現在の状況は軽水炉の事故としては想定内であり、その中でも最悪の事態(IAEAのレベル7)ではない。最悪の事故として想定されている「チャイナ・シンドローム」は、運転中の原発の冷却水が抜けて空だきになり、溶融した炉心が超高温になって炉内の水やコンクリートと反応して水蒸気爆発を起こし、圧力容器と格納容器を破壊して大量の「死の灰」が周囲に降り注ぐ事故で、映画にも描かれている。この映画はよくできており、いま見ると迫力があると思う。
チェルノブイリの事故は、黒鉛炉だがこの想定に近い。半径1000kmに放射性物質が届き、少なくとも数万人が癌で死亡したと考えられている。しかし福島第一の場合には、このタイプの事故はすでに避けられた。制御棒が挿入されて核反応は終わっており、5日以上冷却されているからだ。燃料が溶融して厚さ15cmの鋼鉄でできている圧力容器を破壊し、さらに格納容器も破壊することは考えにくい。格納容器の中には海水が満たされており、最悪の場合でもそこで止まるだろう。
原発の危険は核爆発ではなく、放射能汚染である。この点では、原子炉よりも使用ずみ核燃料の問題のほうが深刻だ。プールに保存されている核廃棄物は約200トンで、原子炉内の核物質より多く、その主要な成分であるプルトニウムの毒性は核燃料のウランよりはるかに高いからだ。さらにサイト内には6400本の使用ずみ核燃料が貯蔵されており、この冷却がうまく行かなくなると危険である。
使用ずみ核燃料で事故が起きた場合にどうなるかも想定されており、これは再処理工場の事故に近い。核廃棄物が過熱して火災が起こると、それによって放射性物質が拡散され、サイトの周辺が放射能で汚染される。今のところ使用ずみ核燃料プールの温度は100℃以下と推定されているので、それほど心配はないが、ここで核廃棄物が集まって再臨界を起こすと暴走して、大量の死の灰が炎に乗って立ち昇るおそれがある。
しかし以上のような最悪の事態が発生しても、人体に影響が出るのは原発から半径100km以内だろう。200km以上離れた東京にも放射性物質は飛んでくるが、人体に影響を及ぼすほどの量が飛来することは考えられない。政府の避難計画はレベル7も想定して立てられており、現状はレベル5である。「外人は逃げた」とか「政府は隠している」という疑心暗鬼があるようだが、被害想定ではレベル7事故が起こっても東京には避難勧告は出ない。警戒は必要だが、過度に心配することはない。
原発の危険は核爆発ではなく、放射能汚染である。この点では、原子炉よりも使用ずみ核燃料の問題のほうが深刻だ。プールに保存されている核廃棄物は約200トンで、原子炉内の核物質より多く、その主要な成分であるプルトニウムの毒性は核燃料のウランよりはるかに高いからだ。さらにサイト内には6400本の使用ずみ核燃料が貯蔵されており、この冷却がうまく行かなくなると危険である。
使用ずみ核燃料で事故が起きた場合にどうなるかも想定されており、これは再処理工場の事故に近い。核廃棄物が過熱して火災が起こると、それによって放射性物質が拡散され、サイトの周辺が放射能で汚染される。今のところ使用ずみ核燃料プールの温度は100℃以下と推定されているので、それほど心配はないが、ここで核廃棄物が集まって再臨界を起こすと暴走して、大量の死の灰が炎に乗って立ち昇るおそれがある。
しかし以上のような最悪の事態が発生しても、人体に影響が出るのは原発から半径100km以内だろう。200km以上離れた東京にも放射性物質は飛んでくるが、人体に影響を及ぼすほどの量が飛来することは考えられない。政府の避難計画はレベル7も想定して立てられており、現状はレベル5である。「外人は逃げた」とか「政府は隠している」という疑心暗鬼があるようだが、被害想定ではレベル7事故が起こっても東京には避難勧告は出ない。警戒は必要だが、過度に心配することはない。
コメント一覧
いつも拝読させていただいております。
もし制御棒が有効に働いているのだとすれば、これ以上の放射能もれを防ぐためにも、封じ込めの段階に進むべきではないでしょうか?
