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2012年3月7日水曜日

2章 汚染除去作業員



                                                                          
自発的であれ、強制であれ、事情を知っている場合であろうとなかろうと、汚染除去作業員は、チェルノブイリ大惨事の被害拡大を抑えるために、自らの生命と健康を犠牲にした。彼らが行った任務のおかげで、他の人々がより最悪な危害をこうむるのを防ぐことができた。作業員は私たちから尊敬されている。しかしながら、不幸なことに彼らは、火災や有毒物質、放射線被ばくの犠牲となったばかりでない。無能な官僚たちによって彼らの病状とその経過が明らかにされず、適切な治療が保証されず、社会的にも金銭的にも支援されず、別の面でも犠牲となったのである。


これらの事情のもと、個々の人々の被ばく線量値は正確にわかっていない。この状況をいっそう困難にしているのは、これら汚染除去作業員が旧ソ連各地から動員され、任務が終了したのち故郷に帰ったということである。今日では作業員は、旧ソ連全体に分散し、住所氏名が把握できるのは彼らの半数にすぎない。そして、彼らのごく一部だけが定期的な検査の対象となっているのである。


問診票には紛らわしい質問が並べられ、意図的に誤解が生み出される仕組みになっていた。たとえば、「放射線被ばくによってある病気が引き起こされたか」という質問は「チェルノブイリ事故の結果として病気が出現したか」という質問に置き換えられた。それに加えて、がん以外の病気と放射線被ばくとの関連については、無視された-広島・長崎からのデ-タ解析による長年の知見があるにもかかわらず、そして、テキストや参考図書、国際機関からのレポ-トには言及されていないことをよいことに・・
この議論のインチキ論法はしばしば用いられている。

つまり、がんではない- 
ゆえに、放射線によって引き起こされたものではない
したがって、チェルノブイリ事故の結果ではない- 以上、終わり



現在、とても多くの汚染除去作業員たちが病気になり、さまざまな病(やまい)を同時に背負っている3)19929月にベルリンで放射線被害者に関する第2回世界会議が行われた。ミンスクのゲオルギ-・レプチン教授(=チェルノブイリ汚染除去作業員ユニオンの副会長)は「すでに70,000人の作業員が病気になり、13,000人が死亡した」と述べている4)


がん研究者のイワノフの調査で、ロシアでは汚染除去作業員の白血病リスクは、150300mSv被ばくした場合に2倍となることがわかった。この増加傾向は1986年~1996年の期間にピ-クがあり、その後19962003年にはおさまってきた。また脳血管障害の発病率も増加しており、特に6ヵ月以内に150mSvも浴びた作業員に顕著であった5)


  同じイワノフは、ロシアの汚染除去作業員たちの死亡リスクと放射線量との関係性を調査し、次の結論をえた6) 47,820人もの人々をコホ-ト研究(下記ご参照)し、中央値128mGy(=128ミリシ-ベルト)を被ばくした群では死亡率が有意に増加していた。固形悪性新生物(=がん)による死亡の過剰相対リスクは0.74/Gy(訳注:ある集団の通常のがん死が100名だとすると、1グレイ被ばくすることによって、174名に増えるという意味である。なお1Gy1,000mGy)であり、心臓血管性疾患による死亡は1.01/Gy、全ての死亡は0.42/Gyであった。


(参照:コホ-ト研究とは疫学調査の手法の1つである。たとえば放射能を被ばくした集団と被ばくしていない集団を一定期間追跡し、病気の発生率を比較することで、原因と疾病発生の関連を調べる観察的研究である。集団を前向きに追跡しているので、被ばくから病気の発生までの過程を時間を追って観察することができる)


2002年にウクライナ健康省は、病気として登録された汚染除去作業員の割合が1987年から2002年までの間に21.8%から92.7%に大幅に増加したと発表した。大惨事の19周年追悼式でパリのウクライナ大使館は作業員の94%が病気であると発表した7)。 2005年秋、キエフの医師たちは約2,000人の作業員が病気であり、今日ではその数は106,000人にのぼると述べている。しかし、ロシアやベラル-シにはそれに相当するデ-タはない。


