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'12/8/28

大津の第三者委 いじめ解明のモデルに

 悲劇から10カ月余り。大津市の中学2年の男子生徒がいじめを受けた末に自殺したとされる問題で、原因を究明する第三者委員会がやっと動きだした。

 教育評論家の尾木直樹氏をはじめ、外部の大学教授や弁護士5人という顔ぶれだ。少年は、なぜ命を絶たねばならなかったのか。生徒らの聞き取りも含めて事実関係を把握し、年内に報告書をまとめるという。

 この事件を機に、教育現場や地域がいじめの根絶にどう取り組むかが再び問われている。真相の解明はもちろん、他のケースにも通じる再発防止策が打ち出されることを期待したい。

 今回の第三者委は、さまざまな意味で異例ずくめである。

 まずは学校教育を預かる教育委員会ではなく、市長部局が主導したことだ。遺族側の不信感を反映したといえよう。

 遺族側はわが子の自殺はいじめが原因と強く訴えたが、学校や市教委は因果関係を認めなかった。しかも生徒アンケートで「自殺の練習をさせられていた」などの重要な証言が浮上していたのに伏せていた。

 これでは「隠蔽(いんぺい)」と言われても仕方あるまい。市長が厳しく対応を批判し、市教委と切り離して再調査に乗りだしたのは当然だ。教育委員会の在り方にも警鐘を鳴らした格好になる。

 こうした経緯を踏まえ、委員の人選に遺族の意向を最大限取り入れた点も画期的である。尾木氏ら3人がそうだ。さらに市は日弁連にも委員推薦を求めるなど公平性の担保に努めた。

 一方、これからの聞き取り調査となれば限界もある。時間の経過とともに関係者の記憶が曖昧になってくるからだ。やはり遅きに失した感は否めない。

 いじめが暴行の容疑に当たるとして捜査中の滋賀県警の事情聴取とも重なる。受験を控えた生徒側の心の負担とプライバシーに考慮する必要があろう。

 そんな中であっても第三者委の役割は重い。公正中立の視点を忘れず、真実を知りたいという遺族の思いに応えてもらいたい。学校や市教委の対応を厳しく検証することも求められる。

 昨年6月、文部科学省は子どもが自殺した場合、第三者委での調査を促す通知を都道府県教委に出している。いじめなどの対応をめぐり、教育現場に保護者側が不信感を抱くケースが増えたからに違いない。

 ただ今回のように外部委員だけというケースは、過去にはほとんどないようだ。教委側が調査に加わることも多かった。

 これでは「身内」である学校側への追及は、どうしても甘くなりがちだ。「事なかれ主義」のあまり、重要な事実に見て見ぬふりする。そんなことが繰り返される恐れもある。

 政府は新たな自殺総合対策大綱で、いじめ自殺の第三者による検証を求める構えだ。大津市の再調査をモデルケースに、真実と責任の所在を明らかにする態勢づくりを急ぐべきだろう。

 「いじめは犯罪」との指摘もある。必要なら警察に委ねることもやむを得まい。現に今年上半期、いじめが原因で全国の警察に摘発、補導された児童・生徒は前年同期より4割増えた。

 しかし有識者や警察に問題解決を任せるだけで済むはずもない。教育現場の力をどう取り戻していくか。これまで以上に危機感を持って臨んでほしい。




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