって普通の人だけどちょっと変じゃないですか。いわゆるカリスマ性ってやつですか。それを買われて抜擢されたのかなあって……」と彼女が無難に答えると、「じゃあ、君としてもそのカリスマ性を認めるわけだ」と敗北をキッチリ認めさせた上で、「子供の頃から同じクラスで、この子にはかなわないなあとか、カリスマ性があるなあって思った子はいる?」と、彼女自身ではなく周囲の優れた人間の話ばかりさせるわけですよ! これは屈辱的すぎる!
そこで彼女が「どちらかというと私、いじめられっ子だったんで……キャハハ!」と痛々しい自虐的な笑いも交えて告白したことでサエキさんにスイッチが入り、「いじめられっ子だったの! どういうふうにいじめられるの?」と、さらに厳しく追求開始! 「いやあ……もう。それは……いろいろ……。キャハハ!」「それは、いまのディアステでもからかわれることは多いんで、そこはあんまりかわんないなあ、と」って感じでなんとか話を変えても「内容を教えてよー!」と執拗に食い下がり、「いやいや……。内容はちょっと……アレですけど……。キャハハ!」と、あからさまに「これ以上踏み込まないで!」という電波を出してもサエキさんは一切気にしない。「欠点をつかれるんでしょ?」「どういうふうに?」「一個だけでいいから教えてよ!」「どういうの?」とひたすら攻めまくるから、これもいじめなんじゃないかって気がしてくるレベル! ボクの脳裏には「♪あー、言葉の暴力」(Perfume『ビタミンドロップ』)ってフレーズが浮かんできましたよ! 大事な自分のCDにいじめ告白を収録させる、恐ろしいプレイ!
結局、彼女が話を変えるために「私、転勤族だったんですよ。小学校とか4つぐらい転々としてるんで、あんまり記憶がないんですよね……。キャハハ!」「私、親友って全然いなかったんですよ」などと言うと、今度は彼女の「一緒に漫画を描いていた唯一の親友」話をひたすら掘り続けるサエキさん。小学校時代に親友だったアヤちゃんがどんな漫画を描いていたのかなんて、わざわざCDに残すべきほどの情報じゃないはず!
その後も、切ない過去を話しては「キャハハ!」と自虐的に笑いつづける、この10分間のインタビュー音源によって、最終的には「基本的に根暗で、漫画を描いてて、いじめられてたみたいな子なんで……。キャハハ! いまは明るくなったと思います。昔、相当暗かったんで……。昔もっと太ってたんで……。キャハハ!」とカミングアウトするに至ったわけなんですが、とにかくサエキさんはキラーすぎ! そして、ボクが彼女さんと初めて会ったとき、「最高でしたよ、あのインタビュー!」と言ったらえらい複雑な表情をされたことも念のため報告しておきます!
今週の1曲
古川未鈴『リモコン・ディスコ』
(09年/Pearlnet Records)
ブレイクの声が高まりつつあるアイドルグループ・でんぱ組.incのメンバー古川未鈴によるソロアルバム。テクノポップとしても聴き応え十分だが、彼女のパーソナルな面を赤裸々に掘り下げる、サエキけんぞうによるインタビュー音源「未鈴とおしゃべり〜変貌編」がオススメ!!
プロフィール
吉田 豪(よしだ ごう)
プロ書評家、プロインタビュアー、コラムニスト。徹底した事前取材を元にした有名人インタビューで知られており、インタビュー集を複数出版。またアイドルにも造詣が深く、メジャーからアンダーグラウインドまで幅広く研究。独特な切り口からインタビュー集やコラムなどは熱狂的なファンも多く、福山雅治を筆頭に芸能界からの支持率も高い。
PROFILE