旧ソ連に汚染除去作業員の登録記録(知られている限りであるが)がいくつか存在する。10,000人の作業員がウズベキスタンで登録されている。大惨事以降5年以内に8.3%の者が何かしらの病気を持つこととなった。事故以後10年で作業員の73.8%が病気になり、500人以上が死亡した。作業員の68.8%45種類の病気にかかっている。960名の作業員と200名の一般住民の罹病率とを比較した場合、前者では次の病気の罹病率が著しくに高いことがわかった:慢性脳循環不全症、自律神経失調症(起立性低血圧症)、慢性胃炎、十二指腸粘膜の慢性的炎症、慢性肝炎、胃十二指腸潰瘍、慢性胆のう炎、高血圧症、虚血性心疾患、慢性気管支炎、慢性腎盂腎炎、前立腺の慢性炎症、脊椎の退行性病変8)


2005年ホリシュナ氏はウクライナの男性作業員の死亡率を調査し発表した。1989年から2005年の7年間に、1000人当たりの死亡率が3.0人から16.6人へと5倍も増加していた。一方、同年齢の一般労働者では4.1人から6.0人になっていた9)


20059月初めにウィ-ンで開催されたチェルノブイリ・フォ-ラム会議(国連の組織)でウクライナ緊急事態省補佐官テチュアナ・アモソバは次のような発言をした。ウクライナでは、父親である汚染除去作業員がその職務遂行後に死亡したために、17,000以上の家族が国から給付金を受けていると10)


エドムンド・レングフェルダ-は、いろんな情報源からデ-タを集め、汚染除去作業員の死亡数は5万から10万人と推定した11)


さまざまな調査にもとづき、A.ヤブロコフ12)は、2005年までに112,000125,000人の汚染除去作業員が死亡したと推定した。ロシアとウクライナの死亡率に関する研究では、作業員のおもな死亡原因は、悪性疾患のほかに、がん以外の病気と重篤な多発性疾患(訳注:多くの病気を併発している状態)などが重要である。複数の病気に同時罹患するのは被ばくによる早期老化の一つの型であろうと思われる。電離放射線(下記ご参照)被ばくによってどのようにして老化が早まるのであろうか?

(電離放射線:原子は原子核とその周りをまわっている電子からできている。電離とは放射線によってこの電子が原子から弾き飛ばされることを言う。ここでは放射線と同じ意味で使われている)



2.1 放射線被ばくによる早期老化作用


ロシアとベラル-シ、ウクライナでの多くの研究で電離放射線は老化作用を促進することがわかった。ベベシコらウクライナの科学者は放射線による老化促進は正常な老化作用のモデルとなるかもしれないと述べている13)

 
 放射線は細胞構造にも細胞機能にも作用し、分子と遺伝子レベルで障害を与える。放射線の細胞障害と細胞変性は正常老化作用の際に働く生物学的メカニズムと同じかあるいは似かよっている;フリ-ラジカルの悪影響、DNAの不正修復、免疫システムの機能低下、脂質代謝の異常、神経系の組織変性など(ベベシコら、2006年)。


 放射線を浴びた原爆生存者を対象に前方視的疫学調査を行ったところ、平均余命ががん以外の病気のためにかなり短縮していた14)。


 ロシアとベラル-シ、ウクライナの汚染除去作業員での調査では、成人病の発病時期が正常老化作用で現れるよりも10~15年早く見られた15)。 まとめると次のようになる。


  • 血管の老化が早まった-特に脳の血管-そして冠動脈16) 
  • 老人性白内障、眼底血管の動脈硬化、そして早期視野狭窄17) 
  • 中枢神経系障害のため高次知的認知能力の喪失18)
  • 抗酸化システム-外的損害因子による細胞染色体の損傷の修復を担う-の安定性喪失19) 

