当会では、世界動物保護協会（WSPA）と協力して日本のクマ牧場の調査を行なってきました（ALIVE会報No.16参照）。
どの牧場にも共通して言えるのは、過密であり飼育環境が劣悪という一語につきます。
１１月初めに、WSPAの野生生物部長V．ワトキンスさん、アジア問題担当のP．フェンさんと共に、北海道のクマ牧場の再調査と行政期間への申し入れ等を行ないました。
また今回は、英国のナショナル・ジオグラフィックのTVクルーが同行取材しました。 （野上ふさ子）
のぼりべつクマ牧場
同牧場の経営者である加森社長は国内外にスキー場やゴルフ場などをたくさん所有する北海道有数の観光事業主です。このような資本力のある会社なら、ＷＳＰＡが各国で進めているクマのサンクチュアリのような施設への改善も可能であろうとして、社長との面会をお願いしていたのですが、残念ながら急遽、海外出張とのことで会えませんでした。
代わりに同牧場を経営する登別温泉ケーブル株式会社の取締役（事務長）の渡辺氏に面会し、過密飼育の解消や飼育施設の改善を要望しました。
同氏によると「改善はこれまでもしてきたし、今後もやっていくつもりはある。頭数が多すぎるという批判（現在１８０頭以上）については、１００頭くらいにまで減らしてもよいと考えている」と、一応前向きの返事でした。
伊勢園長も「１５年計画で頭数の削減をやっていく方針だ」「最近では、新たに有害駆除されたクマの子供も受け入れてはいない」とのこと。
当会として、「これ以上出産させないでほしい。観光パンフレットにはクマが団子状態になるほど過密の写真が載せられている。これが古い写真だとすれば、尚更このような写真を使うべきではない」「クマ牧場という名前からは、動物を繁殖させて販売するという印象を受ける。名称を変えた方がいいのではないか」と提案しました。
定山渓クマ牧場
札幌市内にある定山渓クマ牧場は、施設がひどく老朽化しており、クマ達の置かれている状態は最悪の所です。クマの檻は、地面を垂直に掘り下げて四辺をコンクリートで固めた穴底のような所。風通しも悪くじめじめしています。観光客は、木か鉄板の踏み台に上がって、手すり越しに下の穴底を見下ろすようになっていますが、その踏み台の木板も腐り、鉄板も腐食し穴が開いていて、いつ床が抜けてもおかしくない状態で、安全性の観点からも問題があります。
施設の実情は、次のようなものでした。
- 飼育頭数は減っていて、現在７４頭。新しいクマが入って来ないからで、入手が難しい。（’９７年には１００頭がいた）
- 雄も雌もいっしょにしている。妊娠しても識別できないので、母親を産室に隔離できない。そのために赤ん坊が生まれても、雄クマに殺されてしまう。
- 余り長生きするクマもいない。最高で１３歳くらい。（登別では３０歳くらいまで生きると言っていた）
- 過密なためクマ同士がケンカして死ぬこともある。ケガをしても隔離できないし、する場所もない。一度囲いの中に入れたら一生をそこで過ごす。
- 寝室はあるが、力の強いクマが５～６頭で占拠しているので、その他のクマは夜間でも部屋に入れない。
- 園は１１月６日から冬季閉鎖するが、雪が積もっても、凍っても、クマ達は外に出たまま。餌を与え続けていると、冬眠はしない（冬眠できる寝室もない）。
- 老朽化した施設の改善をしたくても、改善するお金もない。
- 施設の経費は、人件費が一番かかる。従業員は５名で（パートを含む）。客の入りが悪くて併設のレストランも浴場も閉鎖した。
- 餌は、観光ホテルの残飯を与えているのでさほどかからない。しかし、残飯の中にはビニール袋や割り箸なども入っているので、それを手でよりわけている。不況でホテルのお客も減り、残飯だけでは足りないので、食パンの耳なども与えている。
- エゾシカを飼っているが、もう飽きられてしまったので、今度はダチョウを飼う予定。（食肉用に）
北海道の行政の対応
１１月２日、 北海道環境生活部自然環境課野生生物室を訪れ、クマ牧場に対する行政の指導を要望しました。主幹の関氏によると、問題のある施設には改善を求めているが予算がないという理由で進まないのがネックになっているとのこと。
定山渓のクマ牧場についても「１０年前から改善するよう指導している。６月にも見に行った。予算がないの一点張りで、悪循環になっている。悪質な施設を閉鎖しろと言うのは簡単だが、施設閉鎖後の動物の収容先など問題が出てくる」とのこと。
これに対してワトキンス氏は、クマのサンクチュアリについて説明。
「ＷＳＰＡとしても技術面、情報面など全ての面からサポートする用意がある。ＷＳＰＡはトルコやハンガリーなど各国の政府と協力していくつものサンクチュアリ建設に成功している。
