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「横浜日記」(67)―おお「軽老の日」よ!

「横浜日記」(67) 06・9・18 梅本浩志

<おお「軽老の日」よ!>

 今日は「敬老の日」とか。私もとうとう敬(うやま)われる年代に入ったのか、と複雑な気持ちだが、私を含む日本の老人たちの行政権力からの敬われ方には、なんとも畏(おそ)れ入るばかりである。
 1週間ほど前のことだが、突然、横浜市健康福祉局(交通局ではなく健康福祉局である!)から通知があり、「敬老特別乗車証」前払い料金として金5、000円也を支払え、と言ってきた。
 ちょっと待て、7月31日の誕生日の直前、8百何十円かを、支払ったばかりではないか、これはなにかの間違いかと、手持ちの「敬老特別乗車証」をよくよく見ると「平成18年9月30日まで」と期限が切ってあるではないか。
 お人好しにも私は、8百数十円で1年間、市バスに乗せてくれるのだから、まあ我慢するか、と思い込んでいたから、驚いた。2ヵ月も経つか経たないうちに、さらに5、000円も払え、というのである。
 「敬老」だの「特別」だの恩着せがましい言葉で、青地に銀色で「敬老特別乗車証」と目立つように印刷し、赤い字で「横浜市内有効」、「本人に限り有効」さらに「横浜市長印」となんともけばけばしい。なにか不正なことでもしでかしかねない不審者に義務化させた前科者の身分証明証のようなデザインだ。
 そんな乗車証を出してやるから、さらに5、000円也を支払え、ときたもんだ。私は語るべき言葉さえ見つからない。私は「敬老」ではなく、これじゃ「軽老」じゃないか、と思ったものである。
 
 実は以前から不思議に思っていたことがあった。市バスに乗る老人がいやに多いなあ、まるで競い合うように、乗ってくる。1駅間の客もいる。歩けば、健康にもいいのに、どうしてだろう。まだ日中に比較的空いている時間帯ならいいが、ラッシュ時に乗って、疲れた労働者が席に坐れない場面に出くわしたりすると、無料パスなのだから、せめて老人たちはラッシュ時は避けるようにする常識があってもよい、もし自分が老人パス該当年齢になったら、そうした配慮をしたい、と思っていたものだ。私は、老人パスが無料だとばかり思い込んでいたのである。
 それが今度の5、000円ですっかり認識が変わってしまった。無料ではなく、実に前払いで5、000円を支払う定期券だということが分かったのである。
 年5、000円ということは、月に3回以上乗らなければ、元をとれない金額である。市バスは決して便利ではなく、最寄りのバス・ストップから目的地にすっと行ける路線にはなっていない。どこかで乗り継がなければならないから、どうしても市営ではない電車を利用することになる。しかもダイヤの間隔がありすぎる。私が時たま利用するバスなど30分に1本の間隔である。そんなバスに乗るために、恩を着せられて、5、000円を前払いしなければならない。
 老人はまた、病気しがちであり、ついちょっとした病気になり、寝込んだりすると、バスに乗って少し遠いところに行くなどということは、まずないし、不可能である。その間、せっかく前払いした「定期券」は使わず仕舞いである。しかもプリベイド・パスと違って、有効期限が定められているから、期限内にバスを利用しなければ、大損である。寝たきりにでもなれば、こりゃあ大損だ。
 かくて老人たちは、元を取り戻すために、歩けばいいところを、1駅でもいいからとバスに乗り込むのである。大損をしないように、寝たきりにならないうちに、なにがなんでも5、000円分をしっかり乗らなくちゃあ!私のかねてからの疑問はこうして解けた。

 私がこう書くからといって、では公営バスの老人パスはいらないのか、そのような制度は設けなくてもよいのか、という声が権力サイドから出そうだが、全く逆である。
 とかく今の驕り高ぶった権力者や官僚どもは、例えば生活保護費支給額より国民年金支払額のほうが低いのは問題だと言って、生活保護費支給額を引き下げるべきだと言って、実際にそうした非人間的なことを平然とやる。国民年金と議員年金とを統一して、一般市民にも議員年金支給額と同等の額を支払うべきだとする発想が全くない。
 老人パスについても同様なことが言える。老人にとって、バスはもとより、少なくとも公営の交通機関を利用することは、必要不可欠なのである。年齢(とし)をとれば分かってくるが、ゆっくりとしか歩けなくなり、特に坂道を上がることは大変な苦労である。うっかり疲れてよろめいて、転倒でもすれば、それで人生、一巻の終わりである。老人パスは生活必需品なのだ。だから老人には無料パスを発行すべきであることは当然と言える。老人たちは無料パスを支給される当然の権利があるのだ。
 老人たちの多くは、先の戦争で苦労し、苦汁をなめさせられた。そして戦後、必死になって働き、生活と闘い、その結果として日本は、経済的に豊かになった。そんな老人たちから、5、000円も前払金を取るなどとは、人間のやることではない。教育基本法を云々する前に、まず政治家、官僚、財界のボスたちに対するモラル教育が必要なのだ。

