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現在なお続く「邪宗撲滅」運動
文部科学省(及び都道府県知事)が認証している「宗教法人数」は、十八万二千五百法人(二〇〇九年一二月末現在)である。寺院、神社、会館、本庁等を所在地にして宗教法人は、
「教義を広め、儀式行事を行い、及び信者を教化育成することを」を目的にしたもの。
海外諸国に類例がない宗教法人数の多さと、日本人口をはるかに超える〝総数、約2億人〟の信者(会員、信徒)を擁する宗教の世界では、それぞれ教義が異なる。
現世利益をアピールし、あるいは生命の本質や死後の世界を説き、人の生きる道を諭す。難民救済のボランティア活動や世界平和運動、また創価学会のように、議員候補者まで選挙支援して、政治に深く関与している宗教団体もある。
その創価学会は、戦後の草創期時代、〝邪教撲滅〟をスローガンにして、とりわけ立正佼成会、天理教、霊友会、PL教団、生長の家等の大手新宗教、伝統仏教ではとくに日蓮宗を攻撃してきた。
「一切の世の中の不幸は、邪教がはびこるのが原因」
と、いう、日蓮聖人の教えを踏襲したのが創価学会の根本教義だったからである。それがまた教勢の拡大へと結びついた。
もっとも、今日では、「邪宗撲滅」といった、他の教団を攻撃する過激な言葉を聞くことはない。だが、少し形を変えて創価学会は、他宗派との対立が続いているのだ。「脱講運動」という活動がそうである。
周知の通り、創価学会は一九九一年、創立(一九三〇年)以来、信仰の対象にしてきた宗教法人「日蓮正宗」(総本山=静岡県富士宮市)から破門された。この破門を前後して、一般紙やテレビが報じるほどの壮絶なバトルが展開されたのである。
地方の同宗末寺に、地元の創価学会青年部が押しかけ、パトカー騒動になるなど日常茶飯事。本山に爆弾を仕掛けたと電話予告し、逮捕された学会婦人部もいた。破門に端を発する双方間の裁判沙汰は、三桁を超える。
まさに戦後の宗教史に刻まれるような宗教法人の内部抗争であった。その延長戦上に残されたのが、現在なお続く「脱講運動」である。
「日蓮正宗」には、全国に約八〇〇を数える末寺がある。各末寺に所属する信徒を「法華講員」と呼称するが、法華講員には、古くは鎌倉、江戸時代からの信徒や、昭和、平成の時代に入って入講する元創価学会員も少なくない。とくに日蓮正宗から創価学会が破門されたとき、学会を離脱し、同宗の法華講員になった信徒が大量に出たのである。
「脱講運動」とは、そうした法華講員たちを創価学会員が、再び、創価学会組織に戻そうという運動だ。
「戦う、ではなく、倒す、だろう!」
活動活発な法華講員の中には、創価学会員宅を訪問して教義論争し、日蓮正宗に帰依させようという「折伏」のような形態がある。対する創価学会の対抗手段が「脱講運動」である。同会の「脱講運動」とはどのようなものか。内部資料から見てみよう。
二〇〇四年九月四日、「九月度教宣部長会」で、S東京教宣部長がこんな話をしている。「教宣部」とは、日蓮正宗と離反した以降、創価学会が組織内に、主として同宗対策のために作った新しい組織名である。
「・・寺院を抱える区は『NT(※日蓮正宗対策の意味)委員会』をしっかり開き、寺への対応を怠らないこと。この四年間の元朝勤行、月例お講を見ても、参加者は横ばい。減っているという実感がない。やはり寺は動いている。寺が勝負。東京にある一八カ寺には攻めの姿勢で・・」
他の内部資料を見ても、日蓮正宗の末寺に対し、例えば「元旦勤行会」などの行事に、地元の創価学会員が監視役になり、参加者人員を数えている。朝、何人、昼、何人、夜、何人ときめ細かい。
続く、S東京婦人部長の話はこうである。
「『執念』が最大の魂である。極悪をどう攻め抜いてどう結果を出していくか。これこそ師匠(※池田大作名誉会長のこと)に応える弟子の戦い、いわく『戦う、ではなく、倒す、だろう!』」
二〇〇六年二月一六日、総東京教宣委員会が、「NT委員会の教化について」と題した通達を各区の教宣部に出しているのは次のような内容である。
