確立期
1巻〜3巻
クレヨンしんちゃんの原作漫画の確立期といえる時期は、単行本の1巻から3巻までの頃と見ることが出来ます。この頃の話には、最初期と思われる話が収録されており、それらの話は、この語のクレヨンしんちゃんとは大きく異なる雰囲気を出しています。 この最初期のしんちゃんは、まず表情が貧弱です。貧弱だからこそ、笑ったり、泣いたりすることも非常に少ないです。ここから、しんちゃんの笑い顔、泣き顔は正面から見せないという、法則が成立していったと思われます。 ただ、笑い顔は原作で何度か見ることが出来、泣き顔にいたっては、もはや原作ではこの法則は当てはまらなくなっています。これは、いずれ述べると思いますが、クレヨンしんちゃんという作品が、大きく変わっている証拠でもあります。 最初期のしんちゃんは、後のしんちゃんより、「過去の」二階堂しんのすけによく似ています。(二階堂しんのすけについては、クレヨンしんちゃんの前にを参照)それは外見だけでなく、性格、言葉遣いなどからも判断できます。 ちなみに園長先生は、1巻の「幼稚園はパラダイス編」の@、A、Bで顔が怖いことがしきりに強調されいますが、それもそのはず。園長先生の顔は、臼井氏の別の作品(「みっくすこねくしょん」等)に登場する、ヤクザの組長の顔に、額の傷を取り、メガネをつけただけなのです。つまり、もともとヤクザの顔が元になっているのです。 これらから、最初期のクレヨンしんちゃんは、臼井氏本来の作風にのっとっているわけです。「クレヨンしんちゃん映画大全」(双葉社)に収録されている本郷みつる監督のインタビューによれば、テレビアニメを見た原作者が漫画の描き方を変えていったのでは、という言及がなされていますが、確かに臼井氏が、テレビアニメを意識していたのは間違いないといえるでしょう。 そして、テレビアニメの影響を原作マンガが受けたことで、クレヨンしんちゃんは臼井氏本来の作風から離れ始め、否、臼井氏の作風自体も変化していったといえるでしょう。そして、その後「スーパー主婦 月見さん」といった、クレヨンしんちゃんに続くファミリー漫画も生まれたのです。 クレヨンしんちゃんは、元は成人向けの漫画から始まったわけですが、テレビアニメは子供向けということになっています。そして、原作にもその子供向けを意識し始めたともいえるでしょう。というのも、実はクレヨンしんちゃんの単行本で、初期の頃に出版されたものにはルビが振られていないのです。私が持っている単行本の3巻がまさにそうであり、奥付には「1992年10月24日・第4刷発行」とあります。1,2巻は1993年1月に出版されたもので、これらにはルビが振られてあります。つまり、1992年内に出版された単行本にはルビが振られておらず、1993年以降になると、テレビアニメを通じて子供にも人気を博すようになったため、子供の読者に対しても意識するようになり、ルビが振られるようになったと推測がつきます。 1巻から3巻に収録されている話は、テレビアニメが放送される前か、まだ放送して間もない頃のものですが、そのテレビアニメが、クレヨンしんちゃんを今後どのような方向へと決定づけるのに、大きな影響を及ぼしたといえます。 そして、クレヨンしんちゃんは大きく変化していくことで、爆発的な人気を博し、全盛期を迎えることになるのです。 |