高橋洋一の俗論を撃つ!
【第47回】 2012年9月6日 高橋洋一 [嘉悦大学教授]

野田政権誕生1年
民主党政権のパフォーマンス総点検

 野田政権が誕生して1年たった。この機会に、野田政権を含む民主党政権のパフォーマンスをみてみよう。

今国会で成立した法案は
事実上、消費税増税だけ

 民主党に政権交代しても、諸情勢は悪化し、多くの国民の期待を裏切った。まず、外交・防衛では、2010年11月メドベージェフ・ロシア大統領が、我が国の領土で不法占拠されている国後島を訪問した。それに先立つ2010年9月には、尖閣諸島漁船衝突問題が発生し、事実上中国船長を無罪放免した。その直後の10月、中国は我が国領土である尖閣諸島を核心的利益に属する地域と宣言した。先月8月、我が国領土で不法占拠されている竹島に、李明博・韓国大統領が上陸した。いずれも、これらは政権交代後に我が国の足下を見られた行動だ。

 国内経済についてもさえない。経済全体を反映するとされる株価を見てみよう。ここ10年間で日経平均の最高値は、安倍政権時代の2007年7月9日の1万8261.98円だ。今の2倍以上の株価である。野田政権時代の株価は低迷したままだ。野田政権がスタートしたのは、1年前2011年9月2日、その日の株価終値は8950.74円。今年3月下旬に一時1万円台を記録したこともあるが、ずっとグタグタの相場である(図1)。

 野田政権でやったことといえば、マニフェストにも書かなかった消費税増税だけだ。社会保障と税の一体改革といっても、3党合意が事実上反故にされた今では、社会保障改革は予定通り(?)行われなくなった。

 本コラムなどで、社会保障と税の一体改革は、中身のあんこが消費税たっぷりで、外は薄皮の社会保障という「薄皮饅頭」であるといってきたが、とうとう外の薄皮もなくなり、正真正銘の消費税増税だけになった。今国会で成立した法案は、事実上、消費税増税だけといってもいい。選挙制度、特例公債法などの重要法案は成立していない。となれば、株価がさえないのは仕方ないところだ。

 名目GDPでも、安倍政権の2007年第2四半期の514.5兆円がピークだ(図2)。ちなみに、2012年第2四半期は475.4兆円でしかない。失業率も安倍政権の2007年6月の3.6%が一番低い(図3)。

 これらの理由は簡単で、小泉・安倍政権では円安で、輸出が好調だったからだ。当時、民主党から外需依存という批判を受けたが、民主党政権になると、円高で外需依存もできずに、国民の生活を犠牲にしている(図4)。 

目途を下回っているのに
何の手も打たない日本銀行

 先日、NHKのインタビューを受けたクルーグマン・プリンストン大教授も、日本の小泉-安倍政権期の2003~2007年の景気回復過程に注目していた。あのときに、日銀がヘマ(2006年3月に日銀が量的緩和を解除したこと)をせずに、そのまま経済の成り行きに任せていたら、日本はデフレから脱却して、今よりまともな経済状況になっていただろうといっている。

 その時も日銀の失敗だったが、今でもその構図は変わっていない。日銀は、2月14日、「消費者物価の前年比上昇率で、……当面は1%を目途とする」と決めたが、3月から7月までの消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)の対前年同月比のデータは、0.2%、0.2%、▲0.1%、▲0.2%、▲0.3%となっており、1%からほど遠い状態だ。それにもかかわらず、このところの金融政策決定会合は何の手も打っていない。

 この頃、日銀が何もしない言い訳として、日本のデフレは人口減少が原因であると言っている。白川日銀総裁の講演でも述べているし、8月に出た日銀の調査レポートにも書いてある。

 この点については、2011年1月13日付けの本コラム「日本のデフレは人口減少が原因なのか 人口増減と「物価」は実は関係がない」でも徹底的に批判しているが、いまだに日銀はわかっていない。というか、最近は統計操作のような「悪意」も感じるところだ。 

資料の数字の扱いに
感じられる恣意性

 白川総裁の講演資料には、8月の日銀調査レポート図表15のような図が出てくる。これだけ見ると、まるで、海外諸国でクロスセクション分析すると、人口減がデフレと関係しているかのようにみえる。

 調査レポートは注釈が簡単すぎて不適当なので、白川総裁の講演資料を使おう。白川総裁が配布した資料では、生産年齢人口変化率とインフレ率の関係というタイトルのものがある。そこでは、相関係数0.67と書かれている。注釈を読むと、「プロットした先進国は、1990年代までにOECDに加盟した高所得国のうち、1990年代以降の生産年齢人口とGDPデフレーターが利用可能な24か国」と書かれている。

 役所の資料はウソではないが、恣意的である。その恣意性は注釈に書かれている。この注釈をよむと、素人には違和感がないだろうが、現在OECD加盟国34ヵ国のうちスロバキア(2000年12月14日加盟。以下同じ)、チリ(2010年5月7日)、スロベニア(2010年7月21日)、イスラエル(2010年9月7日)、エストニア(2010年12月9日)は除かれてしまう。

 これらの国は人口減少もしくは人口増加率が大きくないにもかかわらず、インフレ率が高い国だ。これらを除くと、見かけ上は人口増加率とインフレ率が相関をもっているように数字操作ができる。さらに5ヵ国を除いているが、これらがどのような国なのか、資料からは分からない。

 国の選定に恣意性を感じるので、IMF(国際通貨基金)統計から、先進国を選択してみよう。先進国とは、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、カナダ、キプロス、チェコ、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、香港、アイスランド、アイルランド、イスラエル、イタリア、日本、韓国、ルクセンブルグ、マルタ、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポルトガル、シンガポール、スロバキア、スロベニア、スペイン、スウェーデン、スイス、台湾、イギリス、アメリカの計34ヵ国である。

 それぞれの国で、2000年代の人口増加率の平均(横軸)とインフレ率(縦軸)をプロットしたのが、図5である。相関係数は▲0.01で、人口増加率とインフレ率は関係ないとなる。

 なお、調査レポートでは、日本の地方のデータがある。それなら、日本の地方の人口増加率とインフレ率の関係図も書けばよいものを、なぜかその図はない。それは簡単で、海外のような数字操作をしても、なかなか人口減少がデフレの要因となっているというものが「作れない」からだ。ちなみに、地方ごとの人口増加率とインフレ率の関係図を載せておこう(図6)。これはいくら操作しても右上がりにできない。