「打倒日顕宗(※日蓮正宗のこと=学会を破門にした六六世、 阿部日顕法主を指す)の戦いを推進するにあたり、NT委員会の見直し、再結成して参りたいと思います。
全寺院のNT委員会について見直し、再度、人選を行う。今後のNT委員会の取り組み。各委員会は以下の点を参考に。「各寺の情報を吸い上げる」。また、定期的に委員会を開催し情報を蓄積する。
○過去の攻撃材料の見直し(あらためて糸口を探す)
○住職とその周辺の動き
○法華講名簿の充実(新規更新、人間関係から担当の明確化 登山止め)
○教宣部との連携(NT委員会の成果を組織、登山止め、脱講に反映)
○「寺報」をはじめ印刷物の入手、各種行事、登山の参加状況を把握
○「春季総登山」、「お虫払い・代替慶祝登山の割当人数、状況の把握、寺の基本資料をデータ化
<提出日・提出先>
全寺院別のNT委員会名簿、提出日 二月二十四日、書式は、東京事務局組織部にメールにて提出
と、ある。
何か、スパイもどきの情報機関を彷彿させるような綿密な「通達」指令で、要約すると、
一、寺、住職の詳細な状況把握、
二、脱会者の追跡と脱講の推進を目的にしているようだ。
なお、ここにある「登山止め」とは、日蓮正宗の法華講員が、静岡県富士宮にある「総本山」に参拝することをストップさせようという意味である。
本山に参拝しようとする他の宗教法人の信徒活動に対して、見方によっては、妨害をしているとも受け止められかねない。宗教法人法にある、
「教義を広め、儀式行事を行い、信者を教化育成」
することから、やや逸脱している宗教活動である。
信教の自由を脅かす阻止活動
こうした「脱講運動」によって、どのような成果を上げているのか。手元に、東京・新宿内にある「新宿T本部」の詳細な「教宣部報告書」(二〇〇八年五月度)がある。
東京・新宿の創価学会組織は、同会本部(新宿区信濃町)が所在する牙城であり、いわば同会の心臓部。反「日蓮正宗」活動には熱が入るようだ。
「H支部」 脱講、 一人、一月からの累計人数、五人、脱講対話数、三九人、一月からの累計人数、四七人、寺止め、一人、一月からの累計人数、五人、6/15アリーナ止め(外部) 三月からの累計人数、四一人、6/15アリーナ止め(内部)、二二六人。
少々、説明を要するが、二〇〇八年五月、H支部内で日蓮正宗の法華講員が創価学会に入った人(脱講)は一人で、一月からの累計では五人。他、法華講員と対話し、脱講を勧めた人数が三九人、一月からの累計で四七人。寺止めとは、寺に参詣する法華講員をストップ(この中には、総本山への参拝、供養金の拒否も含まれる)させることである。
また「6/15アリーナ止め(外部)」とはこういうことだ。
二〇〇八年六月一五日、日蓮正宗法華講の東日本大会が、「埼玉アリーナ」で開催された。当初、同宗の発表では、参加者の予定数を二万九〇〇〇人としたが、実際は三万五〇〇〇人が集まったという。
創価学会は、この法華講の行事を阻止しようと、法華講員に不参加を呼びかけた運動が「アリーナ止め」である。その成果が、四一人、「6/15止め(内部)」とは、学会員が法華講員宅を家庭訪問した数字が二二六人という意味である。
次に、「N支部」のデータも見てみよう。
脱講、今月の人数、一人、一月からの累計、二人、脱講対話数、今月の人数、三八人、一月からの累計、四二人、寺止め、一人、一月からの累計、二人、6/15アリーナ止め(外部)、三月からの累計人数、三八人、6/15アリーナ止め(内部)、一八一人。
同じ項目で「N支部」、「T支部」、「Y支部」、「O支部」のデータが報告され、「新宿T本部」の総合計が次のようになっている。
脱講、今月の件数、二三人、一月からの累計、四八人、脱講対話、今月の人数、三三五人、一月からの累計、三九五人、寺止め、今月の人数、二三人、一月からの累計、四八人、6/15アリーナ止め(外部)、三〇八人、6/15アリーナ止め(内部)一一八二人。
法華講員が参集する「埼玉アリーナ」の行事を、創価学会はどうしても阻止したかったようで、以下のようなパンフまで作成し、学会員に配布していたのである。
「『6・15 ストップ ザ アリーナ』を合言葉に正義の戦いを!
