最新医学67巻1号 
特集糖尿病とその合併症の成因-最新の知見-

要  旨


座談会
糖尿病とその合併所の成因
-研究成果をどのように臨床に生かすか-

東京大学           門脇 孝 
旭川医科大学        羽田 勝計
国立国際医療研究センター 春日 雅人 (司会)

 座談会の内容
 ・糖尿病の発症メカニズム
 ・今後の糖尿病の治療戦略
 ・将来の治療の在り方 など 

 門脇先生       春日先生      羽田先生

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総論
ゲノムと2型糖尿病 ―GWAS による最新の知見―

原 一雄*   門脇 孝**
* 東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科 講師 ** 同教授

要  旨
 これまで 50 弱もの2型糖尿病や関連形質に関連する多型が全ゲノム関連解析で同定されてきた.大多数が欧米の民族を対象として見つかってきたが,日本人を対象とした解析では KCNQ1,UBE2E2,C2CD4A/B などが2型糖尿病感受性遺伝子として報告されている.今後は低頻度の多型も含めた関連解析やエピゲノム解析などの結果も統合することによって,新規の2型糖尿病感受性遺伝子の同定や,既知の領域についてのファインマッピングが進められていくことが期待されている.

キーワード
ゲノム、1塩基多型、関連解析、多因子病

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総論
エピゲノムと糖尿病

亀井康富*1*2 小川佳宏**1*3
*1 東京医科歯科大学難治疾患研究所分子代謝医学分野 特任教授 **1 同教授
*2 同難治疾患研究所臓器代謝ネットワーク研究部門 教授
*3 同グローバル COE プログラム 教授

要  旨
 細胞核内のクロマチン構造や染色体の構築の制御には,塩基配列の変化を伴わずに遺伝子発現を調節するエピゲノム修飾(DNA のメチル化やヒストンのメチル化・アセチル化など)が重要である.エピゲノム修飾はさまざまな疾患の発症に密接に関与し,特にがん発症におけるがん抑制遺伝子の DNA メチル化の役割について多く研究がなされている.糖尿病に関しても,エピゲノム修飾の関与を示唆する知見が得られている.

キーワード
DNAメチル化、ヒストン修飾、クロマチン構造、β細胞

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総論
Regulatory RNA と糖尿病

安田和基*
* 独立行政法人国立国際医療研究センター研究所糖尿病研究センター代謝疾患研究部 部長

要  旨
 ゲノム科学の進歩により新規の RNA が多数発見されている.特に,microRNA と呼ばれる小分子 RNA は,1つの分子が多くの mRNA の発現を制御し,また,長鎖ながら明らかなタンパク質をコードしない non-coding RNA は,エピゲノム制御を含む多彩な作用を有する.これら「機能性 RNA」と糖尿病・糖代謝とのかかわりはまだ断片的にしか理解されていないが,遺伝・環境相互作用など糖尿病の病態の本質にかかわる可能性もあり,今後の展開が非常に注目される.

キーワード
microRNA、non-coding RNA、エピゲノム制御、miR-375

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総論
メタボロームと糖尿病


山下 亮*1  曽我朋義**1  鏑木康志*2
*1 慶應義塾大学先端生命科学研究所 **1 同教授
*2 国立国際医療研究センター研究所糖尿病研究センター臓器障害研究部 部長

要  旨
 近年の分析技術の発達により,従来の1分子の測定から,数百から数千というオーダーの代謝物の一斉解析が可能となり,メタボロミクスという分野が急速に発展してきた.生体内の代謝産物の恒常性が破綻した状態とも言える糖尿病のような代謝性疾患において,代謝物の総体を把握できるメタボローム解析は強力な研究ツールとなると考えられる.本稿では,メタボローム解析手法と最新の糖尿病領域におけるメタボローム研究例を紹介する.