本来コンクリートで行うべき作業なのでしょうが、この際300トン程度のホウ酸入りの砂を上空から投入するだけでも、相当な効果があると素人ながら考えます。
なお、防爆構造から言えば、壁が残り、屋根が吹き飛ぶ構造に元からなっていることはもうすこしマスコミで言及されてもよいのではないかと考えています。
残念ながら原子力産業はこの映画が指摘する様に一種の虚構の上に成り立っている。最も厳しい検査基準を要求される一次系等の機器では検査図書のみで数十センチにもなる。小さい手に乗るような部品でも材料組成検査記録、強度試験記録、X線記録写真等、山の様な検査記録書を要求される。それで機器の信頼性が高くなるかと問われると一般用途のものとそれ程変わらない。然しながら検査の要求水準は実現不可能なほど高いものが多いのだ。従って製品が検査基準に合わない物でもメーカーが使用上問題無しと判断すれば検査記録を改竄し、検査図書は大半が作文という事も珍しくないのだ。電力会社自体が監督官庁向けの定期点検の報告書を手抜き改竄することがあるのでメーカーだけを責めるわけにはいかない。
ずいぶん前見たこの映画で今も鮮明に覚えているシーンがある。冷却用循環ポンプのケーシング(鋳造品)に引け巣(空洞の欠陥)があるのに隠していたと批難されたメーカーの技術者が「この程度のことは何処でもやっている」と開き直るのだ。これは機械や鋳造の技術者であれば誰でも知っている事実なのだ。ポンプやバルブの鋳造品は肉厚の部分はゆっくり冷え固まり、肉薄部分は早く固まるので程度の差はあるが巣は必ず出来るのである。
重箱の隅をつつき木を見て山を見ずというのが原子力であろう。機械や構造物の設計には「安全率」を使用する。エレベーターのワイヤーは破断強度が使用応力の10倍前後、循環ポンプのシャフトの強度の安全率は5位だろう。津波の高さは最大5mは想定したいただろうから、安全率は僅か1.4位しかみてなかったことになる。
ひさしぶりに保安院からいいニュースがでました:
http://kinkyu.nisa.go.jp/kinkyu/2011/03/2918630.html
1-3号機の原子炉圧力容器への海水注入が再開されました。 なんとか、 外部電源も回復されることを願っています。 高度の放射線の下のきわめて困難な作業だとおもいます。
作業員の方々の無事を祈りましょう。
それから、細かいことですが、格納容器は水につかっていないようです。
東電会見: 1~3号機の海水注入について圧力容器をまずは水につけている。 注入ポンプと水がギリギリの状態で格納容器までの注水は出来ない。
格納容器が水浸しだと、 電源が回復されてもEECSのポンプ駆動用モータが使えないおそれがあります。
>人体に影響が出るのは原発から半径100km以内だろう。200km以上離れた東京にも放射性物質は飛んでくるが、人体に影響を及ぼすほどの量が飛来することは考えられない
逆に言えば、最悪の事態を想定した場合、100km圏内は人体に影響を及ぼす放射性物質が検出されるおそれがあるということですよね?
私は、福島原発から50kmのところに住んでいるので、正直、今後この土地にもう住めないのではと考えています。なぜ、政府は先生のおっしゃる最悪の事態を想定して避難範囲を広げないのでしょうか?
このブログを読んで、私には尚更政府を信じることができなくなりました
地形的に見ると、少なくとも南・西側は山で遮蔽されていますよね。
山くらいの質量があれば、以遠で直接の放射線は影響無いのかな?
