ねじ(ボルト|ナット)・ばね(スプリング)の業界新聞。
金属産業新聞社

文字サイズの変更
ウェブ サイト内

時評

時評 > ねじ

シリア情勢影響か、ねじ輸出にも動き

財務省の貿易統計によると、今年1月から7月までのねじ輸出は、平均で2万8000d台、227億円台で2011年と比較して量でプラス2万d、金額でプラス20億円上回るペースで推移している。

こうした中、幣紙がまとめている大口の輸出国ランキングに変わった動きがあった。3月と7月にステンレス鋼製ボルトの品目に限って、常連組である中国、タイ、アメリカを抜いてあまり目にしなかった国が首位に躍り出ている。中東のシリアである。

この品目では例年、上位国の水準は金額で6千万から8千万円台であるが、7月のシリアの輸出は、この水準を大きく抜いて3億2389万円を示した。金額ベースで首位ではあるものの、数量をみてみると全体の5%、11dと少なく、トンあたり価格は異常に高く適正価格からは大きく逸脱しているため、統計数値に誤りがある可能性もあるが、次のような分析をしてみた。

2011年発生のチュニジアのジャスミン革命を契機にアラブ各地で起きた騒乱、いわゆる「アラブの春」により、シリアではアサド大統領率いる政府軍と反体制派による激しい内戦状態が続いている。両勢力による市民への虐殺も行われているとの報道もあり、最近では日本人ジャーナリストの死亡も確認され、国内でも大きく取り上げられている。

強硬な態度をとるシリアに対する批判が高まる中、各国が対シリアの包括的な輸出規制を始めている。アメリカは、ヒズボラやパレスチナ過激派支援によってシリアを以前からテロ支援国家としており、2004年にはシリア問責法に基づいて医薬品や食料品を除くシリアへの輸出を全面禁止している。今回の反政府デモにおける政府の弾圧に抗議して、対シリアへの制裁を一層強化していく構えだ。EUも7月末にシリア政府に対する武器などの禁輸措置の強化と制裁を拡大することで合意している。

シリアは石油輸出を主要とする一方で、他国から主に金属や金属製品、機械、自動車を輸入している。2010年のシリアの対日輸入(財務省貿易統計)は194億円で主に自動車や一般機械だった。こうして見ると7月のステンレス鋼製ボルトの対シリア輸出が3億円以上という数値がいかに高いものかがわかる。

これまでシリアと伝統的に良好な関係を築いてきた日本も、今回の弾圧で制裁を強化している米国やEUと足並みを揃え始めている。日本は、シリア政府関係者の資産凍結を追加したほか、8月13日には、経済産業省が「大量破壊兵器等及び通常兵器に係る補完的輸出規制に関する輸出手続き等について」を改正して核兵器の開発に用いられるおそれの強い貨物例の品目リストにシリア向け関連汎用品目を追加して規制を強化した。品目は主に特殊金属や機械であり、ねじ等のファスナー部品そのものは規制対象外となっているが、今後この規制範囲が拡大する可能性は否定できない。今回、なぜステンレス鋼製ボルトに限って大きな輸出額の動きがあったかまで調査できなかったが、対シリアへの各国の輸出規制強化が影響している可能性はあるだろう。

2012/09/10 金属産業新聞