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民主党代表選が告示された。野田首相に、赤松広隆元農水相、原口一博元総務相、鹿野道彦前農水相の3氏が挑む。首相の優位は動かないとみられる。それでも候[記事全文]
日米両政府に対する沖縄の不信と怒りが、大きなうねりとなって広がった。米軍の新型輸送機オスプレイ配備に反対する県民大会が、沖縄県宜野湾市であった。主催者発表で約10万1千[記事全文]
民主党代表選が告示された。
野田首相に、赤松広隆元農水相、原口一博元総務相、鹿野道彦前農水相の3氏が挑む。
首相の優位は動かないとみられる。それでも候補者乱立となったのは、低迷する党の現状への危機感の表れだろう。
この代表選を、「民主党とは何か」を問い直し、信頼を取り戻す第1歩とすべきだ。
近年の代表選の対立軸は、小沢一郎元代表だった。もっぱら「親小沢か反小沢か」の不毛な対立が繰り返された。
その小沢氏が離党した後の今回こそ、政策本位の論戦の場としなければならない。
まず消費増税をふくむ、社会保障と税の一体改革だ。
民主、自民、公明の3党合意で進めた一体改革に、異を唱えるのは原口氏だけ。赤松、鹿野両氏は党分裂を招いた首相の責任を追及しつつも、3党合意は継承する、という立場だ。
小沢氏ら70人以上の離党者を出し、党内もようやく収斂(しゅうれん)してきたといえよう。
「脱原発」の方向性では、4氏はおおむね一致している。論戦を通じ、具体化に向けて党内の意思統一をしてほしい。
物足りないのは、4氏の口から明確な国家像、社会像が聞かれないことだ。
民主党はいま深刻な「自己喪失」の状態にある。
09年総選挙で高福祉路線にもとづく公約を掲げたが、政権に就くや財源の壁にぶつかって次々と取り下げた。
一体改革法の成立は、野田政権の最大の成果だが、今度は逆に自民党との違いが見えなくなってしまった。党内から「自民党野田派だ」といった批判が起きるのも、「何をめざす党なのか」がわからなくなった悩みの表れといっていい。
自画像を描き直すのは簡単ではあるまい。だが、一体改革と原発問題に、ひとつのヒントがあるのではないか。
重すぎる借金も、原発による禍根も、将来に残してはならない。選挙権を持たない将来世代こそ弱者であり、そこに責任を持つ政治のありようである。
この代表選を機に、そんな政策体系をつくりあげることはできないか。
一方、自民党総裁選では谷垣禎一総裁が立候補を断念し、中堅、ベテラン議員が次々と名乗りをあげている。
民主党の低迷で救われてはいるが、将来ビジョンを描けない点では自民党も同じだ。
有権者が見ているのは、新しい両党首の「顔」だけではない。それを忘れてはならない。
日米両政府に対する沖縄の不信と怒りが、大きなうねりとなって広がった。
米軍の新型輸送機オスプレイ配備に反対する県民大会が、沖縄県宜野湾市であった。主催者発表で約10万1千人が集まり、市内にある普天間飛行場への受け入れ拒否の声をあげた。
1996年に日米で合意した普天間飛行場の返還は、基地があることによる負担と危険を減らすためだった。
住宅や学校に囲まれた飛行場の危険さは、変わっていない。そこに安全性で論争が続くオスプレイを持ち込むことを、地元の人たちは受け入れられない。
「沖縄の青い空は私たち県民のもの」という大会での声は、その思いを伝える。県民らは、米軍基地をめぐって構造的な差別があると感じている。
たとえば、米国はすべての軍飛行場のまわりに、発着の安全確保のため、建築物を一切建ててはならない「クリアゾーン」をおくと義務づけている。
ところが、普天間飛行場では危険なクリアゾーンが外にはみ出し、そこに普天間第二小学校など18施設があり、約800戸に3600人がくらす。
本国では運用できない基地を沖縄では使い、新たにオスプレイ配備も進める米国の姿勢は、命を軽視する二重基準や差別であると、県民には映る。
沖縄で、米軍機の墜落事故は数々のいまわしい記憶につながる。59年には沖縄本島中部、石川市(現うるま市)の宮森小学校に戦闘機が墜落した。パイロットは直前に脱出して助かったが、児童ら18人が死に、210人が負傷した。
基地の負担は、県民の受け入れられる我慢の限界を超えている。また、現実の問題として、米軍は住民に嫌われて、基地を円滑に機能させられるのか。県民大会に集まった人たちは、普天間飛行場のフェンスに黒いリボンをくくりつけた。
計画にこだわって配備し、その後に万一のことがあれば、日米関係を大きく傷つける。
本土は、沖縄がどんなに苦しい状況にあるかを知らなくてはならない。野田首相はこの声を受けとめるべきだ。そして沖縄の人たちに対して「配備は米政府の方針」という言い方ではなく、自分の言葉で話すべきだ。米国との交渉も必要だ。
一日も早く、普天間飛行場を返還させる日米合意の原点に戻ろう。そして、名護市辺野古への移設が無理なことも、県民大会の声を聞けば明らかだ。
現実を認めることから始めなければ、解決策はない。