SAO:デスゲームで少年はどう生きる――― (犠牲者)
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一応言っておきますがオリジナルスキルもありますのであしからず
第二話:チュートリアル=デスゲーム開始
『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ』
低く、周囲に響き渡る男の声が、頭上から放たれる。
“私の世界”――あの存在が
赤いローブは両腕を下ろしながら続けて声を発する。
『私の名前は茅場晶彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ』
「!?」
僕はその名を知っている。いや、このゲームをやっているプレイヤーの大半は知っているはずだ。
数年前まで弱小ゲーム開発会社である《アーガス》を一気に大手にした天才ゲームデザイナーにして量子物理学者でナーヴギアを作りあげた天才。僕もプログラミングの仕事をしている親戚から手伝いとかでよく耳にしたことはある。
だが、彼は極力人前に出ることを嫌っていて、メディアや雑誌で姿を見せる事は極稀だった 。しかし彼に憧れる人間が居ない訳がなく、ネットでは彼の事に関する記事が幾つも存在していた。
だからこそ分からなかった。何故彼がこうして自分達の眼前に現れ、この様な言葉を言っているのか。
『プレイヤー諸君は、すでにメインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気付いていると思う。しかしゲームの不具合ではない。繰り返す。これは不具合ではなく、《ソードアート・オンライン》本来の仕様である。故に、諸君は今後この城の頂を極めるまで、ゲームから自発的にログアウトすることはできない』
仕様…!?それに城の頂…?突然のことで頭の回らない状態でその意味が分からず、茅場の言葉を聞いている。
『……また、外部の人間の手による、ナーヴギアの停止あるいは解除も有り得ない。もしそれが試みられた場合――』
僅かな間―――
全プレイヤーが固唾を呑む、限りなく重苦しい雰囲気の中、その言葉はゆっくりと発せられた。
『―─ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが、諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる』
「……ッ…!?」
生命活動の停止――すなわち、死を意味とする事に僕は呆然としていた。
たしかにナーヴギアは稼働する為に大容量のバッテリーが内部に埋め込んでいると聞いた事がある。もしそれが一気に出力された場合、人間の脳を焼き尽くす事等容易い事だ。
周りのプレイヤーは恐怖と不安でざわつき始める。そんな中、茅場のアナウンスは続く。
『より具体的には、十分間の外部電源切断、二時間のネットワーク回線切断、ナーヴギア本体のロック解除または分解または破壊の試み──以上のいずれかの条件によって脳破壊シークエンスが実行される。この条件は、すでに外部世界では当局及びマスコミを通して告知されている。ちなみに現時点で、プレイヤーの家族友人等が警告を無視してナーヴギアの強制除装を試みた例が少なからずあり、その結果』
そこでアナウンスに一呼吸が入る。
『──残念ながら、既に二百十三名のプレイヤーが、アインクラッド及び現実世界からも永久退場している』
どこかで細い悲鳴が上がった。茅場の言葉どおりなら二百十三名のプレイヤーがすでに死んでしまい残るプレイヤーは九千七百八十七人になってしまったということになる。そう考えると背筋に強烈な寒気を感じた。そしてその後に怒りが沸いた。茅場の言葉ではない。警告を無視した者達に。そいつ等がその警告を無視しなければ少なくとも今はまだ生きていられたのだから、つまり彼らはこのサバイバルに参加することすらできずに散って逝ったのだ。
すべてのプレイヤーが真っ青な顔に変わると茅場の言葉は再開される。
『諸君が、向こう側に置いてきた肉体の心配をする必要は無い。現在、あらゆるテレビ、ラジオ、ネットメディアはこの状況を、多数の死者が出ている事も含め、繰り返し報道している。諸君のナーヴギアが強引に除装される危険は既に低くなっていると言ってよかろう。今後、諸君の現実の身体は、ナーヴギアを装着したまま二時間の回線切断猶予時間のうちに病院その他の施設へと搬送され、厳重な介護態勢のもとに置かれるはずだ。諸君には、安心して……ゲーム攻略に励んでほしい』
「ゲーム攻略だと……!?」
こんなヤバイ状態で呑気に遊べと、こいつは言っているのか!?