あとは飛散物をどれだけ抑えられるかですね。
対処に何年かかるかなぁ。
「チェルノブイリの事故は、黒鉛炉だがこの想定に近い。半径1000kmに放射性物質が届き、少なくとも数万人が癌で死亡したと考えられている」とありますが、
イギリス政府の科学顧問ジョン・ベディントンは16日の電話会議で「チェルノブイリ原発の事故を例にとっても、発電所から半径30キロメートルを超えた地域では、放射性物質に関連した問題は起こらなかった」と言っているそうです。
http://www.sankeibiz.jp/compliance/news/110318/cpd1103180503007-n1.htm
「半径1000km」と「半径30キロメートル」はかなり違うようですが・・・。
癌との因果関係の分析はむずかしいようですね。CTスキャナーの検査も発癌確率が高まると思われるが、それをいうなら日光浴をするのも発癌確率が高まるだろうし・・てなことで。
菅首相が「最悪の場合東日本には住めなくなる」といったとか。しかも非公式の場でそんなことをいって現場の人間を脅しているということに報道上はなっている。首相はちゃんと公の場で、なにを根拠にそんなことをいうのか説明すべきですね。もしくは報道が事実ではないとちゃんと否定すべきです。
報道されているような、現場の作業員を率先して切り捨てるような態度・発言が事実だとしたら大問題です。
世界の専門家が注目しているのはプールサーマル運転をしていた3号炉のようですね。プールサーマルを知らない専門家が今回の事故を正しく論評することはできないでしょう。素人考えですが、1号炉や2号炉が沈静化しても3号炉が沈静化するまでにかなりの時間がかかると思います。東電には、1号炉や2号炉だけでなく3号炉を廃棄する覚悟も必要です。多額の損害賠償をしなければならなくなるでしょうから、東電は倒産するでしょう。しょうがないです。一時的に国有化するしかない。
これだけの大惨事が起きると人間の考えも変わります。私は、原発をなくす方向で国のエネルギー戦略を再構築するしかないと思う。ただし、今すぐすべての原発を停止させることはできません。また、運休している石油火力発電所や石炭火力発電所の運転を再開することが当面の対策になると考えます。
「規制緩和」という言葉がむなしく聞こえてきますよ。暗黒時代にしないための、最低限のことはしっかりやりたいと考えます。しかし今はそんなことを言っている場合ではありません。
私が言いたいのは、池田さんが何を言おうが大前さんが何を言おうが、あるいは広瀬某が何を言おうが、3号炉でプールサマール運転をしていた以上、チェルノブイリ級の事故にはならないと断言することはできない状況にあるということです。3号炉が部分的にメルトダウンしたとの情報も流れていて、非常に危険な状態が今も続いている。菅直人は、「自分は原発に詳しい」とか言ったようですが、総理の曖昧な知識が災いになるかもしれません。
河野さんは、「だからプルトニウムを燃やすのに反対していた」と言うでしょうが、今はそんなことを言ってる場合ではない。古い1号機と2号機だけでなく新しい3号機も廃炉にする方向で対処しなければならない。東電が躊躇しているようなら政府が判断を下すしかないでしょう。また、万一のことを考えて、政府は100万人の避難対策を準備しなければならないと思います。
地理的な差の影響もあるのでしょうが、より世代の新しい福島第二原子力発電所の方は正常停止出来てるようですね。その事からすると、個人的には原発は安全と言ってもよさそうな(勿論、現経営陣は以ての外ですが)気がしますが、やはり世論は赦してはくれないでしょうね・・・
日本のエネルギー政策は今後二度と起こしてはならないクラスの大事故を起こしてしまったことは確かですね。その意味では、やや不謹慎な例えかもしれませんが、今回の事故は過去の広島長崎の原爆被害と似た意味合いを持つのだと思います。きっとあの時も、あのような悲惨な事態に直面したことでそれに懲りたというわけで。戦後の平和と、それをささえる冷静構造もあの経験があって初めて在り得たように思いますので。
というわけで、今後の原発政策を考えると、まず有力なのは、これに懲りて国内では原発を放棄するという選択肢ですが。私は個人的には、安全基準をさらに厳格化し、さらに万全の最新のものであれば原発は別にあってもいいと思う人間ですが、これはなかなか難しいのでしょうね。
しかし問題は、日本だけでなく今後世界じゅうで、特に新興国で多くの原発が推進される模様にあるという点です。日本だけの問題ではない部分が非常に大きいということ。どのみち今回の日本の経験はそれらに生かされるとは思いますし、また絶対にそうあらねばならないとは思いますが。
こちらの動画はどう思われますか?
【3月17日】福島原発の現状と予想される危険~後藤政志さん
http://www.youtube.com/watch?v=Cu45VfDid4k&feature=more_related
3号炉が暴走している恐れがありますね。半径30kmの住民は非難したほうがいいでしょう。政府は必要な対策を施すべきです。民主党は何をしているのだ!
