SAO:デスゲームで少年はどう生きる――― (犠牲者)
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やっと書けた。



第八話:ほんと慢心するとろくなことがない。

地面に突っ伏している少女とそこから少し離れたところで刀をもつフードを被った少年。夜の森に敵を倒した時に出てくるガラス状のポリゴンが舞い散りその二人を幻想的に照らし出していた。





「……………ゴメン」


取りあえず僕は謝った。目の前の涙を流す少女に……


最初に言っておくけど僕が泣かしたわけではないよ。繰り返す、僕が泣かせたわけではない………大事なことなので二回言いました。





誤解が無いようにこうなった経緯を振り返ろうと思う。





この日、僕はこの三十五層の【迷いの森】のさらに奥にある隠しエリア【失われた聖地】と呼ばれる場所へ来ていた。最近では、僕は攻略組の最前線にいることはあまりない。ボス攻略時にキリトやクライン、ヒースクリフにお呼ばれした時に行く程度だ。というのも、ついに隠しエリアの攻略スピードとボス攻略に少し差が出てきてしまったのだ。最も、下層での無双プレイは本来マナー違反なのだが、隠しエリアは攻略組ですら匙を投げるくらい難易度が高いのでこれに限っては暗黙の了解とされている。実際あの場所に行くのは僕とヒースクリフくらいだ。といっても、ヒースクリフの参戦も最近はバラバラに攻略することもあったため、この三十五層と最前線を除くもう一層だけが未攻略なだけなのだが
余談だがヒースクリフは最初僕よりも高い階層でソレをしようとしたら返り討ちに会ったらしい。まあ不死存在とおそらくあるであろうGM権限でどうにかなったのだろうが………それ以来、偶に僕と一緒に隠しエリアを攻略するようになった。何も感じないのかって?別に何かしてくるわけじゃないからとくに不満はないね。



閑話休題



そして今回は一人でそこの攻略を終わらせ、夜の迷いの森を突き進んでいたら、突然悲鳴が聞こえそこへ向かうと《ドランク・エイプ》に襲われている少女がいたのでとりあえずドランク・エイプを真っ二つにして現在に至るというわけだ。



うん………僕が泣かせた要素は一つたりともないね。



と、そんなことを改めて考えていたらどうやら少女が落ち着いたらしく言葉を返してきた。



「……いいえ……あたしが……バカだったんです……。ありがとうございます……助けてくれて……」



嗚咽を押さえながら、少女はそれだけ口にする。
僕は少女にゆっくり歩み寄った、少女の近くには羽があった。おそらくビーストテイマーなのだろう。僕はあることを思い出し前に跪いて、再び声をかけた。


「その羽だけど……アイテム名とかないかな?」


僕の予想外の言葉に少女は戸惑いつつも、顔を上げて涙を拭い、おそるおそる手を伸ばし、右手の人差し指で羽の表面の表示をぽんとシングルクリックする。

そうすると、半透明のウィンドウが浮き上がる。
ウィンドウには、重量とアイテム名が表示されていた。



アイテム名:《ピナの心》



多分、ピナというのが使い魔の名前なのだろう。
それを見た少女はまた、泣き出しそうになる。



「待って、泣かないで。心アイテムが残っていれば、まだ蘇生の可能性はあるから、ね?」
「え!?」



僕が蘇生の可能性があることを伝えると、少女は慌てて顔を上げた。
口は開いたまま、ぽかんと私の顔を見つめる。
さっきまでの鬱表情が嘘のようだ



「最近解ったことだから、まだあんまり知られてないんだけど。四十七層の南にね、《思い出の丘》っていうフィールドダンジョンがあるんだよ。名前のわりにやけに難易度が高いんだけどね……。その場所のどこかに咲く花が使い魔蘇生用のアイテムらし―――――」

「ほ、ほんとうですか!?」



僕の言葉が終わらないうちに、少女は腰を浮かせ、叫ぶ。
その顔は一瞬パアっと明るくなるが、またすぐに暗くなる。



「……四十七層……」



呟き、少女は再び肩を落とす。
無理もない、今はいるところは三十五層、四十七層は遥か十二も上のフロアだ。
少女の顔に再び影が差してきた。うーん……流石に僕といえどもこのまま放っておいたら良心が痛みかねないな。



「僕が行ってきてもいいんだけど。使い魔を亡くしたビーストテイマー本人が行かないと、肝心の花が咲かないらしいんだよ……」


僕の言葉に、少女はちょっとだけ微笑むと、言った。


「いえ……。情報だけでも、とってもありがたいです。がんばってレベル上げすれば、いつかは……」
「それは残念ながらできないんだ。使い魔を蘇生できるのは、死んでから三日間だけらしい。それを過ぎちゃうと、アイテム名の《心》が《形見》に変化してしまい……」
「そんな……!」



