【アスパラクラブからのお知らせ】
ブログのコメント投稿の受付は9/26(水)で終了します。27日以降の投稿は掲載しません。あらかじめご了承ください。
「肥満」より「正常体重」の方が死亡率が高いケース [12/09/07]
糖尿病になった時点で正常体重の人は、過体重や肥満の人より総死亡率がかえって高いという論文が、米国医師会雑誌に８月公表された。
米国で行われている５件の追跡調査のデータを使って分析を行った。追跡期間のあいだに新しく糖尿病と診断された男女2,625人を対象とした。
糖尿病と診断された時点での体格指数（体重《単位：ｋｇ》を身長《単位：ｍ》で２回割った数値、ＢＭＩ）が１８．５～２４．９の人を「正常体重群」とし、２５以上の人を「過体重・肥満群」とした。
最長１５年間の追跡調査を行い、総死亡４４９人、心血管疾患（心筋梗塞と脳卒中）死亡１７８人、心血管疾患以外の死亡２５３人、死因不明の死亡１８人を確認した。
その結果、「正常体重群」は、「過体重・肥満群」と比べて、総死亡が2.08倍、心血管疾患死亡が1.52倍、心血管疾患以外の死亡が2.32倍高かった。ただし、心血管疾患死亡については、人数が１７８人と少ないせいもあり、誤差範囲に留まる結果だった。
◇ ◇
過体重や肥満は、健康な人が糖尿病になるリスクを高める。また、糖尿病になった患者が過体重や肥満の場合、減量が勧められる。けれども今回の結果は、糖尿病と診断された時点での体重についてみると、過体重や肥満の人のほうがかえって死亡リスクが低いという、意外なものだ。
著者らによると、高血圧、慢性腎臓病、心不全の患者でも、過体重や肥満のほうがかえって経過が良いことが知られている。この現象は「肥満のパラドックス」と呼ばれているという。今回のデータは、糖尿病についても、このパラドックスがあてはまる可能性をうかがわせるものだ。
著者らはまた、正常体重の糖尿病と、過体重や肥満の糖尿病では、遺伝的な特徴が異なることをうかがわせる研究があると指摘している。さらに、医療者が油断して、正常体重の糖尿病患者の検査や治療が不十分になる可能性があるとも考察している。
研究の限界として著者らは、糖尿病と診断された時点ですでに（がんなど）他の病気があり、その病気による体重減少で、みかけ上体重は正常だが死亡率が高いという結果になった可能性を、完全には否定できない点などを挙げている。
現在日本で行われているメタボ健診は、腹囲が大きい内臓肥満の人を選び出して、糖尿病などの病気を予防する目的で行われている。けれども、日本人をはじめとするアジア人では、正常体重のグループからの糖尿病の発生も多いことが知られている。そのため、内臓肥満の有無を最優先にする現在のメタボ健診では、正常体重から生じる糖尿病を見逃す危険がある。
正常体重から生じる糖尿病患者の死亡リスクが高いという、今回の結果が事実だとすれば、現在のメタボ健診のあり方も再考を迫られるのではないだろうか。
ブログのコメントは400字までをめどにお願いします。
ご病気やご症状、医療機関などに関する個別具体的なご相談にはお答えしかねます。あらかじめご了承ください。
【病院検索】
坪野吉孝（つぼの・よしたか）
1962年、東京都生まれ。東北大学医学部卒。国立がんセンター研究所、ハーバード大学公衆衛生大学院、東北大学大学院教授（法学研究科、医学系研究科）を経て、現在、山形さくら町病院精神科、早稲田大学大学院客員教授（政治学研究科ジャーナリズムコース）。主な著書に「検証!がんと健康食品」（河出書房新社）、「食べ物とがん予防―健康情報をどう読むか」（文春新書）など。
★坪野さんの詳しい紹介記事はこちらから
「論文オタク」と呼ばれるほど、私は医学論文を読むのが好きで、世界の医学専門誌に日々掲載される多くの論文に目を通しています。この中から、市民の方々にとっても重要で興味深い研究を、この「web版 やさしい医学リポート」でも紹介し、最新の医学論文を通して見える「世界のいま」をお伝えします。
このアピタルブログは、会員登録・ログインしなくてもお読みいただけます。アスパラクラブ会員の方は、ログインいただくとコメント投稿ができますので、ぜひあなたのご意見・ご感想・ご経験をお寄せ下さい。