クローズアップされる「憲法9条」 櫻井よしこ氏、福島瑞穂氏が語る
産経新聞 8月31日(金)15時0分配信
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福島瑞穂氏と櫻井よしこ氏(写真:産経新聞) |
北方領土、尖閣諸島、そして竹島…。近隣諸国がわが物顔で日本固有の領土を侵食するなか、改めてクローズアップされているのが憲法9条の存在だ。“平和憲法”の名の下に、戦力の不保持を明記した条文を抱えたまま祖国を守れるのだろうか。ジャーナリストの櫻井よしこ氏と、社民党党首の福島瑞穂氏に考えを聞いた。(内藤慎二)
■櫻井よしこ氏「改正せずは国民への背信」
−−9条について
「最も速やかに改正しなければならない。最大の理由は自衛権が明記されていないことだ。私の試案では『日本国は自らの独立と安全を守り、国民を守るため国防軍を持つ』と明記した」
○中韓露は公正なのか
−−9条の理念で他国から国土を守れるか
「憲法の前文と9条は一体だ。前文には『平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した』とあるが、中国、韓国、ロシアの公正と信義は一体どこにあるのか。3国の動きを見る限り、前文と9条は国民に対する責任放棄で背信以外の何物でもない」
−−戦後、「9条を守れば外国から攻撃されない」と訴える政治家も少なくなかった
「その種の意見を政治家が口にすれば国際社会の笑いものになる。政治家の責務は日本国民の命、領土・領海、いわゆる国益を守ることだ。相手が攻めてこないとの前提に立って、対策を講じないのは知的怠惰の極みだ」
−−尖閣はどう統治すべきか
「警察官や研究者らを常駐させて目に見える実効支配を実現し、周辺の海の警備は海上保安庁が担うべきだ。自衛隊は少し離れた海上にいて、緊急事態のときに速やかに対応できるようにする」
−−9条が戦後の日本人に与えた影響は
「自衛隊や軍備の話題になるだけでおどろおどろしい印象を抱く人が少なからず生まれてしまった。日本人の『責任ある人間として生きる道』が否定されて、本来とは異なる人種になってしまったような気がする」
−−国防は「米国頼み」の印象が強い
「何か起きれば『自分が解決するにはどうすべきか』を論ずるより前に『日米安保条約は適用されるのか』と問う。一方、『オスプレイは嫌だ』『基地は無くせ』と主張する。卑劣で身勝手すぎるのが心配だ」
○核武装論議も避けるな
−−あるべき国防論議とは
「今は反原発運動が盛んだが、核武装に至るまで議論は避けるべきではない。テロリスト勢力にも核兵器が渡る可能性がある時代に生きていることを、われわれは認識しなければならない。『究極の生き残り』のために国家はあらゆる手法を考えるべきだ」
−−日本人は自衛意識が低いとの声もある。韓国のように徴兵制を取り入れるべきか
「憲法に『公に尽くす義務』を盛り込むべきだ。数年間他者のために、公のために、日本のために尽くすことを義務付ける。それは自衛隊、消防隊、海保、福祉の現場、なんでもいい」
■福島瑞穂氏「尖閣で自衛権行使は疑問」
−−9条の意義とは
「9条がなければ戦争ができる国になっていた。韓国の若者がベトナムに従軍したように日本も戦地に若者を送ったはずだ。韓国軍はベトナムで憎まれている。戦後の日本が戦争で人を殺さなかったことは誇ってよい。日本が今後、米国の利害に引っ張られて戦争への加担を強いられたときに、『NO』と断れるのが9条の効用だ」
●9条守れば攻撃されず
−−他国からの攻撃にはどう対応するか
「9条で『世界を侵略しない』と表明している国を攻撃する国があるとは思えない。攻撃する国があれば世界中から非難される」
−−中国政府に尖閣諸島を侵略される可能性はないか
「尖閣は民間人の所有だ。侵略は所有権侵害にあたり、領土侵犯に当たる。今(7月27日現在)のように経済的に両国の関係が密接ななか、中国政府は戦争という手段が取れるだろうか」
−−尖閣に自衛隊を常駐させる案が浮上している
「問題をこれ以上緊迫させるべきではない。尖閣は日本の領土であることは間違いない。日本には海上保安庁もある。自衛隊を置く必要はない」
●海外派遣は違憲状態
−−尖閣が攻められたとき、自衛隊を派遣することは自衛権の行使に当たるか
「刑法で正当防衛を認めているように日本にも個別的自衛権はある。四国や九州が攻撃されれば反撃は許される。しかし尖閣は人が住んでいない。個別的自衛権や9条の問題というより領土をめぐる問題として冷静に対処すべきだ」
−−具体的には
「国際的な交渉の舞台で解決を図るべきだ。侵略を未然に防ぐ外交努力も必要だ」
−−閣僚時代に自衛隊の憲法上の位置付けについて「合憲」との認識を国会答弁で示した
「社民党は自衛隊の存在について合憲か違憲か答えていない。外国にまで派遣できる状況は『違憲状態』と考えている。組織改編や規模の見直しは必要だ。ソ連崩壊後の北海道に今ほどの数の戦車を置く必要はあるのか。任務も災害救助などに比重を移すべきだ」
−−村山富市政権時に党は「合憲」と打ち出していた
「自衛隊、安全保障に関する党の見解は平成18年にまとめた社会民主党宣言で整理した。今もその見解が維持されている」
−−平和への思いを
「父は特攻隊の生き残りだった。子供の頃、終戦記念日に涙する父の姿を見た。戦争で傷つくのは父のような庶民だ。戦争に負けて手にした平和憲法や、戦争はしないという誓いは大切にしなければならない」
【プロフィル】櫻井よしこ(さくらい・よしこ) 昭和20年、ベトナム生まれ。66歳。ハワイ大歴史学部卒。ジャーナリスト。国家基本問題研究所理事長。憲法改正を目指す「『21世紀の日本と憲法』有識者懇談会」(民間憲法臨調)代表。著書に「気高く、強く、美しくあれ−日本の復活は憲法改正からはじまる」など。
【プロフィル】福島瑞穂(ふくしま・みずほ) 昭和30年、宮崎県生まれ。56歳。東京大法学部卒。弁護士、参院議員(当選3回)。社民党幹事長を経て平成15年から党首。消費者・少子化担当相(鳩山由紀夫内閣)などを歴任し、現在は参院憲法審査会委員。対談集「憲法を手に格差と戦争をくいとめよう」など。
最終更新:8月31日(金)15時40分