キーワード
メタボロミクス、メタボローム、バイオマーカー

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総論
臓器間シグナルネットワークと肥満/糖尿病


山田哲也*1*2 片桐秀樹**1*2
*1 東北大学大学院医学系研究科代謝疾患医学コアセンター代謝疾患学分野 准教授 **1 同教授
*2 東北大学病院糖尿病代謝科

要  旨
 生体が適切なエネルギー代謝を行うためには,全身のエネルギー収支を的確に把握し,個体を構成する臓器の相互作用を調整する必要がある.肥満症やそれに合併する糖尿病は,精妙に調整されている臓器間相互作用が破綻した状態とも言える.脳はエネルギー代謝の協調的な調節において中心的な役割を果たしている.液性因子[栄養素(ブドウ糖,脂肪酸,アミノ酸)やアディポサイトカインなど]や自律神経求心路によって,代謝情報は脳に入力され統合される.そして,脳は入力された情報を処理し,さまざまな反応を個体に起こしてエネルギー・糖代謝の恒常性を維持している.

キーワード

脂肪組織、肝臓、脳、臓器間相互作用、自律神経、末梢神経求心路

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各論
1型糖尿病の成因とその予防・治療への応用

能宗伸輔*   池上博司**
* 近畿大学医学部内分泌・代謝・糖尿病内科 講師 ** 同主任教授

要  旨
 自己免疫性1型糖尿病は,膵島炎により膵β細胞の絶対量が減少していく疾患であり,発症すればインスリン治療の継続が不可欠となる.この難病の究極の治療目的は,β細胞破壊を引き起こす膵島炎を未然に防ぐこと,あるいはいかにβ細胞量の減少を最小限に抑制するかということである.そのために,現在 TrialNet や Immune Tolerance Network を中心に,免疫療法の臨床試験が進行しつつある.本稿では,現在行われている1型糖尿病の発症予防や進展阻止を目的とした臨床試験を中心に概説する.

キーワード
1型糖尿病、成因、治療、環境因子、免疫療法

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各論
2型糖尿病における膵β細胞不全のメカニズム



佐藤光一郎*   寺内康夫**
* 横浜市立大学大学院医学研究科分子内分泌・糖尿病内科学 ** 同教授

要  旨
 2型糖尿病における膵β細胞不全には,膵β細胞の機能障害と膵β細胞量の低下が関与している.膵β細胞の機能障害は,グルコキナーゼやミトコンドリアを介するグルコース代謝の障害によって生じる.膵 β細胞量の調節にはグルコキナーゼやインスリンシグナルが関与している.膵β細胞の機能障害や量の低下を改善する薬剤の開発が進んでいる.

キーワード
膵β細胞機能障害、膵β細胞量、膵β細胞量調節薬

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各論
肥満・糖尿病におけるインスリン抵抗性のメカニズム
―肝臓を中心に―

笹子敬洋*   植木浩二郎**  門脇 孝***
* 東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科 ** 同准教授 *** 同教授

要  旨
 肝臓での糖脂質代謝は,摂食時には異化,絶食時には同化に傾き,インスリンは前者を抑制し,後者を促進する.肥満・糖尿病では,脂肪細胞からのアディポカインの分泌パターンが変化し,種々の機序を介して肝臓でのインスリン抵抗性が惹起される.これに伴う高インスリン血症は,他臓器でもインスリン抵抗性の原因となる.このように肝臓を中心とした悪循環が全身に波及することが,全身のインスリン抵抗性を考えるうえで重要である.

キーワード
インスリン抵抗性、高インスリン血症、インスリン受容体基質、アディポカイン

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各論
糖尿病細小血管症の成因とその予防・治療への応用

金崎啓造*   古家大祐**
* 金沢医科大学糖尿病・内分泌内科学 講師 ** 同教授

要  旨
 糖尿病細小血管症の成因・予防・治療に関する基礎的研究がなされてきた.そのような基礎的研究の結果,新しい分子標的も見いだされ,今後それらを用いた糖尿病細小血管症に対する新規治療戦略がますます充実していくものと考えられる.新しい治療戦略を使いこなしトランスレーショナルリサーチを実行するためには,病態生理に対する理解のみならず,基本的な分子生物学的知識もまた必要な時代になってきている.

キーワード
血管新生異常、血管内皮由来増殖因子、レニン・アンジオテンシン系阻害薬、
アンジオテンシンU受容体拮抗薬、アンジオテンシンT変換酵素阻害薬

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各論
糖尿病大血管症の成因とその予防・治療への応用

岡山かへで*   綿田裕孝**
* 順天堂大学内科学・代謝内分泌学 ** 同教授

要  旨
 糖尿病患者は非糖尿病患者と比較し,大血管障害の発症率が高く,予後不良である.糖尿病患者が増え続ける現代において,大血管症の予防は大変重要と考えられる.大規模試験の結果から,血糖コントロールを含めた総合的な介入による大血管障害の予防の可能性が示されており,それぞれの危険因子に対し,早期軽症からの長期的な治療が必要である.

