「かもしれない」で危険減らそう
北海道で白菜の浅漬けを食べた人たち120人以上が食中毒を起こし、7人が亡くなりました。腸管出血性大腸菌O157による食中毒です。なぜ、野菜で食中毒が起きたのでしょうか。これからの季節、どんな注意が必要なのでしょうか。
Q 食中毒というと肉や貝を思い浮かべるけど、野菜もあるんだね。
A 多くはないけれど、野菜でも発生している。野菜には、自然界にいる様々な微生物がついている。家畜のフンには食中毒を起こす菌が含まれていることがあり、堆肥を作った時、発酵が十分でないと生き残って野菜に付着する恐れがある。調理の時、十分に洗わなかったり、消毒しなかったりすると、食中毒の原因になる。
Q 北海道では、なぜ食中毒が起きたのだろう。
A 原因となった白菜の浅漬けの消毒が不十分だったようだ。浅漬けを作る前に水に塩素を入れた水槽で野菜を消毒するが、いつもより多く作るために、一度に多くの野菜を入れて塩素の濃さが薄くなってしまった可能性がある。
漬けものでも浅漬けは特に注意が必要だ。たくあんや福神漬けは通常パックしてからお湯で殺菌するし、ぬか漬けやキムチのような発酵させる漬けものは菌が死滅することが多い。浅漬けは、歯ごたえが悪くなるから普通は加熱しない。
Q 原因となった大腸菌って何?
A 大腸菌は、人間や家畜の腸の中にもいる。ほとんどは無害だが、中には病気の原因となるものがあって、腸管出血性大腸菌の一種のO157もそのひとつ。毒素を作り、出血を伴う腸炎を発症させる。少量でも食中毒の原因になることがある。重い症状や死亡に至ることもある。
Q O157は、ニュースによく出てくるね。
A 昨年、焼き肉チェーン店で出されたユッケで起きた食中毒事件でも、患者からO157やO111が見つかった。7月に牛のレバーの生食用としての販売や提供が禁止された。これは、レバーにはO157などがいることがあり、今のところ加熱以外の有効な予防策が見つかっていないからだ。
Q 秋になれば、一安心していいの?
A 食中毒は、一年中発生している。暑い季節は、細菌が原因となる食中毒が多いが、秋になると毒キノコによる食中毒が増える。9月は両方とも多い。冬になるとノロウイルスによる食中毒が増えてくる。
Q キノコ採りで注意することは?
A 食べられるキノコと似た毒キノコもあるから、疑わしいものを食べるのは危険だ。「柄が縦に裂けるものは食べられる」「毒キノコは色がきれい」「虫が付いていれば大丈夫」といった言い伝えにも科学的な根拠はない。
Q 食中毒は、どうすれば防げるの?
A 厚生労働省は、食中毒の原因となる菌やウイルスを食べ物に、付けない、増やさない、やっつけることが3原則としている。具体的には、食品を買ったらすぐに帰り、冷蔵するものはすぐに冷蔵庫に入れる。調理のときは、こまめに手を洗う。台所や調理器具を清潔にする。食べ物は長時間常温で放置せず、時間がたって怪しくなった食べ物は捨てることなどをあげている。
細菌は目に見えないからやっかいだ。交通事故も自然災害も同じだが、危機管理には想像力が大切。カーブの向こうから車が来るかも知れない、家具が地震で倒れるかも知れない、肉に食中毒の原因となる菌が付いているかも知れない、と考えて備えていけば、危険を減らしていける。
浅漬け食中毒 札幌市の「岩井食品」が製造して7月末に出荷した浅漬けを食べた人が発症した。発症者や死者のほとんどが高齢者だが、4歳の女の子も亡くなった。
食中毒の発生場所 厚生労働省の統計によると、2011年で原因施設が明らかになった920件のうち、飲食店が69.6%、家庭は9.6%、旅館は6.2%、仕出屋は4.9%、学校や寄宿舎などが1.6%だった。
原因となる細菌と含まれる主な食品 カンピロバクター(鶏肉、レバ刺し)、腸炎ビブリオ(さしみ、すし)、ブドウ球菌(おにぎり、弁当、菓子)、サルモネラ菌(生卵、卵の加工品、レバ刺し)
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朝日新聞編集委員 黒沢大陸
1963年生まれ。91年から朝日新聞記者。 東京社会部、科学部、科学医療部デスク などを経て編集委員。朝日新聞のウェブ サイト「アスパラクラブ」で災害や科学 技術を読み解くブログを連載中。
2012年9月9日 |