EMを利用した野菜栽培学習
島根県 長沢郁夫
1.題材名 EMを利用して野菜作りを楽しもう―作って・食べて・リサイクル <指導時間 20〜35時間> 3年生の選択教科技術で行った栽培学習の実践を紹介する。野菜栽培から,調理実習へと結びつけ,さらにEM(有用微生物群)を利用して,生ごみの堆肥化のリサイクルに発展させたり,ケナフを利用したものづくり等,栽培学習を中心に多様な発展的内容に結びつけた実践である。
2.題材設定の理由 栽培学習は,露地栽培する十分な場所が校地内で確保しにくく,時期に左右され管理に手間がかかり,雨天時は屋外での作業ができない等運用上の理由で敬遠されやすい内容である。しかし,生き物の世話をし,慈しみながら作物を育てる栽培領域は,栽培技術の習得の重要さはもちろん,人間としての豊かな情操を育む上でとても大切な領域だと考え,選択教科としてではあるが,毎年実践を続けている。また,木材加工等の「ものづくり」と並んで,栽培学習は,ガーデニングが余暇の過ごし方の一つとなっているように,生涯学習の一環としてとらえることも可能である。 さて,栽培学習は,草花や,野菜等の栽培を学習目標の中心としているが,収穫した作物を調理したり,製作に利用したりする等,他の領域や学習内容と関連させた題材として発展させることも考えられる。 たとえば,本校でも「作って,食べる」実践として,大根や津田かぶの栽培後,漬け物づくりに挑戦したり,大豆を栽培して豆腐を作る実践を行ってきた。このことは,生徒に栽培から調理までを体験させることで,生産から,調理し,食するという,一貫したものの見方や,学習意欲を引き出す点で有効である。さらに,現代社会の課題となっている環境問題ともうまくリンクさせることも大切な視点となってきている。 そこで,栽培学習と環境教育をうまく連携させるために,家庭等から調理を介して出る生ごみを,EMぼかしを利用して,堆肥としてもう一度土に返してリサイクルする内容を加え,「作って,食べて,リサイクルする」体験を取り入れた栽培学習を行った。 また近年は,繊維の生産と炭酸ガスの固定に著しい能力があり地球温暖化防止にも一役買うと言われる,ケナフの栽培学習も盛んになっている。収穫した作物を製作に利用した例として,ケナフの繊維で作ったランプシェードの製作もあわせて紹介したい。
3.指導のねらいと配慮事項 指導のねらいと指導上の配慮事項について述べる。 (1)指導のねらい ◇野菜の普通栽培の方法について説明でき,野菜の栽培をすることができる。 ◇栽培する作物の栽培方法を調べ,工夫してまとめることができる。 ◇栽培した野菜を調理したり,調理実習で出た生ごみを堆肥にリサイクルしたりすることで,栽培を通して,一貫したものの見方や考え方を見つけだすことができる。 ◇有用微生物群(EM)を利用した栽培方法や,生ごみのリサイクルの方法について説明でき,環境問題に関心を持って,意欲的に実践することができる。 (2)指導上の配慮事項 ア)基礎・基本を確実に定着させる配慮の視点から ◇栽培学習の基本的な技術を身につけさせる視点から,露地での野菜の普通栽培とした。さらに春まき野菜は苗から,秋まき野菜は種から栽培させ,その違いを体験を通して比較させながら学習を進めた。 ◇栽培する作物の栽培方法を資料を参考に自分で調べ,レポートにまとめさせる,調べ学習を取り入れた。 ◇生ごみの堆肥へのリサイクルや,EMを利用した栽培学習が,体験を通して学習できるように,EMの資材や説明書をセットにした「EM環境セット」を開発し,活用した。 イ)個を生かすための配慮の視点から ◇生徒の個々の興味に応じ,栽培する野菜の種類が選択できる部分を設けた。全員共通では3種類(トマト,キュウリ,スイートコーン),選択では2種類(ナス,ピーマン)のうちいずれかとした。 ◇学習への一人一人の興味・関心をいっそう高めさせるために,栽培した野菜を収穫し,試食する調理実習を行った。 ウ)安全上の配慮の視点から ◇普通栽培は,露地栽培が中心となるので,くわを使用した畑の耕耘が必要になる。安全に作業ができるように,作業方向等の配慮も含め,充分な指導を行った。また,学校の備品の小型耕耘機を使用してあらかじめ整地をしておいたり,小型の草刈り用手ぐわを準備して使用させた。 ◇安全な野菜栽培ができるように,無農薬栽培とした。また,EMを使用することで,病気や害虫の被害も少なくなり,連作障害も防ぐことができる。