未だ上手く回らない頭でそんな事を考えていた。だが、その認識は間違いであるとすぐに分かった。
『しかし、充分に留意してもらいたい。諸君にとって《ソードアート・オンライン》は、既にただのゲームではない。もう一つの現実と言うべき存在だ……今後、ゲームにおいて、あらゆる蘇生手段は機能しない。ヒットポイントがゼロになった瞬間、諸君のアバターは永久に消滅し、同時に』
その言葉で茅場が次に言いたいのか容易に頭に浮かぶ。
『諸君らの脳は、ナーヴギアによって破壊される』
予想通りで、最悪の答えだった。つまり、視線左上に見える青いHPバーがゼロとなった時、現実で装着されているナーヴギアによって脳は高出力マイクロウェーブによって即死する、茅場はそう言った。
『諸君がゲームから解放される条件は、たった一つ。先に述べたとおり、アインクラッドの最上部、第百層まで辿り着き、そこに待つ最終ボスを倒してゲームをクリアすればよい。その瞬間、生き残ったプレイヤー全員が安全にログアウトされることを保証しよう』
この場にいる全員が静まった。
僕は、ここでようやく茅場が最初に言った城の頂という意味が分かった。城とは、自分達がいるこの場を含む浮遊城、アインクラッドを指していた。
だが、稼動実験として先行して行われたβテストではそんなに上がれなかったという話を僕は知っている………僕は探索ばかりしていたからそもそも上がる気がなかったが……だが、そんなところを一度も死なずに百層まで上がるとしたらどれくらいの日数がかかることやら分かったものではない。
周りのプレイヤーも同様のことを考えたのか今までこの場に広がっていた静寂は恐怖や不安によって打ち消されていく。
『それでは、最後に、諸君にとってこの世界が唯一の現実であるという証拠を見せよう。諸君のアイテムストレージに、私からのプレゼントが用意してある。確認してくれ給え』
その言葉と共に皆一斉にメニューウィンドウを開く。僕も同様にプレゼントとやらを確認するためにメニューウィンドウを開く。表示されていたアイテムは《手鏡》……
このプレゼントの意味が分からず、オブジェクト化する。きらりきらりという効果音と共に四角形の手鏡が現れた。
それを手にして見るが映っているのは数時間前に創り上げたキャラクターアバターである短髪黒髪黒目の《レン》だけ。だが突然、周りに居るプレイヤーの顔が白い光に包まれ、僕の視界も一瞬ホワイトアウトする。
そこに居たのはさっきまでの黒髪黒目の人物ではなく青みを帯びた腰まで伸びる長い黒髪、………よく女の子に見間違われる……というより女の子にしか見えないといわれるこの顔と男にしては低い身長………
「僕だ……」
そこに映っていたのはまごうことなき現実での僕自身の顔だった。周りのプレイヤーもキャラクターめいたアバターから現実の顔になっている。
「なるほど。これが、もう一つの現実ということか……」
声もボイスエフェクトが停止して、いつもの男とも女とも取れる声になっている。
もはや、この世界の身体は自分自身のもう一つの身体だと言う事は受け入れざるを得ないようだ。
「しかし問題は、なぜこんなことをするのかだけど……」
小さく呟きながら視線を赤いローブに戻すと茅場は予想通りの事を話し出した。
『諸君は今、なぜ、と思っているだろう。何故私は──SAO及びナーヴギア開発者の茅場晶彦はこんなことをしたのか?これは大規模なテロなのか?あるいは身代金目的の誘拐事件なのか?と』
その時、気のせいかもしれないが少しだけだが茅場の言葉に感情の欠片が見えた気がした。
『私の目的は、そのどちらでもない。それどころか、今の私は、既に一切の目的も、理由も持たない。なぜなら……この状況こそが、私にとっての最終的な目標だからだ。この世界を作り出し、観賞するためにのみ私はナーヴギアを、SAOを造った。そして今、全ては達成せしめられた』
一拍置いて、また感情の薄い茅場の声が響く。
『……以上で《ソードアート・オンライン》正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君の──健闘を祈る』
その言葉を最後に、ローブの巨人は消え、薄暗くなっていた空は夕暮れの赤さを取り戻し、いつの間にか消えていた楽団のNPCがどこからか再び現れ、BGMが聴こえてきた。
そして―――
「嘘だろ……なんだよこれ、嘘だろ!」
「ふざけるなよ!出せ!ここから出せよ!」
「こんなの困る!このあと約束があるのよ!」
「嫌ああ!帰して!帰してよおお!」
悲鳴、怒号、絶叫、罵声、懇願、咆哮、そのすべてがこの中央広場を包んだ。
そんな中で僕はやけに落ち着いていた、茅場が語った事は全て事実だとすぐに受け入れる事が出来た。こんな今までどのゲームデザイナーが夢見て挫折したこの世界を創り上げた天才と言われるあの男ならこのくらい出来るはずだ。
そして……
「生きて帰るには強くならなければならない……そういうことか………フフ…なら今までと何も変わらないな………親戚に強引にβテストをさせられて、暇つぶしにこれをやってみたけど……面白い…この方が僕の性にあっている。腕も鈍らず……いや身体は動かせないから起きたら確実に鈍っているけど。それでも勘は鈍らないだろう。」
ここでの死が現実の死となるデスゲームだとしてもこれはRPGゲーム。如何に現実世界での経験があるといってもモンスターを倒してレベルを上げなければ何も始まらない。そして、この混乱が落ち着けばこのはじまりの街周辺のモンスターはレベル上げをするプレイヤーによって刈り取られる可能性がある。いや九分九厘そうなるだろう。なら、ここを離れて別の場所を拠点にする必要がある。
「まずはここ以外の拠点を見つけないといけないかな……それにアレも使ってみたいし」
小さく呟いた僕は今も荒れ狂う人垣の中を出て、少しでも情報を持っているだろうNPCを探す事を始めた。僕はこの世界がβテスト時とは違うことをすでに知っている。ならまずは情報収集を始めなければ。
こうして、自身の命を賭けたデスゲーム《ソードアート・オンライン》の幕が切って落とされた
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