P.フェディルコの報告によれば、放射線白内障(ある閾値以下では起きない)や放射線網膜症のような特有な目の病気がある。放射線を浴びなくても加齢によって同じことが起きることを考えれば、放射線は目の老化を促進するといえるであろう。


エレナ・ブルラコバらは、低線量の0.04160.004160.000416mGy/ト-タル0.00061.2 Gyのγ線(セシウム137)を照射する動物実験を行った。放射線を浴びた動物から細胞を採取し、その遺伝子と細胞膜について種々の生物物理学・生化学的パラメ-タを調べた。全体として、異常な線量依存がみられた。しかし、線量/効果の関係は一定ではなく非直線的で異なった特徴を持っていた。低線量被ばくは一般に傷害因子の効果を増強させた。照射の影響は対象動物の出力パラメ-タ-に依存していた。低線量をある間隔で小分けに照射した場合は、一回にまとめて照射するよりも障害の程度が大きかった。

 

同じブルラコバらの研究によれば、放射線照射は動物でも人でも、細胞膜の構造と特性、抗酸化物質活性とその濃度、調節酵素の活性などに悪影響を与えた。これはいわゆるペトカウ効果20) (訳注:1972年ペトカウが発見した現象で、少量で慢性的な放射線照射は高線量の短時間照射よりも細胞膜に与える影響はより大きいというものである。ラルフ・グロイブ、アーネスト・スターングラス共著「人間と環境への低レベル放射能の脅威」あけび書房2011年よりかそれ以上のものである。 トコフェノ-ルやビタミンA 、セルロプラスミンのような抗酸化物質が減少し、フリ-ラジカルとその副産物が増え、細胞膜が硬くなり、脂質の流動性が悪くなり、タンパク質成分が変性した。結局、老化現象で起きると同じことが-単に程度が違うだけで-放射線で起きていた。


ブルラコバ曰く「汚染除去作業員は一般の人より10年から15年早く年をとる。同じことは動物でも見られる。動物の場合でも“放射線不安症“や“放射能恐怖症”という病名がつくのだろうか(訳注:WHOに対する皮肉)」。彼女は、可能な治療として抗酸化物質を勧めている。しかし、適量が基本となる。なぜなら、量が多すぎると副作用が出るからである。動物実験では鶏白血病の初期段階-発病80日から250日まで-の進行を遅らせる効果があった21)



2.2がんと白血病


1986年と1987年にチェルノブイリで働いた汚染除去作業員(ロシア人)のあいだで白血病が統計学的に有意に増加した23)。 ロシアからの情報によれば、多くの作業員が現在病気にかかっており、特に白血病、肺がん、その他の腫瘍性疾患に苦しんでいる24)。 ジュリア・マロ-バによると作業員たちはおもに肺と気道のがんを病んでいる25)


オケアノフ26らによれば、ベラル-シの汚染除去作業員たちのあいだで対照集団(ビテブスク地域の住民)に比較して、肺や結腸、膀胱、腎、甲状腺のがんが有意に増加していた(p0.0527)

(訳注:p値とは例えば、100回、同じ検定を行った場合に、そのうち**回は誤った結論を得る確率、ということである。p0.05という値は“100回中誤った結論を得る確率は5回未満”という意味である。したがって数字が小さいほど統計的に正しいということになる。通常は0.05以下を有意差ありという)


ところが、作業員たちの発病の相対的リスクは対照集団と比較しても-甲状腺がんを除いて-近年(1997年~2000年)まで有意な増加はなかった。すなわち発病までに1215年の潜伏期があったということになる。作業員たちのあいだでは、がん(全てのタイプ)の1年の平均的増加率は5.5%であった。しかし、北ベラル-シの比較的汚染の少ないビテブスク地域ではわずか1.5%であった(p<0.05)。結腸がんの比較では、作業員とビテブスク地域の成人では年平均がそれぞれ9.4%3.2%の増加であった(p<0.05)。腎がんではそれぞれ8.0%6.5%の増加(p<0.05)、膀胱がんではそれぞれ6.5%3.8%の増加であった(p<0.05)