4.指導計画 「野菜作りを楽しもう」の本講座の指導計画を示す。3年生の前期の選択学習として35時間を充てており,活動期間は栽培学習に取り組みやすい4月から10月としている。
◇3年前期 選択技術「野菜作りを楽しもう」指導計画(35時間)
3年選択技術の栽培学習の他に,指導計画の中で示すように,県産材の杉板を利用したプランターBOXの製作や,サツマイモの栽培と収穫及び焼きイモの試食,春まき野菜や秋まき野菜の栽培方法を各自でまとめた栽培レポートの作成や,栽培の観察や記録も行わせている。 特に,栽培学習は,雨天時は屋外での作業が難しいので,屋内で,継続的に学習できる内容としての題材を準備しておくことが大切である。そのため,選択教科で行う場合,ものづくりを取り入れた「プランターBOXの製作」は,運営上からも有効であった。 また,指導時間に余裕のあるときには,後で紹介する,ケナフの栽培から,紙漉き,ランプシェード作りに発展させた内容も行っている。
5.指導の展開の様子 (1)EMを利用した栽培学習「作って,食べて,リサイクル」 EMは,Effective Micro-organisms(有用微生物群)の略語で,光合成細菌,酵母菌,乳酸菌,麹菌等5科10属80余種類の微生物を培養したものである。嫌気性と好気性の,有用な微生物を混ぜ合わせ共存させたところに特徴があり,琉球大学の比嘉照夫教授によって開発された。 EMを使って栽培学習をするメリットは,図1に示すような3点があげられる。 @作物がよく生育し,多収穫が望める。 A無農薬の有機農法栽培が可能で,安全でローコストな栽培ができる。 B生ごみを堆肥としてリサイクルさせることが簡単にできる。 |
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【図1】EMを利用した循環型の栽培学習
生ごみをEMを利用して堆肥化することは,生ごみの減量につながるばかりでなく,EMのはたらきによって,生ごみを土に埋めてからの分解も速い。さらに作物の生育を助け多収穫が望め,病気や害虫の被害も減る等多くのメリットがある。本校でも農薬を使用せずに栽培を行っており,しかもトマト等の連作障害も起こりにくくなる等,より安全で,ローコストな作物の生産が可能となる。 さて,学習に先立って,EMを使って栽培学習をするためには,次の3つの方法が考えられる。 @家庭または給食の生ごみをEMぼかしを利用して発酵させ,土中に埋めて堆肥にして利用する。 A生ごみをEMぼかしで発酵させた,ペレット状のEM肥料を購入して利用する。 B米ぬか,油粕,魚粉等の肥料にEMと糖蜜を加え発酵させた農業用EMぼかしを作り,施肥する(作り方は,生ごみ処理用EMぼかしと同じ)。 さらに,土中にEMが定着しやすいように,EMの拡大活性液の散布も併用すると効果的である。 本校では,学校給食を行っていないので,AとBの方法で行うこととした。Aの方法としては,松江市内の障害者の授産施設で市内の小中学校の給食の残飯を原料にしたEMぼかし肥料「ゆうきくん」を生産して販売しておられるので,それを主に使用することにした。 さらに,近隣の牧場から牛糞堆肥を,元肥として分けてもらっている。牛糞堆肥に,EMぼかしをまぜることで,堆肥の分解を速め,悪臭の防止にもつながるので一石二鳥である。 栽培する作物は,春まき野菜では,トマト,キュウリ,ナス,ピーマン,サツマイモ,スイートコーンの6種類である。 7月の中旬,収穫した野菜を使って,「冷やし中華」の調理実習を行っている。数年前からは,校内の養護学級の生徒達と,3年生の選択技術の生徒達といっしょに,調理実習を通した交流会も行っている。鈴なりになったミニトマト等,収穫したたくさんの新鮮な野菜に舌鼓を打ちながら,和やかな雰囲気で活動できた。 以下に,そのときの生徒の感想を紹介する。