例えばトルコのサンクチュアリでは、１２エーカー（１エーカー＝４０４７平方メートル）の自然の土地を高さ３メートルの電気柵で囲い、そこに４８頭のクマを収容している。地面も地下１メートルまで固めてあるので、今までで一度も逃げたクマはいない。人工池以外は、全て自然そのまま。クマは退屈しないし、過密ではないためケンカもしない。人が柵の外から中を見ることができ、広い場所でのびのびしているクマを見れると言う点で優れた教育的効果を上げている。定山渓の七四頭を収容するには、一五エーカーもあれば十分だ。現地で直接見れば良さがすぐに分かるので、是非トルコのサンクチュアリを見に来て欲しい。招待したい」
「道として今すぐにできることは何か」と問うと、「動管法の改正に伴い、道条例にできるだけ盛り込んでいくようにしたい」との回答。「今回の改正動管法では、法律にないことでも条例にできるようになっているので、ぜひよい条例を作ってほしい」「クマの胆（い）の取引についての監視してほしい」等を要望しました。
（※その後記者会見。道内の新聞、ＴＶで報道されました。）
国（総理府）の対応
１１月４日、動管法を所轄する総理府の動物保護管理担当を訪問。参事官の川淵氏に面会しました。「ＷＳＰＡのレポートはロンドンの日本大使館から送られてきた。我々の認識していなかった問題を提起していただいたことに感謝する」との挨拶で、指摘されている自治体に調査の依頼中だとのことでした。
動管法の改正に伴い今後所轄が環境庁（省）に移りますが、動物園は野生動物と飼育動物の接点でもあり、今後はさらに動物にとってよりよい飼育規準作りを働きかけていく必要があります。
日本動物園水族館協会
その後、日本動物園水族館協会の副会長で 上野動物園園長の安部氏に面会。ワトキンス氏は、クマ牧場の状態を話し、特に「加盟の登別と阿蘇のクマ牧場は協会加盟の会員であり、日動水の倫理規定に違反している場合は改善勧告すべきではないか」と質問しました。安部氏は、「日動水は互いの親睦をはかる会で、強制力はない。善意で倫理規定は守っていただいているものと考えている」と曖昧な返事でしたが、「日動水の倫理委員会（会長は日動水会長、副会長等六名で構成されている）で話題に載せる」ことを約束されました。
今後の課題
「日本に野生のクマはいらない、クマ牧場に残っていればそれでいいのだ」と言う人々がいますが、私たちはこのような意見には反対です。
人間が、本来彼らが住むべき森を破壊、分断してしまったために、彼らが食べ物を求めて人里に現れてきたりすれば、即刻射殺されます。駆除された母親の側にいる赤ちゃんグマは捕まえられてクマ牧場に送り込まれます。その結果として、日本全国のクマ牧場に今なお一〇〇〇頭ものクマたちが超過密状態で押し込められ、見せ物にされているのです。
これらの施設では野生のクマとその生息地の保護に関する環境教育・啓発活動などはほとんど行われていません。そして現在、どの施設も、入場者の減少、経営難、劣悪な施設、老朽化という問題を抱えています。解決の方法は、これ以上数を増やさず規模を縮小して施設の改善を図り、いづれは閉園することでしょう。
クマ牧場のあり方を変えることは動物達の環境を改善するばかりではなく、私たちの野生動物に対する認識や自然への理解を変えていくことにもなります。日本列島に残る最大の大型哺乳類であるクマを絶滅させないために、広くクマについての理解と共感の輪を広めていきたいと思います。
会員レポート
先日、札幌市近郊の定山渓に行く機会があり、会報にクマ牧場の記事が載っていたのを思いだし、自分の目で確かめようと行って来ました。
平日の午後だったせいか、客は何と私一人でした。クマの施設はかなり古く、手入れ等はあまりされていないようです。クマは年齢別に４つに分けられ入れられていました。のぼりべつのクマ牧場でも思ったのですが、なぜこういった施設は床も壁もすべてコンクリートで囲んでしまうのでしょう？クマの生態を考えれば、床は土を敷き、その中に木を植えたりすれば、暑い日は木陰に隠れたり登って遊んだりできるのに。
あと、気になったのが四匹のアライグマが四方鉄網の狭いケージに入れられ展示してあったことです。皆とてもお腹がすいているようで食べ物をねだっていました。・・
ただ財政的にかなり厳しそうで、ここれ飼われている動物達（ヒグマ約７０頭、エゾシカ約３０頭、うさぎ約３０匹、アライグマ４頭）の将来が心配です。職員の男性と少しお話でききましたが、この方のクマに対する愛情が感じられた事がせめてもの救いでした。
問題は、客寄せ興業的に、だれでもがこういった施設を建てられるという日本の法律とそれを併記でしてしまう貧しい国民性なのではと思います。
入会して１年がたちましたが、肉を食べるのを極力減らし、関連本を読み、パソコン、英語を学んだりしています。最初は目を通すのも苦しかった会報ですが、今ではまず知ることが大切と、すすんで見れる様になりました。やっとスタートラインという感じです。これからは少しづつ声を出し、活動していけたらと思います。皆さまの活動には毎回会報を見る度に涙が出ます。ただ泣いてばかりではなく強くなっていかなければと思う今日この頃です。