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(20時間6分前に更新) |
中国国家海洋局の海洋監視船6隻が14日朝、尖閣諸島(中国名・釣魚島)周辺の日本領海に相次いで侵入した。
民間漁船による領海侵入と違って、今回は一度に6隻の公船を投入しており、明確な国家意思を示すものだ。
現場では、第11管区海上保安本部の巡視船と中国の海洋監視船が、並走しながら、それぞれ相手の船に向かって退去を呼びかけるなど、緊迫した場面も見られたようだ。
抗議デモも中国各地に広がり、邦人が道ばたでラーメンをかけられるなどの嫌がらせも起きている。中国外務省は「中国全土が日本の誤った行動に憤っている」との見解を明らかにし、抗議行動を容認する姿勢を示した。
9月18日は、満州事変の発端となった柳条湖事件(1931年)が発生した日である。この日の前後に、抗議デモが上海、北京などの大都市に拡大する可能性がある。
中国農業省は、休漁期間が終わる16日以降、大量の漁船が尖閣沖に出航する予定であることを明らかにした。
日中対立は一段と深まった、と見なければならないだろう。
楽観論は禁物だが、いたずらに不安がったり、ことさら危機感をあおるのも慎まなければならない。
日本の巡視船と中国の海洋監視船の行動をみると、少なくとも14日の時点では、双方とも抑制的だ。
公船と公船がぶつかり、どちらかに被害が出れば、事態は一挙に悪化する。当面、偶発的衝突を避けることに全力を挙げなければならない。
気がかりなのは、日中両政府とも、重要な「政治の季節」を迎えていることだ。
野田佳彦首相は、民主党代表選や、「近いうちに」予定されている総選挙を意識して、「領土・領海の防衛に不退転の決意」で臨む考えを明らかにした。弱腰批判を避けたいとの配慮がにじむ。
民主党代表選や自民党総裁選の候補者たちが、有権者を意識して普段よりも1オクターブ高い声で「実効支配を強化せよ」と叫べば、中国の世論はこれに反発して1オクターブ高い声で「尖閣死守」を主張するだろう。
中国はこの秋、首脳部交代という極めて重要な政治日程を控えている。この時期に日中関係を悪化させるのは中国にとっても得策ではない。
しかし、反日デモが反政府デモに転化するのを防ぐため、より強硬な対日姿勢を取らざるを得ない状況に追い込まれる可能性がある。
現時点では、日中双方とも自分の立場を毅然(きぜん)として主張しつつ、一線を越えないよう、慎重な姿勢も見せている。
両政府は今のところ、それぞれが国内の状況を有効にコントロールしている、といえる。だが、コントロールしきれなくなったとき、どうなるのか。中国には、その懸念が消えない。政府がコントロールできないような事態は悪夢である。
両政府が大局的立場に立って冷静に行動することをあらためて要請したい。事態を沈静化させるための糸口を探ること―それが外交だ。