インフィニット・ストラトス~孤独な銀の王~ (89R)
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第2話 『赤い髪の少女と白い髪の少女』



「!?」

その時私は人が倒れている事に驚いてゴミ袋を落とした。落としたゴミ袋も気にしないで倒れている人に近づく。

銀色の長い髪,顔は美形の一言だった。私はついついその顔に見とれてしまった。
どうやら気を失っているようだ。それに,なんだろうこの服? コスプレ?


「そんなこと考えてる場合じゃない。お(にい)急いで裏に来て!」
「どうしたんだ蘭・・・・・・!?」


裏口から蘭と同じ赤い髪の少年が出てくる。
蘭の兄である五反田 (だん)は妹の近くに倒れている少年を見て言葉を失う。

弾は震えながら妹を指差し叫んだ。


「お前・・・・・・とうとう殺っちまったのか!」


その瞬間弾が吹き飛ぶ。


「そんなわけないでしょ!! いいからこの人運ぶの手伝って」
「正気か! そいつを家に入れるのか,見るからに怪しい奴だぞ」
「いいから! お爺ちゃんとお母さんには,私から言っておくから」
「う~ん・・・・・・わかった」


弾と蘭は,少年を左右から肩を支えるようにして裏口から入っていく。





▽△▽△▽△▽△






そこは黒い世界だった。
見渡す限り黒,黒,黒。空も地面も。


「ここはいったい何処だ?」


自分はなぜこんな所にいるんだ。
何も思い出せない。


「ここは,貴方の心の中よ」
「!?」


後ろから突然声が聞こえ振り返る。
そこには,白い,真っ白な髪の毛を左右でまとめ,黒いリボンで結んでいる。手に赤い傘を持ち黒いワンピースを着て,同じく黒い革靴を履いている少女がいた。

真っ赤な瞳が僕を見つめていた。


「まったく貴方は無茶ばかりして」


その少女は優しく微笑む。


「もっと自分を大切にしなさい,ライ」
「ライ? 僕の事なのか,それに君は誰?」
「覚えてないの・・・・・・・?」


少女のから笑顔が消え悲しみに染まる。

自分の胸が締め付けられるよな痛みが走る。その時,黒ばかりの世界に光が差し込んでくる。


「そろそろ時間ね・・・・・・」
「え?」


少女の言っている意味がわからなかった。


「ライ,信じてるから。貴方は必ず思い出してくれる。また,会いましょう」
「待ってくれ!」


少女に手を伸ばすが手が届く前に少女は消えてしまった。










目を開けるとまた暗闇だった。
窓から差し込む月明かりに照らされてうっすら見えるのは、木製のフローリングの床と、清潔な雰囲気を醸し出している白地の壁。


暗闇に慣れてきた目をこらしてよく見ると、部屋の一角にけっして大きくないテレビとゲーム機らしきものが置かれている。

ここはいったい何処なんだ・・・・・・。

僕が体を起こした所で部屋の扉が開き赤い髪に大きなバンダナを巻いた女の子と目が合う。
綺麗な髪の色だと思った。


「よかった~。目が覚めたんですね。ちょっと待っててください今みんなを呼んできます」


どうやらこの子が僕を看病していてくれたのだろう。タオルと氷水の入った容器を持っている。


「みんな?」
「私の家族です」





△▽△▽△▽△▽△







日はすっかり沈んで,外には他の家の窓から漏れる明かりや街頭の明かりがぽつぽつと輝いている。
お兄の部屋に寝かせたこの人を、今私が看病している。
拘束服のようなものはお兄が着替えさせてくれたので,私は体中の擦り傷や切り傷に消毒液を塗って,
絆創膏を貼ったりと傷口の手当てをした。疲れが出たのか熱まで出てきたので,汗を拭いて濡れタオルをおでこに乗せる。

看病の最中、私は何度となく目の前で眠る彼の顔を覗き見る。綺麗な顔だと思った。
余計なお肉が1gもついていないその顔はとても均整がとれていて,銀色の長い髪が神秘的だ。外国人なのかな? 正直,とてもかっこいいと思った。


