また著作権法第37条第3項適用施設の文化庁長官指定の告示が出ました。(10/8付け)
おはようございます。
先日、著作権法第37条第3項適用施設の文化庁長官指定の告示が出たことを紹介いたしましたが、また同趣旨の告示が出ましたので、紹介します。
(こういうことをやっておかないと、あとで調べるのが大変なもので...何で文部科学省HPの「告示・通達」のページに掲載されないのかわからないのですが...告示を出したら全部ここに掲載してくれればいいのに)
それで、今度指定されたのもまた興味深い施設でして...それが、「堺市立点字図書館」なのです(厳密にいえば大阪府堺市なのですが)。前回の愛知県図書館とよく似た感じです。
私は、これまで、「点字図書館」と名がついていれば、すべて〔改正前の場合でも〕著作権法第37条第3項が適用されるものと思っていました。だって、改正前の著作権法第37条第3項って、「点字図書館その他の視覚障害者の福祉の増進を目的とする施設で政令で定めるものにおいては、....録音し、又は...自動公衆送信を行うことができる」って書いてあったので。
もっとも、「その他の」とあるので、「点字図書館」という名称はあくまで例示であって、実際にはその後に続く「政令で定めるもの」に該当する必要があるわけですが...って、これって法制執務の教科書みたいですね〜。「その他」と「その他の」の使い分けの例示として使えるんじゃないですか?
それはいいとしまして。
堺市立点字図書館って、何で著作権法第37条第3項(いい加減面倒になったので、以下「37条3項」って言いますね)適用施設じゃないんですかね。
それは、この「政令」っていうのを参照してみればよいということで、著作権法施行令第2条を見ることになる訳です。改正後の同条において、当てはまりそうな条文は...。第1号の「ニ」ですね。「身体障害者福祉法(昭和24年法律第283号)第5条第1項の視聴覚障害者情報提供施設」ってヤツ。
ちなみに改正前(第2号)は、このあとに「点字刊行物及び視覚障害者用の録音物を視覚障害者の利用に供するもの並びに点字刊行物を出版するものに限る」っていう文章が続いていたのですが(厳密にいうとこのあと設置主体を限定する文章がありましたが、改正後は第1号の柱書きに同じ文章が書かれていますので、省略しました)。つまり、改正前では視聴覚障害者情報提供施設の中でも視覚障害者向けのサービスを行っているところに限定していたっていう訳です。
こんな書き分けが必要になったのは、平成2年の身体障害者福祉法の改正(平成2年法律第58号)で、「点字図書館及び点字出版施設」を「視聴覚障害者情報提供施設」に改め、「身体障害者更生支援施設(現行法では「身体障害者社会参加支援施設」)」の範囲に、聴覚障害者用の情報提供施設を加えたからなのですが...。それがこの法改正で、別に視覚障害者でなくても視覚による表現の認識に支障がある人なら、聴覚障害者であっても、デイジーを貸し出すために作ってもいいよ、ということになったので、平成2年のこの法改正をいわば後追いする形で、政令の改正が行われたってわけです。
それで、堺市立点字図書館って、改正前から「点字刊行物及び視覚障害者用の録音物を視覚障害者の利用に供する」施設なんじゃないの?現に、堺市立点字図書館条例(昭和47年3月30日条例第12号)の第1条には「点字刊行物の貸出し及び閲覧事業を主たる業務とし、併せて点訳奉仕事業の指導育成、点字図書の奨励及び相談事業を行うため、堺市堺区南瓦町に堺市立点字図書館(以下「図書館」という。)を置く」って書いてあるじゃないですか。(もっとも、この第1条は何回か改正されていますが、最終改正が平成17年なので、少なくともこの年からは要件に当てはまっているような気が)
