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“引くに引けない”中国の事情
9月14日 20時50分
14日朝、沖縄県の尖閣諸島の沖合の日本の領海に、中国当局の海洋監視船6隻が入りました。今月11日に日本政府が尖閣諸島を国有化したあと中国当局の船が領海に侵入したのは初めてです。尖閣諸島問題のこれまでをまとめるとともに、中国政府の思わくはどこにあるのか解説します。
6隻が領海侵入
日本の領海に入ったのは、中国・国家海洋局所属の海洋監視船6隻です。
14日午前6時20分ごろから7時すぎにかけて尖閣諸島の大正島と久場島の沖合の日本の領海内にこの6隻が入ったのを、第11管区海上保安本部が確認しました。
海上保安本部は巡視船や航空機を出して領海の外に出るよう警告を続け、午後1時20分ごろまでにすべてが領海を出ました。
今月11日に日本政府が尖閣諸島を国有化したあと、中国当局の船が領海に侵入したのは初めてです。
尖閣諸島問題とは
沖縄県の尖閣諸島を巡っては、周辺海域に豊富な天然資源が埋蔵されていることが判明した1970年代から、中国などが領有権を主張し始めました。
日本政府は、島を平穏かつ安定的に維持・管理する必要があるとして、小泉政権下の平成14年から、尖閣諸島のうち、魚釣島など、民有地だった島について、地権者に賃借料を支払って借り上げました。
平成18年ごろからは島の実効支配をより安定的なものにするため、地権者側に対し、国内のほかの土地と尖閣諸島を交換する案を提示し、水面下で国有化に向けた交渉を始めました。しかし条件面で折り合わないまま交渉は停滞し、政府は、賃借契約の延長を繰り返しながら、維持・管理を続けてきました。
こうしたなかことし4月、東京都の石原知事が、都として尖閣諸島を購入する意向を表明。政府は賃借契約を来年3月まで延長したばかりということもあり、当初、東京都の対応を見守る構えでした。
しかし日本国内で国有化を巡る議論が活発になる一方、中国国内で反発が広がり、方針の転換を余儀なくされます。
7月、政府は、領土を守る責任はあくまで国にあるとして、地権者側に島の買い取りを打診し交渉を本格化させました。
地権者側との交渉を円滑に進めるために東京都側との協議にも乗り出し、野田総理大臣と石原都知事による会談も行われました。しかし協議は難航。石原知事は、島を購入するために呼びかけた寄付金が14億円余り集まっていることもあり、都が購入する姿勢を崩しませんでした。
政府と東京都が尖閣諸島を巡って動くなか、8月15日、香港の活動家らが尖閣諸島の魚釣島に上陸。不法入国の疑いで逮捕・強制送還されました。
魚釣島にはその後、日本の地方議員ら10人も上陸。
これらのメンバーは魚釣島への上陸許可を申請しましたが、政府は、島の平穏かつ安定的な維持管理が損なわれるおそれがあるとして、認めていませんでした。
その後、尖閣諸島の資産価値や活用方法を調べる東京都の調査船が、9月2日、現地で沿岸の地形などを調査しました。このとき政府は島への上陸を認めず、船の上からの調査となりました。このころ政府は、日中間の対立が先鋭化するのを避けるため、島の国有を急ぐ必要があると判断。国の算定した島の価格としては最高額にあたる20億5000万円を提示し、地権者側と大筋合意にこぎ着け9月11日、国有化しました。
しかし日本が国有化したことを受け、中国では抗議活動が続いています。
<問題の流れ> | |
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1970年代 | 中国などが領有権を主張 |
平成14年〜 | 政府が地権者に賃借料を払って借り上げ |
平成18年ごろ〜 | 政府は地権者側と国有化の交渉はじめるが条件折り合わず停滞 |
ことし4月 | 東京都の石原知事が、都として尖閣諸島を購入する意向を表明 |
7月 | 政府が地権者側と島の買い取り交渉を本格化 |
8月 | 香港の活動家らが尖閣諸島の魚釣島に上陸し逮捕・強制送還 |
9月 | 東京都の調査船が、現地で沿岸の地形などを調査 11日、国が地権者側に20億5000万円を提示し国有化 中国で抗議活動が活発に |
“引くに引けない”中国政府の事情
中国政府の対応は、強硬ぶりがより目立つようになっていますが、背景には、日本に対し引くに引けない事情があります。
このところ中国のメディアは尖閣諸島の国有化に向けた日本側の動きを逐一伝え、国内の反日感情は沸騰した状態が続いています。
中国の共産党政権は、最高指導部が大幅に入れ替わる党大会をこの秋に控え、安定した国内環境を何よりも必要としています。
「日本に対し弱腰だ」と国民から受け止められるような態度をとれば、胡錦濤国家主席ら最高指導部は、自らの統治の正統性を問われかねません。
このため最高指導部としては、一斉に日本批判の方向に舵を切ることで、国内世論のいわば「ガス抜き」を図ったものとみられます。
ただ、急速な経済成長の影で、貧富の格差拡大や幹部の汚職などへの国民の不満はくすぶり続けています。
日本を標的にした抗議活動がいつ、反政府・反共産党というスローガンに転じるか分からない危険性をはらんでいます。
このため、北京の日本大使館前など各地で行われる抗議活動も、警察が厳しく監視し、その規模を制限しています。
またインターネットで飛び交う反日デモの呼びかけも次々と削除するなど、反日の動きが、コントロールが及ばない範囲まで拡大しないよう神経をとがらせています。