起業人
【第14回】 2008年1月11日 週刊ダイヤモンド編集部

成功と挫折の果てに知った経営者の醍醐味
バーチャレクス社長 丸山栄樹

バーチャレクスシャチョウ社長 丸山栄樹
バーチャレクス社長 丸山栄樹

 新卒入社後わずか5年で、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)のマネジャーに昇格した丸山栄樹。大手保険会社を顧客として経営コンサルティングを行なっていた。

 しかし、顧客に思い入れを持って業務に励むほど、「提案だけでなく、現場でそれを実現してみたい」という気持ちが溢れ出てきて、独立を決意した。28歳のときだ。

 初期の顧客は、足で探し当てたパチンコ台メーカーやビデオレンタルショップ。倉庫を兼ねた小さな事務所でオーナー相手に営業の改善提案を行なう日々だった。そんなある日、転機が訪れた。顧客の1社である人材派遣会社が、新規事業としてコールセンターのアウトソーシング(外部委託)業務を行なうことになり、それを支援する仕事を請け負ったのだ。

 当時は1999年、ネットバブル前夜。まだ、かかってきた電話をただ取るだけの運営が多かったコールセンターだったが、「今後は顧客の窓口として重要な役目を担うようになる。ITシステムや会社組織全体の改革も、効果的なコールセンターをつくるために必要になる」。こう丸山は予想した。

 この趣旨で提案書を書き、顧客に代わって営業に出向くと、なんと全戦全勝。「このやり方でコールセンターの運営を受託すればビジネスになる」と考え、設立したのがバーチャレクスだ。監査法人のトーマツで幹部まで務めた兄・丸山勇人も技術担当役員として加わり、バイトも含め6人で創業した。

日興ビーンズにユニクロ
創業直後に相次ぐ大型受注

 創業直後から好機に恵まれた。丸山がコンサルティング業務で会社立ち上げに携わっていた日興ビーンズ証券(現マネックス証券)から、「うちのコールセンターをやってほしい」と持ちかけられたのだ。

 怒涛の日々が始まった。約1ヵ月で文字どおりゼロからコールセンターを立ち上げなければならなかった。昼はビーンズのコンサルティングを行ない、夜は120人の電話応対要員を確保するための採用面接に明け暮れた。電話交換機は米国製に決めたが、コールセンター開設までに届かない。到着するまでは通常のオフィスフォンで、「いっせいに鳴る電話を人が指差し指示で担当者に振り分ける」という対応で乗り切った。

 開設後も、昼間はコールセンターに詰め、自ら顧客からの電話に対応。夜は昼の通話内容を反映したマニュアルを更新した。半年間で社員120人に、売り上げはいきなり1億円に達した。

 ビーンズの業務が収束に向かう頃、今度はユニクロが始めたフリースのネット通販事業のコールセンター業務を、他の大手同業4社の候補を退けて受注する。設備・組織の運営、人の教育や利用するソフトウエアの設計まですべて一括で請け負った。その後もオフィス向け文具通販企業や大手通信会社からマイライン営業用のコールセンター、大手ADSL企業などの受注が、転がり込んできた。大型案件が引きも切らない状況が創業後数年間続いたのである。

赤字転落で初めて知った経営者の痛み

 変調を来したのは2004年だった。ユニクロ事業の成功を機にベンチャーキャピタルから出資を受けて自前で投資したコールセンター設備が、大手顧客との契約満了で稼働しなくなってしまったのだ。

 特別損失を計上して設備を除却処分した。自前設備を持たずに顧客のコールセンターを共同運営するかたちのビジネスモデルに切り替えた。しかし2年後には、アウトソーシングを請け負うその顧客のコールセンター部門が、そっくりそのままライバルのコールセンター会社に買収されてしまう。大口顧客を失い、赤字転落した。

わが社はこれで勝負!
わが社はこれで勝負!
コンサルティング、アウトソーシング、ITの3機能で、有人、無人、ウェブなど、あらゆる形態で支援が可能。メールと電話での応対履歴をリンクさせた業界初のパッケージソフト「インスピーリ」は100社以上の納入実績がある

 丸山は1年間、給料を返上して再建策を模索した。社業を振り返り、創業後数年の“幸運”でアウトソーシング事業が肥大化したのが業績悪化の要因と自己分析した。そこで、本来強みとしていたアウトソーシングとコンサルティングとコールセンター向けのITシステムをバランスよく組み合わせる方針に転換した。今年度は減収こそすれ、営業利益と経常利益では過去最高益を達成する見込みだ。

 一連の失敗を経て、丸山は今、「経営コンサルタントがすぐ経営のプロになれるわけではない」ことを痛感している。ホワイトボードの前に社員を集め、事業の問題点を列挙したり、常に自分が先頭に立って指導したりといった姿勢は、「コンサルタント」であっても「経営者」ではなかった、と。つまずいて初めて、社内の組織や管理体制を整備し直した。現在、アウトソーシング事業は現場責任者に運営を任せ、トップとしての自分は会社全体を長期的に安定成長させることに重点を置く。

 コールセンター市場は、今後年率6%程度の成長が予想される。そのなかでも「大量に人を集めて勝負するものと、小規模でも高度な対応が求められるコールセンターに需要は分化していく。うちは後者で存在感のある会社を目指す」という。

 顧客の実際の課題を現場で解決するという夢はかなえた。そして成功と転落の両方も見た。丸山はコンサルタントではなく経営者として、新たな一歩を踏み出した。(敬称略)

(『週刊ダイヤモンド』編集部 鈴木洋子)

バーチャレクス社長●丸山栄樹
まるやま・えいき/42歳。学生時代にサッカーや演劇に熱中した後、コンサルタントの道へ。アクセンチュアでも、20代でいきなりコンサルとして独立するケースは皆無で「ほぼ全員から猛反対された」という。