余談ですが、この事故を糧にして安全な原発をつくりましょうと言ってる人たちは国家エネルギー戦略を考えているのでしょうか。プルトニウムが使えなければ石油より先にウランが枯渇してしまうのですよ。石炭火力を中心にして国家エネルギー戦略を再構築すべきです。
情報についていけてないんで、僕の現状の想像を下に書いておきます。記者会見などを真面目にみている方、訂正してください。
1、制御棒は無事全て入っており、ウランの核分裂は1~6号炉すべてで止まっている。今問題になっている熱は、セシウム等の使用済み核燃料中の放射性物質によるものだけ。
2、格納容器は無事で、炉内の核燃料が溶けても、外にはほとんど何も出てこない。
3、それでもセシウム漏れが起こったのは、原子炉建屋にあった使用済み燃料貯蔵プールにあった使用済み燃料が原因。
4、格納容器の内圧が水素によって上がり、それを抜いた時に爆発が起こった。爆発は小さな問題だけど、実はその外側に使用済み燃料があったので、これを飛散させた。
5、Wikipediaによると使用済み燃料にはプルトニウムが1%含まれており、これも飛散している。しかし遠くには飛ばない。
6、使用済み燃料貯蔵プールはウラン・プルトニウム以外の放射性物質の反応により発熱するため、これも水冷していたが、その水も無くなったために発熱して、沸騰(水じゃなくて金属が)しそう。沸騰するとさらに放射性物質をまきちらす。場合によっては再臨界もありうる。それを防ぐために最近、一生懸命放水している。(僕は再臨界はあり得ないと思っていますが噂より。)
これらが正しいとしたら、いろんな事が僕の中でつじつまが合うんですが。。。
みねちゃんさんのコメントの3以降は考え過ぎではないでしょうか。
使用済み核燃料の冷却と放射線の遮蔽を司る水が減っているので放射線が検知されているだけでは。いきなり破損という話がどこからくるのか。多少ガス成分としての放射性物質は検知されるでしょうが。
使用済み燃料棒は「使用済み」であるので金属が溶解するほどの高温にはなりません。ただし、放射線が強いので水を補給して遮蔽してやらないと周囲に害を及ぼす。水の沸騰の話が取り違えられているように思われます。
ところで、池田さん。
今回の政府と東電の対応はだんだん「不透明で不誠実」と言う空気になってきましたが、わたしは当初から情報公開に関しては、不手際はあるものの、まぁまぁな対応だと思います。
どうも、2−3日で終わらなくなったのでマスコミが理解できなくなって、都合の悪い事を東電や政府に押し付けてそういう空気を作っているように見えるのですが、どうでしょう。
記者会見を見てても、横暴で現場で努力している人を思いやらないマスコミの質問が目立つような気がするんですが。しかも、最低限の知識もなさそうですし。マスコミのレベルがみんなを不幸にしているような気がするのですが、
いかがでしょう。
sudoku_smithさん、
あまりに情報が錯綜していますが、
漏れているのは「放射線」ではなく、セシウム等の「放射性物質」であることは間違いありません。「放射線」なら「服に付着」とか、「東京で検出」とかいうことはあり得ません。
「放射線」なら、sudokuさんのおっしゃる通り簡単に止まりますが、事態はそれより深刻なようです。
また、使用済み燃料はアルファ崩壊などで、びっくりするくらい熱が出ます。これは水を沸騰させ、金属を溶解するぐらいの熱です。水は放射線の防護のためではなく、本当に冷やしているのです。
どちらの知識も、さる関係者から聞いていた知識で、理系の人間でも決して常識ではありません。
「一般人」、「文系だけどある程度知識がある人」「理系の一般人」、「原子力の問題に詳しいけど、現場の知識がない人」の間で、理解に差がありすぎて、良くパニックにならないものだと思います。
みっちゃんさん、申し訳ありません。うまく伝えきれなかったようです。
セシウムは確かに燃料棒から出た物と思いますが、これは非常に水との反応性が高く、また酸化されやすいので、現在継続的に格納容器内の圧力を下げるために逃がされている水蒸気に含まれるのではないかと思います。
多分、燃料棒が暴露状態になった事で多少出たのでしょうが、今後落ち着くと思いますよ。池田さんのビデオ紹介にある、「うんち」ではなく「おなら」に含まれる物ではないかと。
あるいは、使用済み燃料が暴露雰囲気になったのであれば、そちらからも多少水蒸気に混じって出ると思いますが、それも同様に、水による温度低下と遮蔽によりカバーされます。すべての放射性物質を同じ重みで考える必要はないと思います。
一方で、使用済み燃料の件ですが、私も専門ではないので、一般的な理解のコメントしか申し上げませんでしたが、確かに発熱はしますが、それで燃料棒が壊れるほどとは認識しておりませんでした。
この件に関してはもう少し正確なソースが欲しいと感じます。池田さんも「再臨界」に達する可能性を(低いながら)指摘してらっしゃいますが、どうもそうは思えないんですけどね。だって、自然に核反応を起こすには濃度が低すぎると思いますよ。U235は0.数%以下(天然ウランより低い)でしょうし、プルトニウムはそんな濃度にもいかないでしょう。ましてや既に数年保管されたものなら短期な物は崩壊済みで、発熱自体も減ってるはずです。
どなたか専門家にアゴラにて解説してほしいですね。