トップページWEB特集

WEB特集 記事一覧

  • 読み込み中

RSS

WEB特集

北朝鮮取材記【1】 地方都市を見た

9月10日 17時30分

青木良行デスク

北朝鮮は、終戦前後に現在の北朝鮮領内で亡くなった日本人の遺骨の返還などについて、日本政府などに働きかけを続けています。
先日行われた日本との政府間協議でも、今後この問題を優先的に話し合うよう求めており、遺骨返還の話は日朝間の協議で焦点の1つに浮上してきました。
こうしたなか北朝鮮は、8月末から9月初めにかけて、日本の民間団体による遺骨の現地調査に同行するという形で、NHKなど日本のメディアの取材を受け入れました。
北朝鮮に入った記者たちは、何を見て、どう感じたのか。今回は、北朝鮮の中でもふだん入る機会のない地方都市の現状について、国際部・朝鮮半島情勢担当の青木良行デスクが報告します。(2回シリーズです)

地方都市の"意外な光景”

ニュース画像

今回の取材で訪れた地方都市は、日本海に面した北東部のチョンジン(清津)、東部のハムン(咸興)、それにウォンサン(元山)でした。
北朝鮮国内に関する情報というのはなかなか表には出てきませんが、地方都市についてはなおさら出にくいものです。

ニュース画像

「食糧事情は厳しい」「生活は貧しい」といった話ばかりが伝えられるため、地方はかなり悲惨な状況なのかと想像していましたが、今回の取材ではそれとは異なる一面を見ることができました。

ニュース画像

ニュース画像

最初に訪れたチョンジンの街角にはジュースやアイスキャンディーの売店があり、子どもたちがおいしそうに食べていました。
ウォンサンで利用したホテルの売店では、中国製の商品に混じって、日本のメーカーの缶コーヒーや日本酒、それにお菓子を売っていました。
北朝鮮では中国の通貨・人民元が流通していて、缶コーヒーの値段は15元、日本円でおよそ180円でした。
また、北朝鮮への輸出が禁じられているはずの日本製のたばこは50元、およそ600円でした。

ニュース画像

ニュース画像

ハムン市内では、宿泊先の目の前に海水浴場がありました。
滞在していた時はちょうど日曜日で、市内の家族連れなどが訪れ、浜辺で鉄板を囲んで豚やアヒルの肉を焼いて食べていました。
さすがにこうした余裕のある人はまだ一部だけだと思いますが、それでもこうして休日を楽しむ人々の姿が見られるとは思いませんでした。

ニュース画像

インフラ未整備も・ホテルは大変

北朝鮮ではこの夏、相次いだ大雨や8月の台風15号により農作物に被害が出たと伝えられていますが、移動中の車から見た限りでは稲やトウモロコシが豊かに実っているように見えました。

ニュース画像

個人的に一番驚いたのは、携帯電話が通じることでした。
現地に滞在中、我々はレンタルの携帯電話を利用しましたが、上記の3つの都市だけでなく、都市間をつなぐ幹線道路を移動している間も携帯電話のアンテナが切れることはほとんどありませんでした。
もちろん、地方にはまだインフラが十分整備されていない部分もあります。
ハムンで利用した宿泊施設で浴室に入ると、蛇口をひねっても水が出ませんでした。
施設の職員に尋ねると、浴槽にたまった黄色く濁った水を指さして、体を洗ったりトイレを流したりする時にこの水を使うよう説明がありました。
お湯は、水をはったバケツに電熱器を入れて温めるようにと言われました。
幹線道路はコンクリート舗装でしたが、ところどころがひび割れていて、乗っていた車はひび割れの道を過ぎるたびに上下に大きく揺れました。

ニュース画像

取材の自由度は?

今回の取材で回った場所、移動のルートはすべて北朝鮮側の入念な下見に基づいて決められており、その行程を外れるような取材はあまり許可されませんでした。

ニュース画像

ウォンサンでは、宿泊したホテルから見える港に、かつて新潟港に入港していた貨客船「マンギョンボン(万景峰)号」が停泊しているのを見つけましたが、ホテルの外には出ないよう言われていたので、船に近づいて撮影することができませんでした。
また、チョンジンの空港に駐機していた朝鮮人民軍の戦闘機など、軍事に関するものは撮影しないよう言われました。
しかし、それ以外の部分では撮影を禁じられるところはなく、私たち取材班に常に同行していた北朝鮮側の案内役から細かく注文されることはありませんでした。
北朝鮮側がコントロールする範囲の中では比較的自由に取材ができたと思います。

なぜ公開・北朝鮮のねらいは

ニュース画像

日本のメディアが一度に北朝鮮の地方へ取材に入ることは、異例のことです。
地方都市の公開を決めた理由としては、1つは日本人遺骨の返還問題について、北朝鮮側が日本との関係改善に向けた対話の糸口になると考えており、そのためにはこれまで積極的には公開してこなかった地方にメディアを入れるのもやむを得ないと考えていると思います。

ニュース画像

また、キム・ジョンウン体制が地方にもしっかり浸透しているため、外国メディアを入れても問題ないと考えているからかもしれません。
訪れる町の至る所で、「キム・ジョンウン第1書記をリーダーとする朝鮮労働党を命を懸けて守らなければならない」というスローガンをはじめ、キム・ジョンウン体制を礼賛する看板などが大きく掲げられていました。
そして、北朝鮮が変わったということをアピールしようというねらいもあったように思います。
今回北朝鮮に入った日本メディアはテレビ局が中心でした。
4月のキム・イルソン主席生誕100年の時と同じです。
取材班を案内していた北朝鮮の当局者は「我々は変わったんだ」と話していました。
北朝鮮の変化が今後どのような形で出てくるのか、引き続き注視していこうと改めて思いました。

本ホームページをご利用になるには、最新のFlash Playerが必要です。

上のバナーを押すとNHKを離れます。

動画:9月7日 ニュースウオッチ9より