キーワード
糖尿病、動脈硬化、食後高血糖、インスリン抵抗性

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特集トピックス
胎内環境と2型糖尿病

淺原俊一郎*1  木戸良明*2
*1 神戸大学大学院医学研究科糖尿病・内分泌内科学
*2 同保健学研究科病態解析学領域分析医科学分野 教授

要  旨
 2型糖尿病の発症要因としては,以前から遺伝因子と環境因子が重要であることが知られていた.近年になって,2型糖尿病をはじめとしたメタボリックシンドロームの発症に胎内環境が重要な役割を担っていることが明らかとなり,注目を集めている.胎生期における栄養状態が将来的な2型糖尿病を発症させるメカニズムについても,動物モデルを用いた実験によって少しずつ分かってきた.胎内環境と2型糖尿病発症の関係が明らかになれば,将来において診断や治療といった臨床応用に繋がることも期待される.

キーワード
2型糖尿病、低出生体重マウス、エピジェネティクス、Barler仮説、レプチンサージ

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特集トピックス
インクレチンと糖尿病の発症

清水辰徳*   山田祐一郎**
* 秋田大学大学院医学系研究科内分泌・代謝・老年内科学 ** 同教授

要  旨
 インクレチンとは,食事摂取により小腸から血中に分泌され,膵β細胞の受容体に作用し,インスリン分泌を促進するホルモンの総称である.2型糖尿病患者ではインクレチンによるインスリン分泌作用が低下している.GIP,GLP-1 ともに健常人とほぼ同等の分泌をしているものの,GIP によるインスリン分泌作用は低下していることから,GIP 受容体の量的・質的異常が糖尿病の発症・進展に関与している可能性がある.

キーワード
GIP、GLP-1、GIP受容体

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特集トピックス
糖尿病合併症抑制における Legacy Effect

熊倉 淳*   小田原雅人**
* 東京医科大学内科学第三講座(糖尿病・代謝・内分泌内科) ** 同教授

要  旨
 Legacy Effect とは,早期から厳格な血糖コントロールを行うことで,長年にわたって細小血管合併症,心筋梗塞,総死亡のリスクを低下させることができるという現象であり,UKPDS で示された.最近では,包括的治療による Legacy Effect,スタチン治療による Legacy Effect の報告もあり,早期からの包括的な治療の重要性が示唆されている.血圧に関しては Legacy Effect はなく,生涯にわたる血圧管理が必要である.

キーワード
EDIC、UKPDS、Steno-2、ASCOT-LLA

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連載
現代社会とうつ病

  現代社会において問題となっております「うつ病」について病気そのものの解説、法、サポート体制などを連載形式で詳しく紹介する目的で連載「現代社会とうつ病」を企画致しました。
 今号から約3年間にわたり国内の診療・研究の最前線でご活躍されている先生方に「うつ病」について詳しくご解説をお願いしております。

 第9回は熊本大学・池田 学 先生による「うつ病と認知症」です。

要  旨
 老年期の精神疾患の中で,うつ病と認知症は最も重要な疾患であり,有病率からいっても common disease と言うことができる.老年期うつ病には,器質性の変化や老年期特有の心理・社会的背景,身体合併症などによる,若年者のうつ病には見られない特徴がある.一方,初期の認知症にはしばしば抑うつ状態の合併が認められる.また,アルツハイマー病発症の危険因子としてのうつ病の既往も注目されている.

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連載
臨床研究のススメ

 これまで我が国では臨床研究に対する評価はそれほど高いものではなく、諸外国に比べて大きな成果を上げるのが難しい状況でした。最近になってようやく臨床研究が評価されつつあるものの、日本以外のアジア諸国の台頭もあり、我が国の臨床試験の遅滞状況は危機的なものとなっております。
 そこで、この度、臨床研究とはどの様なもので、何に基づき、何をどの様にやらなければならないかをご紹介する目的で先端医療推進財団・理事長 井村 裕夫 先生にご監修頂き「臨床研究のススメ」を企画致しました。
 第9回は東京大学・杉山 雄一  先生に「マイクロドース臨床試験を活用した革新的創薬技術の開発:我が国の経験」と題してご解説をお願いしました。