少女は叫ぶ。
そして、少女はうなだれ。地面から使い魔の羽を摘まみ上げて、両手でそっと胸に抱く。
そしてまた、瞳に涙が滲んでいる。



訂正しよう。今ここで放っておいたら確実に僕の良心が痛む。まあ、最初からどうにもならないのなら痛む良心も痛まないのだが、どうにかなると分かっていて放っておくなんてことしたら良心痛むしそんなことは僕にはできないからね。


だが、このまま明日四十七層に向かっても僕はともかくこの子が危ない。そう思った僕はリストの中からいくつか装備を選んでトレード欄に次々と放り込んだ。


「あの……」


少女は口を開く。聞きたいことは大体わかっているから説明した。


「この装備で大体、七、八レベルぶんぐらい底上げできる。僕も一緒に行けば、多分なんとかなるはずだから」
「えっ…………」


少女は口を小さく開きかけたまま立ち上がり、僕の顔をじっと見つめる。
その表情は驚きもあるが同時に「なんでこんな面倒見がいいの?」と訝しんでいるという感じだ。すると案の定、僕に質問してきた。


「なんで……そこまでしてくれるんですか……?」



その言葉と共にさらに少女の警戒心が強くなった。まあそうだろう、このSAOでは《甘い話には裏がある》が常識だ。むしろなかったら、今までどうしてここまで来られた?と言いたいくらいだ。


「うん?だって助けられるなら助けたほうがいいでしょ?それが僕のモットーだし」


逆に言うと助けられないと判断したら、意地でも助けようとはしないけど。実際、何度かあったし……後悔してないけど。


すると少女は、最初はぽかんとしていたが、なぜか笑い始めた。


「もしかしてなんか変なこと言ったかな?」
「い、いえそうじゃなくて……あの、よろしくお願いします。助けてもらったのに、その上こんなことまで」



そう言いながら少女は、自分のトレードにコルの金額を入力していく。



「あの……こんなんじゃ、ぜんぜん足らないと思うんですけど……」
「ああ~いや、お金はいいよ。どうせいらないものだし、どうせ売るくらいならだれかに使われた方がいいだろうし、それにこれは僕がやりたくてやってることだからさ。」


まあ、それだけじゃないんだけど………


僕はお金を受け取らずにOKボタンを押す。


「すみません、何から何まで……。あの、あたし、シリカっていいます」


 少女――シリカは名乗る。


「僕はレン。少しの間だけどよろしく。」


僕たちは、ぎゅっと握手を交わした。

して、コートのポケットから迷いの森の地図を取り出し、出口に繋がるエリアを確認して歩き出す。それにシリカはついてくる。
そして僕は迫りくる眠気と闘いながら、出口に向かった。因みに敵とはなぜか一回も円カウントすることはなかった。ちくせう……少しは眠気も飛ぶかと思ったのに……









たどり着いた三十五層の主街区は、白い壁に赤い屋根の建物が並ぶ牧歌的な農家のたたずまいだった。


それほど大きな街ではないのだが、現在は中層プレイヤー達の主戦場になっているらしく、行き交う人の数はかなり多い。
僕はそんなのが珍しく、周りを見回していると―――――


「やあ、シリカちゃん!」
「今日はずいぶんと遅かったんだね。心配したよ」


等、シリカにプレイヤーたちが話しかけていた。どうやら熱心にパーティメンバーに加えようと躍起のようだ。うん、僕には縁のない話だ。

※彼はフードをかぶっているので顔はよく見えませんが素なら確実に声をかけられています。



「あ、あの……お話はありがたいんですけど……」



シリカは一生懸命頭を下げ、プレイヤーたちからのパーティーの誘いを断り、傍らに立つ僕に視線を送って、言葉を続けた。



「……しばらくこの人とパーティーを組むことになったので……」



ええー、そりゃないよ、と口々に不満の声を上げながら、シリカを取り囲む数人のプレイヤーたちは、僕にうさんくさそうな視線を投げかけてくる。



まあ、この外見じゃ強そうに見えないのもわかる。僕も彼らの立場ならそういう視線を送っただろうし。
だって、上は青黒いフードマントを被り、その中から黒地に赤い線の入ったロングコートしか見えておらず、武器もフードに隠れているので強そうには見えないだろう。



「おい、あんた――」


と、ここで最も熱心に勧誘しているように見えた背の高い両手剣使いが、僕の前に進み出て、見下ろす格好で口を開いた。


「見ない顔だけど、抜けがけはやめてもらいたいな。俺らはずっと前からこの子に声をかけているんだぜ」
「抜けがけって言われましても…………成り行きなので……」


僕は後頭部を掻きながら言った。だってそうとしかいいようないもん。僕がどうやってこの場から切り抜けようかと考えているとシリカが両手剣使いに言った。


「あの、あたしから頼んだんです。すみませんっ」



最後にもう一度深々と頭を下げ、僕のフードマントの裾を引っ張って歩き出す。男たちが未練がましく手を振りながら、今度メッセージ送るよー、とかなんとか叫んでいる。僕はシリカに引かれながら、北へ伸びるメインストリームへと足を踏み入れる。