【写真1】春まき野菜の栽培風景 【写真2】養護学級との交流調理実習
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(2)EMを利用して生ごみをリサイクル
家庭から出る生ごみをEMを利用してリサイクルする体験学習について述べる。本校では,残念ながら,昼食は弁当なので,原料となる生ごみがでない。そこで,やむなく隣接する小学校の給食センターにお願いし,給食の残飯をわけてもらった。 生徒達が作ったEMぼかしを使って,専用の発酵用容器で1〜2週間おいて発酵させて,ぼかしあえにしたものを,隣の幼稚園の花壇へ肥料として与え,花壇づくりのボランティア作業を行った。 生徒にとっては初めての経験であり,ぼかしあえにした生ごみは,腐敗臭はないが,気温が高いと,つけものに似たにおいがするので,それに多少閉口する生徒もあった。しかし,自分たちが作ったEMぼかしで初めて生ごみ堆肥を作り,使う機会であったので,興味深く取り組むことができた。 |
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【写真3】生ごみのリサイクル風景
生ごみ処理用の「EMぼかし」はホームセンター等で購入できるが,EM,糖蜜,米ぬかの材料がそろえば手軽に作ることができる。授業では,生徒全員がそれぞれ体験できるように,図2に示す方法で,一人一人少量ずつ作らせている。 以下に,実践後の生徒の感想を紹介する。
【図2】生ごみ処理用EMぼかしの作り方
さらに,EMを利用して生ごみを堆肥にする方法は,図3のとおりである。 (インターネットでのEMに関する検索先は,EM研究機構http://www.emro.co.jp/)
【図3】EMぼかしを利用した生ごみ堆肥の作り方
(3)ケナフを栽培してランプシェードを作ろう ケナフの栽培を行って紙漉きをした後,それを使ったランプシェードの製作をさせた。ケナフは,アオイ科フヨウ属の1年草で,きわめて成長が早く,栽培しやすい草花である。 写真4で示すように,5月に播種したケナフは生徒の身長の倍ぐらいの3mを越えるまで,難なく成長した。10月に収穫し,皮をはぎ,より繊維を柔らかくするために,水の代わりにEM拡大活性液を作り,その中に1カ月つけておいた。 その後,繊維を木槌でたたいて柔らかくした後,金切りばさみで短く切ってミキサーにかけて,のりを溶かした桶の中でさっそく紙漉きに移った。ところが,炭酸を入れ,釜で煮る工程を忘れていたために,漉きあがったものは,お世辞にも紙とはいえない麻縄のようながざがざの代物であった。そこで,急きょ生徒と相談し,発想転換。隙間だらけの繊維は適度に光を通すので,白熱電球のランプシェードを製作させることにした。15W程度の白熱豆球を使い,デザインは,生徒それぞれのアイディアにまかせた。 完成したランプに通電し,ケナフのランプシェードから洩れる白熱灯の柔らかく暖かな明かりに,生徒達も満足そうであった。 ケナフのランプシェードの作り方は,資料1に示す。
【写真4】ケナフの収穫 【写真5】完成したランプシェード
【資料1】「ケナフから作るランプシェードの製作」
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