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連載
トップランナーに聞く(第13回)
PETを用いた脳核医学や甲状腺がんに対する研究

 「最新医学」では第66巻からの新企画として「トップランナーに聞く」と題し、最先端の研究をされている40歳前後の先生のインタビューを掲載します。
 第13回は核医学診断・治療をご専門とされ、脳核医学や甲状腺がんの領域で幅広い研究をされている北海道大学の志賀 哲 先生にお話を伺いました。

 志賀 哲 先生

 核医学診断・核医学治療全般が専門ですが、特に脳核医学、甲状腺がんに対する内照射を大学で担当しています。大雑把に言えば首から上に関する事をやっております。脳核医学の中では頭部外傷後、部分てんかん、脳血管障害の核医学検査を担当しており、日立製作所と半導体PET・SPECT装置の共同開発も行っています。

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トピックス
次世代シーケンサーを用いた日本人の全ゲノム配列の決定と遺伝的多様性の包括的解析

藤本明洋*   中川英刀*   角田逹彦**
* 理化学研究所ゲノム医科学研究センター ** 同チームリーダー


要  旨
 我々は,次世代シーケンサーを用いて日本人1個体の全ゲノム配列を決定した.1塩基多様性の検出を行い,すでに公開されている6個体全ゲノムデータと比較を行った.コピー数多型,中間サイズの欠失,逆位・転座の検出を行い,実験的確認を行った.また,標準配列に存在しない新規配列の検出を行った.我々の結果は,次世代シーケンサーを用いた全ゲノム解析による遺伝的多様性の包括的解析が可能であることを示している.


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特報
アミロイド蓄積開始機構の解明と治療薬開発への展開

柳澤勝彦*1  松崎勝巳*2  加藤晃一*3
*1 国立長寿医療研究センター 認知症先進医療開発センター長
*2 京都大学大学院薬学研究科薬品機能解析学分野 教授
*3 自然科学研究機構岡崎統合バイオサイエンスセンター生命環境研究領域生命分子研究部門 教授


Summary
Clarification of the molecular mechanisms underlying the initiation of assembly of any amyloidogenic proteins is essential for developing disease-modifying drugs. Accumulating evidence suggests that misfolding of a given protein is driven by point mutation(s) or by the presence of environmental factors favorable for amyloidogenesis. Various human amyloidoses are caused by the partial folding of natively unfolded proteins, including the amyloid β-protein in Alzheimer disease (AD), α-synuclein in Parkinson disease and amylin, also referred to as human islet amyloid polypeptide (hIPP), in type-U diabetes mellitus. Notably, these natively unfolded proteins adopt the structure of α-helix-rich intermediates prior to their conversion to β-sheet-rich amyloid fibrils. Thus, it is crucial to determine how these proteins pathologically acquire α-helix and then β-sheet structures. We previously examined autopsied brains including AD brains and found a unique Aβ species, which was characterized by its tight binding to GM1 ganglioside, specifically in the membrane fractions prepared from human brains in the early stage of AD. On the basis of the molecular characteristics of the ganglioside-bound Aβ (GAβ), we hypothesized that Aβ adopts an altered conformation through its binding to GM1, and then initiates Aβ assembly into fibrils by acting as an endogenous seed in the brain. To date, our series of studies on GAβ have revealed that first, GAβ has an α-helix-rich structure that is distinct from those of soluble, monomeric Aβ and Aβ assembled into amyloid fibrils; second, GAβ is favorably generated in the lipid-raft-like membrane microdomains; and third, the alterations of the lipid composition of the membrane microdomains likely occur in association with AD-related risk factors such as aging and expression of apolipoprotein E4. Furthermore, we have recently succeeded in detailed conformational characterization of Aβ in the presence of GM1 ganglioside by 920 MHz ultrahigh-field NMR analyses. To apply our findings of GAβ to the development of disease-modifying drugs for AD, we have performed molecular dynamics analysis of the interaction between Aβ and the sugar chain of GM1. On the basis of the successfully defined GAβ structure, we have completed virtual screening from chemical libraries containing 450 millions druglike compounds. We have also succeeded in the establishment of the wet screening system, which is applicable to high-throughput screening. Currently, the further screening of 300 compounds, which were selected by virtual screening, is in progress.

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