ようやくプレイヤーたちの姿が見えなくなると、シリカは私の顔を見ていった。
身長が同じくらいなので、見上げたり見下したりはない。



「……す、すみません、迷惑かけちゃって」
「いやいや、別に気にしてはいないよ。それにしてもすごい人気者だね」


あの扱いはもはやアイドルかそれ以上だろう………まあ数少ない女プレイヤーだからということもあるのだろうが。素直にそう思った。


「――そんなことないです。マスコット代わりに誘われているだけなんです、きっと。それなのに……あたしいい気になっちゃって……【竜使いシリカ】なんて言われて調子に乗って……一人で森を歩いて……あんなことに……」


あの時のことを思い出したのか、シリカの瞳にはまた、涙が浮かんでいる。


「大丈夫、大丈夫!」


まあ三日もあるからね。四十七層ぐらいならまだ何とかなる。落ち着いた声で僕は言った。


「絶対生き返らせられるから………ね?心配ないよ」


シリカは涙を拭い、私に笑みを見せた。しばらく歩いていると、唐突にシリカが質問をしてきた。


「あ、そういえば、レンさんのホームはどこに………」
「僕はもうちょい上の階なんだけど面倒臭いから今日はこの階に泊まるよ。」


シリカは嬉しそうに、両手をパンと叩いた。


「ここのチーズケーキがけっこういけるんですよ」


そう言いながら僕の腕を引っ張って宿屋に入ろうとした時、隣の道具屋からぞろぞろと四、五人の集団が出てきた。
その集団にはまったく見覚えがないのだが、最後尾の一人の女性プレイヤーは僕が探している人だった。
だが、ここで仕掛けたところで無意味なので抑える。
シリカも知っているみたいだが、顔を伏せている。


「あら、シリカじゃない」


向こうから声を掛けられ、シリカは立ち止まる。


「……どうも」
「へぇーえ、森から脱出できたんだ。よかったわね」


真っ赤な髪を派手にカールさせている、確か情報だと………ロザリア?だっけ…その女性プレイヤーが口の端を歪めるように笑うと言った。


「でも、今更帰ってきても遅いわよ。ついさっきアイテムの分配は終わっちゃったわ」
「要らないって言ったはずです!――急ぎますから」


シリカは会話を切り上げ、宿屋に入ろうとしたが、どうやら相手にはまだシリカを解放する気がないようで、シリカちゃんの肩が空いているに気付き、嫌な笑いを浮かべている。


「あら?あのトカゲ、どうしちゃったの?」


使い魔は当然物なんかじゃないので、アイテム欄(ストレージ)に収納なんかできないし、どこかにも預けることもできない。
つまり身の回りから姿が消える理由は一つしかない。
そんなこと誰でもわかっているはずなに、薄い笑いを浮かべながらわざとらしく言葉を続けるこの女性プレイヤーに少し気分を害した。



結論:今のも含めて、僕のこの人の評価は最悪……おそらく現実世界でもろくなことしてないんだろう。こういう世界(ゲーム)こそ、素の性格が出やすいものだ。自分も含めて。


「あらら、もしかしてぇ……?」
「死にました……。でも!」


シリカは女性プレイヤーを力強く睨み付ける。


「ピナは、絶対に生き返らせます!」


気持ち悪く笑っていた女性プレイヤーの目が、わずかに見開かれた。そして、小さく口笛を吹く。


「へえ、てことは、《思い出の丘》に行く気なんだ。でも、あんたのレベルで攻略できるの?」
「できますよ」


シリカが答える前に、僕が進み出てシリカをかばうように後ろに隠す。正直鬱陶しいのでさっさと会話を終わらせたい。


「結構、簡単なダンジョンですからね。」


女性プレイヤーはあからさまに値踏む視線で僕を眺め回し、汚い唇に再び嘲るような笑みを浮かべた。…………気持ち悪い視線だ。


「あんたもその子にたらしこまれた口?見たトコそんなに強そうじゃないけど」


まったくいちいち癪に障るうるさい人だ。第一これは僕の善意でやっていることだ。なぜたらしこまらなければならない……


「行こう」


僕はシリカの手をつかみ、シリカを宿屋に連れて行った。


「ま、せいぜい頑張ってね」


女性プレイヤーの笑いを含んだ声を無視して、宿屋《風見鶏亭》に入った。



文中のヒースクリフの返り討ちですが。彼はGMなので大丈夫ですが、普通のプレイヤーなら死んでいます。


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