だけど目の前の端正な顔立ちは、さっきから苦悶に歪んでいる。熱のせいで苦しいのもあるんだろうけど,たぶんそれだけじゃないと思う。



そうして,もう何度目になるだろう。彼の顔に張り付いた絶え間なく滲む汗を拭き取った。そこで彼が寝返りをしたことで,おでこに乗っていたタオルがずれ落ちてしまった。そのタオルを濡らそうとして,容器に入っていた氷水がすっかりぬるくなっていることに気付いた。


(氷水、作ってこないとね)


本当はずっと一緒にいてあげたいけど,それだと氷水が作れない。

私はそっと立ち上がって,水の入った容器を持って音を立てないように扉まで向かう。そして,くるっと振り向いて,彼が起きないように声のボリュームを低くして……。


「ちょっと出てきますけど,すぐ戻ってくるので待っていてくださいね」


と,囁くように断りを入れた。


私は彼が起きていないのを確認してから,電気を消して静かに扉を閉めた。


彼が起きないように注意しながら階段を下りて,食堂に入る。明日の準備中なので店内にお客さんはいない。彼はもう1日も眠り続けている。

食堂にいるのは明日に向けての仕込みをしているおじいちゃんと後片付けをしているお母さんとお兄。丁度家族全員がそろっている。

最近は仕事帰りのサラリーマンが多いので,夜遅くまで店を開けなくちゃいけない。お爺ちゃんも大変だ。当然,店を手伝う私も大変なのだけど。

私に気付いたお兄は,まるでトマトみたいに赤く腫れた顔を向けて,彼のことを尋ねてくる。


「よう,蘭・・・・・・。あいふ,目を覚ましたふぁ? 1日も眠っているから気になってたんふぁ・・・・・・」
「・・・・・・」


何を言っているのかは分かるけど,声がくぐもってとても聞こえにくい。
膨れ上がった顔も鬱陶しいし,正直とても不気味。でも,お兄がこんなトマト顔になっちゃったのには,ちゃんと理由がある。
それは何を隠そうお兄がおじいちゃんの鉄拳制裁をくらったからだ。

だけど、別に私達が彼を家に連れ込んだのが原因ってわけじゃない。
むしろおじいちゃんは事情を話したら。


「そいつは大変だ! おう,弾!構わねぇから,その兄ちゃんお前の部屋に上げてやれ! 」


心配そうに言ってくれた。

だが,お兄ときたら1日経ちやっぱりあいつは怪しい,早く警察を呼ぼうなどと言い出した。たしかに彼の持ち物は拘束具の服のほかに首にかかっていた黒い指輪ぐらいだ。

私達が彼を家に連れ込んだのだから最後まで責任を取るのが,私の家の決まりのようなものだ。だが,お兄はそれを放棄しようとした,そのためお爺ちゃんから鉄拳制裁を受けたのだ。



新しい氷水と替えのタオルを持って食堂を出る。母屋の階段を上がりながら,ふと考えた。

なんで私,あの人のことがこんなに気になるんだろう・・・・・・。

思えば昨日初めて彼を見たときから,ずっと彼のことが気になっていた。って,別に一夏さんと初めて出会った時みたいな,一目惚れってわけじゃなくて!
私は一夏さん一筋だし!・・・・・・でも何だろう。

彼を初めて見た時から「この人を放ってはおけない!」って思った。

何でそう思ったのか分からないけど・・・・・・。

もしかしたら,ただの同情心だったのかもしれないけど・・・・・・。

彼には誰かが寄り添ってあげないと駄目だって思った。理由は……女の勘ってことにしておく。

彼を起こさないようにそうっと,ゆっくりと扉を開ける。すると,べットの彼と目があった。
吸い込まれそうな綺麗な漆黒の瞳,月明かりに照らされる銀の髪が神秘的で思わず見とれてしまった。

見とれている場合じゃないお爺ちゃんに達にしらせないと。


「よかった~。目が覚めたんですね。ちょっと待っててください今みんなを呼んできます」



部屋から出た私は自分の鼓動が早まっているのに気づいた。なんだろうこの感じ胸があったかくなる感じは・・・・・・。















2話ようやくまとまりました。
今回はようやく主人公が本格的に原作人物に接触する話です。
いかかでしたか?
ご感想やご意見などがありましたら,どうぞよろしくお願いします。


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