 それにしても、自民党政権の「軽老」の精神と政策は我慢ならぬものがある。この6月に来た住民税も5、55倍もの大増税だ。ほぼ年金だけで生活しなければならない小生のごとき人間にとって、4、000円から2万2、200円もの引上げは大変な大増税である。
 たかが1万8、200円ではないか、下らないことを言うな、などと言うなかれ。低所得の老人たちにとって、この数字はとてつもなく巨額の金額なのである。ささやかな贅沢を楽しめる財源なのでもある。贅沢と言っても年に1度か2度、養殖鯛の刺身を食べてみたいというささやかで、涙ぐましいものだが。
 老人たちは、まだ働けているときに、せっせと預貯金し、利子も増えるだろうから、それで安心と老後に備えてきたのだが、自民党政権のゼロ金利政策によって実に304兆円もの民衆の預貯金が銀行の側に移転されて、銀行は太りに太り、一般市民は貧しくなってしまった。老人たちは預貯金の元金を食いつぶすだけ。通帳の数字は恐ろしいほど小さくなっていく。
 喰うに喰えなくなった老人たちが、やっとの思いで、役所に生活保護を申請に行けば、北九州市のように、厚生労働省の指導を忠実に守る市当局の方針によって、申請用紙も渡されずに追い返されてしまい、自殺に至るものさえ例外ではなくなった。その挙げ句の果ての様々な老人虐めである。そしてデフレ脱却政策とかで諸物価は上昇を加速化しだしている。

 私は以前から、経済記者としての関心もあり、スーパーなどへ買い物に同行し、物価の動向に注意するようにしてきた。そうした時、政府や財界がデフレがどうの、物価が低迷しているのは問題だなどと言い張ってきたが、消費者の実感としてはどうも腑に落ちない気持ちが強かった。
 とりわけエンゲル係数が大きい年金生活者の目から見ると、生鮮食料品を中心とする物価は決して安くはなっていないのが実感だった。たとえ値上がりしていないように見える商品でも、容器が小さくなっていたり、内容物が目減りしていて、実質的に値上げになっているものが結構あった。野菜など季節の状態に左右されて一時的に安くなることはあっても、少し経てば逆に値上がりするのが常だったといってよい。
 こうして、年金生活者たち低所得層の生活水準は低下する一方だったし、いまなお低下し続けている。手持ちの家電製品など、そろそろ老朽化して、修理したり、買い替えたりしなければならない年代になっているが、そうした臨時の出費がかさむときには、家計が直撃を受け、たちどころに食生活に影響が出る。
 おかげで食生活の内容は貧しくなり、たまに美味しいものを食べたいなどと思っても財布が言うことを聴かぬ。生活が切り詰められると、精神までもが貧しくなるから、嫌になってくる。家族旅行をするときには、素泊まりするのが普通になった。泊まった翌日の朝食はコンビニでおにぎりが決まりとなった。日本旅館の楽しみは、温泉にゆったりつかり、出される料理とささやかなビールや土地の呑みものをゆったりとした気分で味わうことであるが、そんな贅沢は遠い昔の思い出の中にしかない。
 こんな人間たちが生息する国が「美しい日本」などと冗談を口にする総理大臣が誕生する日本である。両親を敬わない子どもや親殺しをする未成年者がうようよいるのは、教育が悪いからであり、親たちを敬う規範がないからだと、その総理大臣はおっしゃる。まるで昔の教育勅語に書かれていた「父母に孝に」という規範が現在の教育基本法に書き込まれていないことが、そもそもの原因だと言わんばかりの口ぶりである。

 老人たちの生活は確実に貧しくなっている。そんなとき、住民税は大幅に増税され、医療費は高くされ、なまじ脳卒中にでもなればリハビリは180日間だけで打ち切られて、後は寝たきり老人となって余命幾許。そしてバスを利用しようとすると5、000円也を前払いしなければならない。
 はたまた数年も経てば消費税が大幅増税となり、その分、老人の家計(可処分所得)は確実に減少する。実質的な年金の減額である。その頃、テレビ電波が全面切り替えになって新しい受像機を買わなければならなくなっても、もう買う経済力は老人たちにはなく、テレビも見られない老人たちが大発生する。孤独な老人たちはこうして誰に見取られることもなく、ひっそりと死んでいく。
 そして「敬老の日」には、少数の「勝ち組」の人間どもが、優雅な休日を楽しむのである。おお、「軽老の日」よ!

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