とくに長期間しかも高濃度放射線を被ばくした作業員たちでは、がんに侵される率はさらに高かった。また、作業員たちのあいだでも、高濃度汚染のホメリ(ゴメリ)地域で生活していた人々では発がん率は特に高かった。



2.3 神経系への損傷

                        
 1990年秋の初めベラル-シの精神科医コンドラシェンコ(ミンスク)は次のように警告した「大惨事の影響で、放射線に被ばくした人々の脳に病理学的変化がみられ、注意が必要である!」28。また、セミパラチンスク(カザフスタン)の核兵器実験地域周辺からの重要な記録(10年間)がある。それによれば、その地域で生活している村民たちは神経障害や知覚障害、頭痛に苦しんでいた。このような情報があるにもかかわらず西側諸国では真剣に受け取らず、むしろ逆に、チェルノブイリ事故後に起こった多くの健康問題は放射線のせいでなく、ヒステリ-反応と決めつけ、“放射線恐怖症” 29)という病気 をでっち上げた30)


キエフのパラギュイン生化学研究所のナデイダ・グラヤはチェルノブイリ地域に住む(棲む)人と動物の神経細胞を研究し、神経系にみられる損傷の原因は放射線への恐怖のためではなく、放射線のため組織が実際に深刻な障害を受けたためであると報告している31)


亡くなった汚染除去作業員たちを検死したところ、その48%は死因が血栓症あるいは循環障害によるものであった。がんは28%の割合で、死因の第2位であった。地域の除染を命じられた旧ソ連軍兵士たちのうち20,000人は治療あるいは研究のプログラムに参加している。彼らの多くは精神的にも肉体的にも重篤な状態にあり、この辛い経験に対処することが困難であると思っている32)


ベルン大学病院耳鼻咽喉科のアンドレアス・アルノルドによれば、多くの汚染除去作業員たちが苦しんでいる浮動性めまいの症状は中枢神経系の損傷によるものである33)。 また、作業員として働いたあと、多くの者が運転中に睡魔に襲われるため、その後の仕事をあきらめねばならなかった34)



2.4 精神疾患


1993113日発刊のモスクワタイムズの報道によれば、サンクトペテルブルクにあるクリニックで汚染除去作業員1600人を検診したところ、その80%が深刻な精神的問題に苦しんでいるという結果であった35)。 また、医療的援助を求めている作業員たちの40%は記憶喪失などの精神神経疾患に苦しんでいることがわかった。


数千人の汚染除去作業員のうち数十人は失語症や抑うつ状態、記憶障害、集中力の喪失に苦しんでいる36)。 放射線障害モスクワセンタ-に勤務する精神科医ジュリア・マロ-ヴァは作業員の健康問題にとりわけ関心をもち、次のように説明している-私たちの理論は、何らかの理由で、脳への血流が以前に、またおそらくは今でも減少しつづけているというものである。このようなタイプの疾患は作業員では他の被害者よりも多くみられる。


汚染除去作業員にみられる他の症状としてとりわけ多いのが慢性疲労症候群である。 ロガノフスキ-(2000,2003)によれば、0.3シ-ベルト以下の被ばくを受けた人の26%が慢性疲労症候群の診断基準に該当する。作業員では、慢性疲労症候群の頻度は、1990年から1995年では65.5%であったが、1995年から2001年では10.5%に減少していた。一方、いわゆるメタボリック症候群Xは同様の比較で15%から48.2%に増加していた。慢性疲労症候群やメタボリック症候群X は他の精神神経疾患や身体的疾患への前症状とみなされている。慢性疲労症候群はまた、環境的な影響を受けやすいと考えられており、また神経変性や認識障害、精神神経障害の前駆症状ともみなされている。大脳の左半球のほうが右半球よりも傷つきやすいようだ。


