毎日放送(MBS)


映像'12 毎月第3日曜日 24時50分~25時50分放送

映像'12

編集後記

東日本大震災にともなう福島第一原発の事故が起きて、7か月以上になります。
取材を始めたきかっけは、2008年3月の洞爺湖サミットで「原子力はCO2を出さない、未来のエネルギー」と宣言に盛り込まれたことに私自身が、違和感を持ったからです。そんな折、京大原子炉実験所の研究者たちと会い、アカデミズムという組織の中で生きながらも、信念を貫き通す姿に共感を覚えました。
そして2008年10月に「なぜ警告を続けるのか~京大原子炉実験所・“異端”の研究者たち」と題して、研究者たちを追った番組を制作しました。日本のエネルギー政策の中でも、とりわけ原子力発電のありかたについて問題を提起したことで、番組の役目は一応終わったはずでしたが、そうはなりませんでした。言うまでもなく3.11で、世界が一変したからです。
2008年の番組では、放送が原発問題についての議論のきっかけになればとの思いで制作しましたが、3.11後のいま、今後の日本のエルギー政策をどう展望していくかについては議論百出で、隔世の感があります。しかし、それは福島県をはじめとする地域の甚大な被害とひきかえであることを思うと、辛くやりきれません。
番組の主人公の一人、京大原子炉実験所の今中哲二さんは言います。
「サイエンスの土俵で出来ることは限られている。故郷を追われ、別の場所に移り住まなければならなくなった人々の怒りや悲しみは、サイエンスですくい上げることはできない」。まさに真理でしょうが、逆説的に言うと「自分はサイエンスの土俵で出来る限りのことをやる」というマニフェストとも解釈できるでしょう。
事態は現在進行形で、まだまだ予断を許しません。セシウム137の半減期は30年、闘いはこれからも長期にわたります。
いまの思いを今中さん風に言えば「自分はドキュメンタリーの土俵で出来る限りのことをやる」。状況が終わらない限り、取材も終わってはいけないと考えています。

次回予告

≫次回放送は9月16日 (日) 24時50分~25時50分

叶える ~落語家・笑福亭松喬とがん~

叶える ~落語家・笑福亭松喬とがん~

「映像'12」は、1980年4月に「映像80」のタイトルでスタートした関西初のローカル・ドキュメンタリー番組です。月1回、それも日曜日深夜の放送という地味な番組ながら、ドキュメンタリーファンからの根強い支持を頂いており、放送開始から30年が過ぎました。
この間、番組は国内外のコンクールで高い評価を受け、芸術祭賞を始め、日本民間放送連盟賞、日本ジャーナリスト会議賞、更にはテレビ界のアカデミー賞といわれる国際エミー賞の最優秀賞を受賞するなど、輝かしい成果を上げてきました。また、こうした長年にわたる地道な活動と実績に対して、2003年には放送批評懇談会から「ギャラクシー特別賞」を受賞しています。
これからも「地域に密着したドキュメンタリー」という原点にたえず立ちかえりながら、より高い水準の作品をめざして“時代を映す”さまざまなメッセージを発信し続けてまいります。