*
ー翌日ー
「泰斗~起きなさぁい」
「…んん」
母さんの声で俺は、ゆっくりとベッドから起き上がる。
ベッドの横に置いてある時計を見る。今7時ぐらい。今日は学校。
小走りでリビングに向かう。
「湊さ~ん。はい、あ~ん」
「ん、美味しいよ~」
リビングでは母さんと父さんが馬鹿みたいに食べさせ合いしてラブラブしていた。
俺はテーブルに座って朝ごはんをいただきます。
我が家の朝ごはんはいつも食パンとベーコンエッグにサラダだ。
俺は食パンかじりながらテレビを拝見。内容なんてわかんないけど。
「泰斗、最近学校どうだ?」
「ふつう」
「そうかそうか。ならいいんだ」
父さんと俺の会話って大体いつもこんな感じ。
ちなみに姉ちゃんは隣で目玉焼き頬張ってる。
「湊さん、お口にソースが」
「あ、ごめんよ沙希。ありがとう、愛してるよ」
「ウザい」
父さんと母さんのラブラブっぷりに耐えれなくなったのか、姉ちゃんが舌打ち混じりにツッコミする。
「父さんと母さんウザいよいつもいつも」
「なんだ沙伊?母さんにヤキモチか?可愛いやつめ」
「ウザい」
姉ちゃんがさらに言う。しかし父さんはそれを気にせず、母さんとラブっていた。
俺が食パン食べ終えてベーコンエッグ食べようとした頃に姉ちゃんが食べ終わった。
俺も早く食べ終わろうと、急いでご飯をかきこむ。
と、
「…?」
何か後ろから視線を感じる。たぶん誰かがこっち見て…。
でも母さんも父さんも姉ちゃんも、誰も俺を見てはいない。
しばらくきょろきょろして、(まさか外?カラスかな)と思ったから外を見る。
すると
「!」
口に入れてたベーコン吹き出しそうになった。
なぜなら
外の庭に植えてある塀の間から大きな目玉が覗いて、俺を見ていたからである。
大きく大きく見開いた目。
その目が俺を見ていた。
まるで俺を見捉えるかのようにただ見ていた。
俺はその場から数分動けなくなり、ただ震えてその目を見ないようにするので精一杯だった。
俺は急いでご飯を食べ終え、逃げるように部屋に戻り勢い良くドアを閉める。
「泰斗ー、行儀悪いわよ」
「ご、ごめん…」
母さんの言葉に小声でそう呟きながら、俺はドアの前にうずくまり涙目で震えていた。
何とも言えない恐怖心に駆られ、思わずあの場から離れたが。
その頃に気付いて、俺が夢羽と亜奈乃のを無理にでも仲直りさせれば良かったのだ。
そうしていれば、と後悔は尽きない。
俺はしばらくして震えが収まったころ、ランドセルを背負い家を出た。
*
外はそれなりに暑く、汗が額に流れる。
俺の小学校の一学年のクラスは4つ。俺と亜奈乃は3組。
教室に入ると、クラス中の皆が下敷きで自分を扇いでいた。
「泰斗おはよー」
「あ…お、おはよ」
クラスメイトに声を掛けられ、思わずつまってしまう。
通学路でもずっとあの目のことを考えていた。
それと、この頃は亜奈乃と一緒に学校行ってなかったので朝何も話していない。
まぁ教室にはいるけど。
「よ…ようあなの」
「…なに?」
明らか不機嫌そうに顔をこちらに向けた亜奈乃に俺は少したじろいだ。
「あ、あのさぁ、こんどさんにんでカブトムシがいるってうわさの『れんげこうえん』にさんにんでいかね?
ほら、あなのもまえみたがってたじゃんカブトムシ」
「…」
亜奈乃が興味を持ったような顔をする。
今の亜奈乃は虫大嫌いだが、この頃の亜奈乃はカブトムシにダンゴムシ、モンシロチョウ、ついにはクモまで昆虫が大好きなわんぱく少女だった。
一度俺とカブトムシを見に行こうと森に行ったことがあったのだが、そのときは見ることができず、次の機会にしようと持ち越したのだ。
「…なんでさんにんなの?」
「えっ」
言われると思ったが、まさかそんな単刀直入に言われるとは…。
そしてそのおもいっきり敵対心丸出しの言い方…。
夢羽となんかあったんだろう、とすぐわかるような態度だった。
「さ、さんにんで行ったほうがたのしいし、カブトムシもみつけやすいだろ?」
「…へー」
亜奈乃はそっぽを向いた。俺はため息をついて話しかける。
「こんしゅうのにちようびに『れんげこうえん』3じにまちあわせだからな」
「…うん」
そう言って俺は自分の席に着いた。
クラスの暑い温度は俺達の距離を溶かしていく。
*
学校はいつも通り過ごし、水曜日の今日は剣道があった。
学校の帰りは家に帰らず武道場へ向かう。
武道場は結構大きく、中には20人から30人程の小学生中高年の男女が胴着を着たり、竹刀を持ったりして稽古をしている。
「たーいーとっ」
後ろからポンッと肩を叩かれる。後ろを振り向くと、私立校の制服であるセーラー服を着た夢羽が柔らかい笑顔で話しかけてきた。
「きょうはちこくしなかったんだね」
「あ、うん。きょうはとくになんもなかったから」
俺はランドセル、夢羽は鞄を下ろしながら服を脱ぎ胴着に着替えた。
そして、自分の名前が刺繍で縫われた袋に入ってる竹刀を取り出し稽古を始める。
稽古と筋トレをおよそ30分。
それから先生に指導してもらい、手合わせをする。
俺は毎回先生に「姿勢よくしろ泰斗!背筋伸ばせ!」と言われる。
注意はしてるつもりだがついつい背筋が曲がってしまうのだが。
指導も受け、手合わせを始める。他人の手合わせはじっくり観察するに限る。
特に夢羽や上級生の手合わせは見てて面白い。
さて、夢羽と上級生で1番強い男子との手合わせをじっくりと眺めるとしようか。