P.フロ-ル・ヘンリ-の報告によれば、さまざまなうつ状態、あるいは統合失調症や慢性疲労症候群のような症状は汚染除去作業員に非常に多く見られ、脳の器質的変化(右ききでは主に左半球の)を伴っており、脳波検査によって客観的に診断できる。彼らの考えでは、これは、さまざまな神経的、精神的疾患が0.150.5シ-ベルトの放射線ひばくで引き起こされるということを示しているようだ。


放射線被ばくの症状は早期老化という形でも現れてくる。そしてこれらの神経的老化症状は被ばくの時期が若ければ若いほど、より早く、より深刻に現れる。


彼はまた、脳波検査で脳の左半球に異常を示す疾患は、急性の放射線障害の作業員にも見られたと報告している。また、驚いたことに、これらの精神的疾患や脳波変化は、アフガニスタン侵攻に参加したロシアの退役軍人には見られなかった。その理由は、これらの兵士たちが大きな外傷的ストレスにさらされたが、放射線被ばくを受けなかったためであろう。ただし、チェリノブイリの作業員と違い、彼らは故郷で英雄とみなされることはなかった。


一方、チェリノブイリの作業員と第1次湾岸戦争やボスニア戦争の退役軍人に、磁気共鳴画像法や脳波検査、ポジトロン断層撮影法などの検査を行ったところ、脳の変化は両者で極めて酷似していることがわかった。P.フロ-ル・ヘンリ-の考えによれば、これは湾岸戦争やボスニア戦争での劣化ウランを含むロケット弾の使用に関係があるという。ロケットは空中にウラニウム238酸化物のほこりを放出し、人々に吸入された。そして、ウラン238に暴露された人たちが日本(1945年)の原爆被ばく者と同じような精神神経学的症候群に進行していった。


ロシア科学アカデミ-の神経生理学研究所のL.A.ザボロンコバと公衆衛生省放射線研究所のN.B.ホロドヴァは汚染除去作業員たちに神経学的調査をしたところ(37)、高次認知機能や精神機能が損なわれていた。それらは、思考の遅延、疲労の増大、視覚性・言語性記憶障害、高次運動機能障害などである。これらの症状は早期老化によるものと類似していた。


“フランス-ドイツ チェルノブイリ・イニシアティブ”での研究(訳注:独・仏で資金を出した研究と思われる)では、標準化された系統的精神科面接法(ロマネンコら)を用い調査したところ、精神的障害は汚染除去作業員の36%にまで増加していた。一方、ウクライナ全人口では20.5%であった。うつ病ではこの頻度増加がさらに著しく、汚染除去作業員では24.5%に対しウクライナ全人口で9.1%だった。(デミッテナイア-ら 2004


1986年から1987年までチェリノブイリ周辺の規制区域で仕事をしていた汚染除去作業員-特に、その後も同地に住み続け、合計3年から5年間過ごした作業員たち-では精神神経学的障害が増えつづけている。そして、250Sv以上の被ばくを受けた作業員では80.5%に、250mSv以下では21.4%に障害がみられた。(p0.001)(ニャ-グら.2004 )ロガノフスキ-は1990年以降統合失調症の頻度が増加していると報じている;一般の人では人口10,000人当たり1.1人なのに比べ、作業員では5.4人であった。別の報告では、チェリノブイリ地域で生活し、労働していた人々のあいだでは統合失調症の発生頻度は他のウクライナ人に比較して1986年から1997年の期間では2.4倍に、1990年から1997年の期間では3.4倍になっていた。(ロガノフスキ-&ロガノフスカヤ 2000



2.5 循環器疾患
                                   

WHOによる研究ではロシアの汚染除去作業員のあいだで循環器疾患が有意に増加していたことがわかった38)


ロシアの情報によると、現在もなお多数の作業員が循環器疾患をわずらい、苦しんでいる39)。 イワノフ(1999)の調査によればロシアの作業員では心血管疾患のリスクが40%増えていた40)


