シャープが日本人から愛される理由

[2012年09月11日]


金属式“繰り出し鉛筆”を発明し、欧米でも日本でも大ヒット。商品名『エバー・レディー・シャープペンシル』が後に社名「シャープ」の由来となった

9月15日の創業100周年を、最大級の経営危機で迎えることになりそうなシャープ。電卓の時代から続けてきた研究開発の結晶である、シャープの液晶の黄金時代は、しばらく続くものだと誰もが思い込んでいた。「亀山モデル」が発売された頃は、評論家もマスコミもこぞって同社の経営を賞賛した。

しかし、それは続かなかった。世界中の消費者が「そこまで高性能じゃなくても、もっと安いテレビでいい」と考え、そこに韓国や中国や台湾のメーカーがどんどんシェアを拡大していったからだ。長期の円高の影響も大きかった。シャープだけでなく、パナソニックもソニーも今、創業以来最大の危機に瀕している。そして手のひらを返したかのように、評論家もマスコミも危機を書きたてている。

今にして思えばだが、日本のメーカーというか日本人は、「ものづくり」信仰にだけとらわれすぎていたのかもしれない。その間にアジア各国の新興メーカーは、急速にグローバルネットワーク化が進むビジネス界における「世渡り術」、「商売の仕方」を、研究しまくっていたのだった。

シャープの台湾・鴻海(ホンハイ)との業務提携は、「日本人のプライド」的に複雑な心境の人も多いようだが、今の日本メーカーが最も苦手な、新しい世界ビジネスでの「商売の仕方」を学ぶ最高の機会とも考えられる。

鴻海というメーカー名は日本人にはなじみが薄いが、iPhoneやiPad、デルやヒューレット・パッカードのPCなど、世界中のデジタル製品の製造を請け負う超巨大企業だ。そして創業者である郭台銘会長の悲願は、ズバリ「サムスン超え」。そのためにも彼は、シャープの技術力が欲しいと考えている。

一方のシャープは、今年6月に液晶新技術「IGZO」の発展形を発表。高画質な上、大幅な省電力化に成功し、モバイルに最適なこの技術によって大型液晶競争での敗戦を乗り越えようとしている。このとき鴻海という、世界中にネットワークをもつパートナーといかに共闘体制を築けるかに、シャープの命運はかかっている。

シャープの100年史は、昔から「初めて」をつくってはコモディティ化(低価格化)の荒波にもまれ、また新たな「初めて」を生み出して……という繰り返しだった。今回の荒波は比類がないほど巨大なのは事実だが、同社の復活を多くの人が望んでいる。

8月2日に業績の大幅な下方修正が発表されたとき、同社公式ツイッターのあまりに素直な「つぶやき」に、共感と応援の声が瞬く間に広まった。こんなに広く愛されている会社はそうはない。シャープには、ぜひとも頑張ってほしい。

■週刊プレイボーイ39号「頑張れシャープ! 『初めて』づくし100年史」より

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