ううむ、ということで、もう一回身体障害者福祉法に当たってみると、第5条第1項の他に、視聴覚障害者情報提供施設の定義自体が置かれている規定がありました。現34条(以前は33条。それ以前は点字図書館が33条で点字出版施設が34条に規定)です。そこには、「無料又は低額な料金で、点字刊行物、視覚障害者用の録音物、聴覚障害者用の録画物その他各種情報を記録した物であつて専ら視聴覚障害者が利用するものを製作し、若しくはこれらを視聴覚障害者の利用に供し、又は点訳(文字を点字に訳すことをいう。)若しくは手話通訳等を行う者の養成若しくは派遣その他の厚生労働省令で定める便宜を供与する施設とする」とありましたが、これ、さっきの堺市点字図書館の設置目的も含まれるような気が。
とすると、やっぱりおかしい。この法律ではまちがいなく堺市立点字図書館は、視覚障害者情報提供施設の要件に当てはまっているんですからね。
でも何か他に...と、周辺の条文を点検していくと、設置の規定というものがありました。第28条第2項に、「市町村は、あらかじめ厚生労働省令で定める事項を都道府県知事に届け出て、身体障害者社会参加支援施設を設置することができる」ってありました。すなわち、都道府県知事に届け出て初めて、この法律にいう「身体障害者社会参加支援施設」となることができるってわけです。(前後してすみませんが、視聴覚障害者情報提供施設は身体障害者社会参加支援施設の一つです。著作権法施行令2条1項ニで引用する同法第5条第1項の規定というのは、身体障害者社会参加支援施設の範囲を定める規定なのですが、そこに視聴覚障害者情報提供施設が含まれているのです)
それでは、なぜ届けていないんでしょうか。届けたら、運営費用の半分(10分の5)を国が負担してくれる(第37条の2第1号)のに...。教育委員会管轄にしたかったから?と思ったのですが、総合社会福祉会館に同居しているってくらいですから、そんなこともなさそう。
とすると、第29条には、厚生労働大臣にこの施設の設置基準の制定を義務づけていて、第2項では社会福祉法人なんかはその基準を守らねばならないってことが書いてあるみたいですね。それでは市町村の場合は守らなくても良いのかというと、そんなことはなさそうでして、社会福祉法では、社会福祉施設(視聴覚障害者情報提供施設は第二種社会福祉施設に該当します)の設置者は、この最低基準を守らなければならないのです。
となると、堺市立点字図書館は、この最低基準を満たさない規模の点字図書館ってことになるのかもしれません。
この基準は、厚生労働省令として制定されています。身体障害者社会参加支援施設の設備及び運営に関する基準(平成15年3月12日厚生労働省令第21号)です。視聴覚障害者情報提供施設については、第5章で定められていて、点字図書館の場合は、様々な設備(第35条)、一定数以上の職員(第38条)、施設長の資格要件(第41条。司書又は社会福祉事業としての一定年数の従事歴が求められます)が定められています。
ひょっとしてこれを満たすのがキツいのかも、と思ったりして。
何か図書館法の図書館になるのをわざわざ避ける図書館っていうのと類似しているような気も。もっとも、公共図書館の方は早々と資格要件も補助金もなくなってしまったわけですが。
でも、こういうことでしたら、該当しない点字図書館ってたくさんあるような気が。
法改正のときにはこういう施設には目配りなかったのでしょうか。あえて外したとか。一定の水準を満たさない点字図書館の場合は権利制限の恩恵なんて受けさせなくてもよい、とか?ううむ。
あ、前置きが長過ぎましたね。
告示本文を以下に掲載します。ご参考まで。(平成22年10月8日付け官報本紙p.7に掲載)
〇文化庁告示第四十四号
著作権法施行令(昭和四十五年政令第三百三十五号)第二条第一項第二号に基づき、著作権法(昭和四十五年法律第四十八号)第三十七条第三項の視覚障害者等のための複製又は自動公衆送信が認められる者として、次に掲げる者を平成二十二年九月二十八日付けで指定したので、同令第二条第二項に基づき告示する。
平成二十二年十月八日 文化庁長官 近藤 誠一
堺市(ただし、堺市立点字図書館が実施する業務に限る。)
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