日本の漁業は崖っぷち

漁業 「環境の変化」という魔法の呪文 ウナギ激減に無自覚な加害者・日本人
あたかも被害者であるような誤解

片野 歩 (かたの・あゆむ)  株式会社マルハニチロ水産

1963年東京生まれ。早稲田大学商学部卒。マルハニチロ水産・水産第二部副部長兼凍魚課課長。1995~2000年ロンドン駐在。 90年より、最前線で北欧を主体とした水産物の買付業務に携わり現在に至る。特に世界第2位の輸出国として成長を続けているノルウェーには、20年以上、毎年訪問を続け、日本の水産業との違いを目の当たりにしてきた。中国での水産物加工にも携わる。著書に『日本の水産業は復活できる!』(日本経済新聞出版社)、「ノルウェーの水産資源管理改革」(八田達夫・髙田眞著『日本の農林水産業』<日本経済新聞出版社>所収)。

日本の漁業は崖っぷち

成長する世界の水産業の中で、取り残されてしまっている日本。潜在力はありながらも、なぜ「もうかる」仕組みが実現できないのか。海外の事例をヒントに、解決策を探る。

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魚が減った主因に対する大いなる誤解

(図1)水産資源の状況と資源減少の原因(漁業者意識) (出所:水産白書・平成23年版)
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 水産白書(平成23年版)に、水産資源の状況に関する漁業者の意識調査の結果が公表されています(図1)。実に87.9%の方が資源は減少していると回答しています。日本の水揚げは1984年の1,282万トンをピークに右肩下がりに転げ落ちて減少を続けており、2010年には531万トンにまで減少していますので、客観的にそれが事実であることがわかります。

 問題はその原因に関する回答結果です。減少の最大の原因(51.5%)は、「水温上昇等の環境の変化により、資源が減少している」と考えられており、二番目の原因(30.2%)として「過剰な漁獲により資源が減少していると」という結果が出ています。筆者は、資源が減った原因に関するこれらのデータが出る背景に、日本の水産業を衰退させてきた原因が隠れていると考えています。

 「環境の変化」という魔法の呪文は、資源問題を考える上で、非常に危険なのです。この呪文を唱えるとあたかも、どうしようもできない別の不可抗力が存在し、それが原因で資源が衰退してしまうため「仕方がない」「どうしようもない」という錯覚に陥ってしまうのです。

 実際は「乱獲」で魚がいなくなっているのに「環境の変化」が原因ということになれば、乱獲をしている「加害者」が、魚が獲れなくなって気の毒な「被害者」に変わってしまうのです。漁業者と乱獲されている魚を食べてしまう日本人が加害者なのですが、加害者の一方である漁業者にこのまま「補助金」を支給していけば、漁業は単に衰退を続けていくことになります。まさに、水産業を復活させるどころか、逆の処方箋を出しているのです。

 これでは、天変地異でも起こらない限りうまく行きません。仮に天変地異が起こって一時的に資源が回復しても、また同じ過ちを犯し続けてしまうでしょう。

科学的根拠よりも経済的な面を考慮

 水産白書(平成23年版)に、「資源管理のもたらす効果」という以下の記載があります。

 「資源管理によってもたらされる効果は、資源そのものの維持・増大に限られるものではありません。水産資源は、漁業という産業に利用されることから、漁業の経済収益性や、漁業従事者の雇用の維持や所得の確保など、経済的、社会的要素も資源管理の効果として想定されます。このため、資源管理を実施するに際しては、こうした他の要素にも留意する必要があります」

 資源管理の基本である「科学的な根拠」ではなく、禁じ手とも言える「経済的」な面を考慮しての運用の必要性が説かれています。

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著者

片野 歩(かたの・あゆむ)

株式会社マルハニチロ水産

1963年東京生まれ。早稲田大学商学部卒。マルハニチロ水産・水産第二部副部長兼凍魚課課長。1995~2000年ロンドン駐在。 90年より、最前線で北欧を主体とした水産物の買付業務に携わり現在に至る。特に世界第2位の輸出国として成長を続けているノルウェーには、20年以上、毎年訪問を続け、日本の水産業との違いを目の当たりにしてきた。中国での水産物加工にも携わる。著書に『日本の水産業は復活できる!』(日本経済新聞出版社)、「ノルウェーの水産資源管理改革」(八田達夫・髙田眞著『日本の農林水産業』<日本経済新聞出版社>所収)。

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