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【消えた偉人・物語】尋常小学国語読本「中村君」 日本の男は泣くものではない
いじめの問題が大きな社会的関心を集めている。「尋常小学国語読本巻五」(昭和6年)に、転入児童をめぐるいじめの話が載っている。「中村君」という題材だ。
「四月四日の朝、当番で僕が机の上をふいてゐると、先生が知らない生徒を一人つれてお出でになりました。
『ここがあなたの教室です。せきはあれにします。』といつて、此の間からあいてゐたせきをおさしになりました。
さうして『山田さん』とおよびになりましたから、『はい』と答へますと、『此の方は中村さんといふ人で、今度遠い所から来て、今日から此の級へはいる方です。』とおつしやいました。
又中村君には、『これは級長の山田さんです。分らないことは此の方におききなさい。』とおつしやいました。私ども二人はていねいにおじぎをしました。」(中略)
ここには、子供同士とはいえ、人と人との出会いの慎み深いありようが描かれていて好ましい。
「ある日、僕がうんどう場へ出て見ると、中村君が泣いてゐました。聞けば、級のものが二三人で、中村君を生いきだといつて、いぢめたのださうです。
僕は『君、しつかりしたまへ。日本の男は泣くものではない。』といつて、力をつけてやりました。
中村君は学問もよく出来るし、うんどうも上手です。僕は自分よりもえらい友だちを大ぜいしていぢめるのは、男らしくないと思ひます。」-と結ばれる。
いじめがいつの世にもあることがうかがわれるが、ここで注目すべきは、被害者である中村君を諭していることだ。「日本の男は泣くものではない」という言葉は、現在のいじめ問題ではほとんど聞かれない。
現在は加害者のみを責め、被害者はもっぱら守られ、かばわれるばかりだが、弱者を励まし、鍛え、加害者に負けない強さを培う教育もまた重要な教育の一面ではないか。(植草学園大教授 野口芳宏)
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