「あの男1人のせいで、住民は商売もまともにできないし、町内を自由に歩くこともできない。頼むからここから出て行ってほしい」
今年5月15日、ソウル市東大門区内のある地区の住民153人が、同じ町内に住む男の転居を求める嘆願書を、警察署に提出した。男はここ10年間、ほぼ毎日酒に酔って町内をふらつき、暴言を吐くなど迷惑行為を働いている。町内全体が男の「遊び場」と化しているのだ。住民たちは男のことを「怪物」と呼び、警察は前科27犯のこの男を「酒暴(酒に酔って近隣住民に常習的に迷惑を掛ける人物)」としてマークしていた。
この男のように、酒に酔っては近所の住民に迷惑を掛け、金を巻き上げる人間が、町のあちこちに潜んでいる。いわゆる「酔っぱらいの怪物」だ。この怪物たちは毎日、平凡な人々の日常生活を邪魔し、苦痛を与えている。本紙の取材チームはソウル市内の主な派出所や交番14カ所を徹底的に取材し、「暴力団より怖い」と恐れられている「酒暴」たちの実情に迫った。
■酔っぱらい1人におびえる町民たち
問題の男はもともと、タクシーの運転手をしながら生計を立てていたが、2002年からは仕事がない状態が続いていた。毎日のように酒に酔って町内を1周するのが「日課」になっている。毎日、焼酒(韓国式焼酎)を2-3本飲むと、まず町内の住民センターを訪れる。そしてセンターの職員に「困りごとがあるから話を聞いてほしい」と言って座り、長々と身の上相談を始める。09年7月からこれまでに、男が住民センターの相談コーナーを利用した回数は1330件。休日を除き、1日2回の割合で訪れていることになる。公式には「相談」と記録されるが、住民センターの職員の脳裏には「悪夢」として記録されている。男が住民センターを訪れるたび、センターの中は修羅場と化すからだ。男が迷惑行為を働く対象は、決まって女性職員だ。「おい、兄ちゃんが来たぞ。コーヒー入れてくれ」という一言で始まり、最後は「お前ら皆、殺してやる」で終わる。住民の悩み事や相談事を解決するはずの場所が、男の「ストリップ劇場」と化したこともある。
住民センターを出ると、次は町内を1周する。男は町内の病院や薬局、軽食店、携帯電話販売店などを転々とする。靴を脱いで待合室に寝そべると「おい、痛くて死にそうだ。早く治してくれ」と叫ぶ。すると、診察を受けるために病院に来ていた患者たちは、1人、また1人とその場から立ち去ってしまう。携帯電話販売店では「料金が高すぎる。まけてくれ」と言いながら店員をののしる。以前、酒に酔って町内をふらついている途中で薬局のガラス窓を割ったこともあるが、店主が告訴すると「告訴を取り下げないと火を付けてやる」と脅迫したこともあった。