2012.09.06

50,000円のセミナーに参加する意味って何? 安藤美冬✕増田直紀 第四回

NHKEテレ「ニッポンのジレンマ」に出演後、独自のノマドワークスタイルが注目を浴びた安藤美冬さんと、ネットワーク科学の分野で多数の著作を持つ増田直紀さん。安藤さんの「ノマドワークスタイル」は「ネットワーク科学」の専門家から見るとどう見えるのだろうか? そんな単純な疑問から対談はスタートしました。対談場所は「渋谷ヒカリエ」内に2012年4月にオープンしたコワーキングスペース「Creative Lounge MOV(モヴ)」。おしゃれな家具に囲まれながらのお二人のおしゃべりは思わぬ展開に。

安藤 美冬(アンドウ・ミフユ)

1980年生まれ。(株)spree代表。自分をつくる学校学長。SNSを駆使し、複数の肩書で複数の仕事をする独自のノマドワークスタイルが注目を浴び、TBS系『情熱大陸』などメディア出演多数。

増田 直紀(マスダ・ナオキ)

1976年生まれ。東京大学大学院・情報理工学系研究科准教授。ネットワーク科学、社会行動の数理モデリング、脳の理論を研究。著書に『私たちはどうつながっているのか』など。

ショートカットが少しでもあると世界はぐっと近くなる

安藤  前回の続きになりますが、「場」をつくるといえば、最近はソーシャルメディアを介して勉強会に呼ばれることがほんとに多いんです。

増田  そうした勉強会の参加者の方々は何を求めていると思いますか? 勉強会の内容はもちろん大事なんでしょうけど、交流とかネットワークを広げることも求められているのかなと。

安藤  求められていると思いますね。私自身は勉強会やセミナーで一次情報をつかむこともすごく大事だと思っていますが、やはり交流してネットワークを広げることの意味は大きいです。

増田  わかります。

安藤  今でこそ勉強会やセミナーに参加することは少なくなったのですが、実際に参加した勉強会から「じゃあ今度ランチでも」とか、飲み会などの集まりに呼ばれたりですとか、そういうことがたくさんあったんですよね。そこで一対一のリンクができたり、参加者同士の三角形ができたりと。(編集注:リンクや三角形については第三回の対談を参照ください)

増田  やはりそうなんですね。

安藤  今、思い出したのですが増田さんの著書のなかに「近道(ショートカット)」ってありましたよね。たしか「6次の隔たり」のところだったと思うのですが。ショートカットのつながりが一つでもあると世界がぐっと近くなるという意味においては、勉強会もショートカットを探すことに近いですよね。(編集注:「6次の隔たり」については第二回の対談を参照ください)

増田  そう思います。

安藤  今だとフェイスブックのようなソーシャルネットワークがありますが、これも「近道」になっていきますか?

増田  なるかもしれません。ただ、フェイスブックでの”つながり”を見て「この人につながるのが近道かもしれない」と思ったとしても、いきなり友だち申請したら変ですよね。

安藤  たしかに。

増田  「近道」をつくるにはちょっとした努力が必要なんだと思います。かんたんな方法は、自分が今まで参加したことのないような種類の勉強会に行ってみることでしょうか。もちろん、あんまりそれをやり過ぎると一気に色んな人とつながってしまって疲れるでしょうから、自分のキャパの範囲内でちょっとだけ参加すればいいんです。ネットワーク理論では、「近道」はほんとにちょっとで大丈夫だと言われています。ここで言う”ちょっと”は、ほんとに一人や二人とかです。一人でも「近道」があれば世界がぐっと近くなるんです。

50,000円のセミナーにも意味がある

安藤  すごくおもしろいですね! 私のモットーのひとつに「活動領域の圏外に出る」というものがあるのですが、見事につながりました(笑)。増田さんのお話を聞きながら、数千枚の名刺を配り歩いていた会社員時代に、セミナーによく行っていたことを思い出しました(編集注:「数千枚の名刺」については第一回の対談を参照ください)。3,000円、4,000円っていうセミナーが多いなかで私は10,000円のセミナーに出て、そこでは普段では出会えない人に出会えたんです。それにすごく意味がありました。そこで出会った人たちは私が独立してからも、何かあると力を貸してくれました。そう言えば、50,000円のセミナーっていうのにも参加したことがあるんですよ。

増田  それはかなりの高額ですね。

安藤  「社長のためのマーケティングにつかえるビジネス講座」みたいな内容で半日のセミナーでした。「自分で何かの仕事をやりたいと思っているのに経営者に会わないなんてダメだ!」と思い参加したんです。もちろん参加者のなかでは思いっきり最年少ですよ。周りはみんな40代50代と年上で。でも、「あんた独立したいの?」とか「面倒みるよ」と声かけていただいて、すごくかわいがってもらいました。

増田  それは価値があったんじゃないですか?

安藤  50,000円という投資は安くないですが、ほんとに大きなリターンがあったと思います。そこでつながった人たちから、何かとアドバイスをもらえたり。要は金額の多寡じゃなくて、クラスターが変わるかどうかなんですよね。経営者の人につながりたいと思ったセミナーが、たまたま50,000円だっただけで。

増田  それに気づいて実行したことがすごいと思います。普通だったら尻込みして終わりますよ。

安藤  まぁすごく恥ずかしかったですが(笑)。

増田  マクドナルドに行けばマックにいそうな人がいて、スターバックスに行けばスタバにいそうな人がいる。コーヒーの値段が違うと客層が変わるのと少し似てますね。ルノアールでもホテルのラウンジでも同じです。まぁ、さすがに50,000円は高いなとは思いますが(笑)。

安藤  私のように役職のない女性の会社員がセミナーで経営者とつながりを持つこともそうですが、人と違うところで”つながり”を持つのも大事ですか?

増田  大事ですね。唯一のリンクを持つ人になれれば、別に自分自身がハブでなくてもネットワーク的には重要なポジションにいるということで重宝されます。そういうパーソナリティの発揮の仕方もありますよね。ネットワークで成功するやり方は一つじゃないです。

安藤  社会的なネットワークのなかで成功するためには「ハブになることがすべてじゃない」ということが、また違った角度からよくわかった気がします。

最終回へ続く…

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