D.ラジュ-クはベラル-シ出身の汚染除去作業員の心血管系疾患を調べた41)19921997年の観察期間で、作業員の間では通常と比較して致命的な心疾患が著明に増加していることがわかった(22.1% 対 2.5%)。これが放射能による血管へのダメ-ジか否かについてはいまだ議論中である。



2.6 その他の病気


WHOが行った研究では、ロシア人汚染除去作業員では胃腸炎、感染症、寄生虫関連疾患と同様に、血液疾患、内分泌疾患が有意に増加していた42)


ロシアの情報によると、現在、多くの汚染除去作業員が胃腸炎に苦しんでいる43)


ウクライナ医学アカデミ-の放射線医学研究所に所属するパベル・フェディルコは、彼が調べた5,200人の汚染除去作業員の95%が白内障や黄斑変性、慢性の結膜炎といった眼の病気に悩まされていると報告した44)


エレナ・ブルラコバは長期間にわたり、低線量被ばくの影響を細胞レベルで調べてきた4547)。汚染除去作業員やさまざまな人を対象とした研究では、特に子どもや30歳未満の若年者において、低線量被ばくは抗酸化系保護機能を破壊することが明らかになった。彼女は「早く年をとる」と述べている(訳注:前出、2.1ご参照)48)


下記の表2.はヤリリン の調査結果である。12の疾病グル-プの有病率が汚染除去作業員の中で、どのように変化してきたかが示されている。たった7年間でこれらの数値がいかに増えたか注目に値するだろう49)



2.汚染除去作業員の疾患別患者数(10,000人あたり)50)

疾病/臓器グル-プ
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
感染、寄生虫
36
96
197
276
325
360
388
414
腫瘍
20
76
180
297
393
499
564
621
悪性新生物
13
24
40
62
85
119
159
184
内分泌機能
96
335
764
1,340
2,020
2,850
3,740
4,300
血液、造血器
15
44
96
140
191
220
226
218
精神症状
621
9,487
1,580
2,550
3,380
3,930
4,540
4,930
神経、感覚器
232
790
1,810
2,880
4,100
5,850
8,110
9,890
循環器
183
537
1,150
1,910
2,450
3,090
3,770
4,250
呼吸器
645
1,770
3,730
5,630
6,390
6,950
7,010
7,110
消化器
82
487
1,270
2,350
3,210
4,200
5,290
6,100
泌尿器
34
112
253
424
646
903
1,180
1,410
皮膚、皮下組織
46
160
365
556
686
747
756
726




2.7  汚染除去作業員の子どもたち


汚染除去作業員の子どもの遺伝子を調べたところ、非常に多くの変異が発見された。ハイファ大学の研究によれば次のようなことが明らかになった。チェルノブイリ清掃作業をする前に授かった子どもたちとその後に生まれた子どもたちを比較したところ、後者では遺伝子変異をもつ確率が7倍になっていた。これらの変異は重症疾患に直接結びつくものではないが、それらは未来の世代へと受け継がれていくことになる。変異は事故後すぐ授かった子どもたちで特に多く、事故から時間が経過するにしたがって減少した。子どもたちの父親は50200 mSVの放射能を浴びていた。これは原子力発電所の職員の被ばく量のおおよそ10年分に相当する51)


シェバン教授と同僚のプリレブスラヤは、汚染除去作業員の子どもたちに甲状腺がんが発生するのか調べるため、700人を対象としたコホ-ト研究を行った。その結果、作業員の子どもたちは被ばくしていない両親をもつ子どもたちよりも甲状腺がんの発生率が有意に高かった52)。しかし、なぜこうなるのか理由はよくわかっていない。


ツィブは、汚染除去作業員の子どもたちとオブニスクス(低汚染地域)の子どもたち(ロシア)を比較したところ、前者ではすべての種類の病気でその頻度が有意に上昇していた(1994年~2002年)。特にがんや白血病、先天奇形、内分泌代謝疾患は精神障害や行動異常と同程度に増加していた。何年かたつと泌尿生殖器、神経、感覚器の病気も増えた。これらの病気は特に1999年に多かった53)

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