日本の漁業は崖っぷち

漁業 「環境の変化」という魔法の呪文 ウナギ激減に無自覚な加害者・日本人
あたかも被害者であるような誤解

片野 歩 (かたの・あゆむ)  株式会社マルハニチロ水産

1963年東京生まれ。早稲田大学商学部卒。マルハニチロ水産・水産第二部副部長兼凍魚課課長。1995~2000年ロンドン駐在。 90年より、最前線で北欧を主体とした水産物の買付業務に携わり現在に至る。特に世界第2位の輸出国として成長を続けているノルウェーには、20年以上、毎年訪問を続け、日本の水産業との違いを目の当たりにしてきた。中国での水産物加工にも携わる。著書に『日本の水産業は復活できる!』(日本経済新聞出版社)、「ノルウェーの水産資源管理改革」(八田達夫・髙田眞著『日本の農林水産業』<日本経済新聞出版社>所収)。

日本の漁業は崖っぷち

成長する世界の水産業の中で、取り残されてしまっている日本。潜在力はありながらも、なぜ「もうかる」仕組みが実現できないのか。海外の事例をヒントに、解決策を探る。

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資源管理を自画自賛する日本

 7月に来日したEUの海事漁業大臣は、「資源が減少していく中、漁業者はもっと多くの魚を獲ろうとする。負の連鎖を断ち切るためには個別割当て(ITQ)が必要」と説きました。一方で、同白書では「我が国は政府と地元の国の漁業が水産資源の管理責任を共同で担い、両者の話し合いを通じて操業規制等を策定する資源管理方式であり、世界的にみても政府と地元の共同管理の先取りというべきもの」と自画自賛する内容が記載されています。

 しかしながら、ごく一部の例外を除いて、水産管理を共同管理することは、極めて難しいのです。資源管理を、話し合いを通じて行う場合、前述のように少しでもたくさん獲りたい漁業者の意識が、当然反映されてしまいます。そして政府側が「漁業者から魚をこれ以上獲るな!」といっても「我々の生活は一体全体どうしてくれるのだ!!」といわれ、結局は、経済的な要因に留意して獲らせてしまい、悪循環を繰り返していくのです。波風を立てず問題先送りをしていくことの方が楽なのでしょう。

 前述のEU海事・漁業担当大臣は「私たちに必要なのは資源の持続可能性に基づく新政策。本当に必要なのは変化」と語っています。日本には、正しい方向に持っていくためのリーダーシップが足りないことも気になるところです。残念なことに、減少を続ける資源が、その明確で客観的な証拠となっているのです。

資源回復に成功 補助金も減らすノルウェー

(図2)ノルウェーの補助金推移 (出所:ノルウェー統計局)
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 (図2)は、水揚げ減少の主因を「乱獲」と見定めたノルウェーが、資源回復に成功する一方で、補助金を大きく減らして来ているグラフです。皮肉にもこのグラフは、日本が様々な水産資源を減らしてきた推移(図3)によく似ています。ここでは例としてキチジ(キンキ)をあげていますが、同じパターンの魚種が多いというのが実態です。

 ノルウェーでは、水産資源が回復して補助金がなくなり、漁業者は儲かり豊かな暮らしをしています。一方で、日本では、儲からない上に、水産資源が減少していくので、補助金を増やしていかねばならない状況です。悲惨としか言いようがありません。

(図3)ノルウェーの補助金の推移に類似する、日本のキチジの漁業種類別漁獲量の推移。資源減少がよく分かる (出所:農林水産省「漁業・養殖業生産統計」 日本政策金融公庫作成)
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 補助金についてアイスランド側とも話をしたことがあります。アイスランドの漁業者にとって漁業で「補助金をもらう?」ということ自体が驚きでした。アイスランドにとっても、漁業は儲かる仕事です。アイスランド政府は、もうかっている漁業に対して課税を強化する考えで、これに対して漁業者から大きな反対が起きているところです。

 これまでの執筆記事で、如何に拡大を続ける世界の水産業の潮流と日本のそれとの違いをご説明してきました。資源減少理由に関する意識の違いは、明確にされなければなりません。「資源管理」の概念が大きく欠落しているものが多い、マスコミの報道の仕方にも大きな問題があるのです。

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片野 歩(かたの・あゆむ)

株式会社マルハニチロ水産

1963年東京生まれ。早稲田大学商学部卒。マルハニチロ水産・水産第二部副部長兼凍魚課課長。1995~2000年ロンドン駐在。 90年より、最前線で北欧を主体とした水産物の買付業務に携わり現在に至る。特に世界第2位の輸出国として成長を続けているノルウェーには、20年以上、毎年訪問を続け、日本の水産業との違いを目の当たりにしてきた。中国での水産物加工にも携わる。著書に『日本の水産業は復活できる!』(日本経済新聞出版社)、「ノルウェーの水産資源管理改革」(八田達夫・髙田眞著『日本の農林水産業』<日本経済新聞出版社>所収)。

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