忘れていませんか!?「あの人」のことを。
【昔】 懐かしい青年部時代の仲間、職場にいた人の中に、住んでいた地域の人の中に、学会をやめた人の中に、故郷の人の中に
【今】法華講の人、脱講した人、地域の人に、職場の人
日顕宗の寺に墓のある方、日顕宗の寺に納骨している方、一人暮らしの高齢者の方、未活動家・・」
選挙毎に、創価学会員が公明党のF票(フレンド票の頭文字。浮動票集め)取りを行う選挙支援活動と似たような組織戦略である。
宗教法人が、異なる法人の信徒(会員)相手に、教義論争をすることは多いに結構。しかし、他教団が行う儀式行事に対し、組織を挙げて阻止活動を行うとは、信教の自由を脅かす行為にはならないだろうか。
日蓮正宗攻撃で病気が治る!?
日蓮正宗・法華講組織の幹部にも聞いてみた。
「私たちも普段、創価学会宅を訪ねたりして教義論争を行なうことがよくあります。しかし、学会員の行動を調査してみたり、学会の行事である本部幹部会を阻止せよ、などといった宗教活動は一切やっておりません。まして寺止めといった妨害など、これは宗教活動ではなく、ただの嫌がらせにすぎません。このようなことを毎日やっている学会員は、なぜ宗教を求めたのかを忘れてしまったのでしょう」
と、語る。
その一方、「脱講運動」の戦いに参加することが「功徳を生む」と、説く、僧侶もいる。二〇年前、日蓮正宗が創価学会を破門したとき、
「破門をした日蓮正宗が悪で、創価学会が正しい」
と、判断した同宗の僧侶たちがいた。離反したそうした僧侶たちの生活を、学会が面倒を見ているとも言われている。その離反僧侶グループのひとつ「青年僧侶改革同盟」の一員であるN僧侶が、創価学会の集会に招かれ、「日顕宗を倒す祈りの功徳について」と、題し、こう説いているのだ。ハイライト部分を紹介する。
「・・私が宗門(※日蓮正宗のこと)の中で得た体験よりも、むしろ、離脱してどういうふうに功徳を受けて、離脱してどれだけよかったか、また日顕と戦うこと、脱講運動がどれほどスゴイことになるかということを、各地でお話させてもらっています。・・『日顕を倒す祈りを、鬼のように祈って』いただきたいのです。・・これはスゴイです。病気を治った人がいっぱいいます・・」
要するに日蓮正宗と戦うという「脱講運動」に参加すると、功徳として病気が治ると説いているのだ。どんな病気が治るのか。
まず、軽い病気について―
「もう便秘で一週間どうしょうもなかった壮年部のB長(※ブロック長の略)さんが、奥さんと一緒に日顕打倒の鬼の祈りを猛烈にやりだした瞬間、五分後にそのままトイレに行ってすっきり、これはかなり即効性があります」
重い病気について―
「千葉県のある男子部の方に・・小学校四年ぐらいの女の子のお子さんがいて、もともと腎臓に奇形があったんですね。医学じゃ治せないんです。ももともと持った奇形ですから。それが『おかしい!(宗門が)』って言って四日後に完治してしまったんです。医者がびっくりして・・」
「頸部リンパ癌という末期癌に冒され、一週間の命と診断された未入会のご主人がいました。奥さんが、婦人部のB担(※ブロック担当員のこと)一週間と診断されたその日の夜、一二時から朝の八時まで日顕打倒を猛然と祈ったんです。・・そのあと病院のご主人がベッドの上で大発作をおこして血をパッと吐いてしまい、医者もびっくり。・・『治っています』と、医者が言ったそうです。血を吐いて治ってしまったんですね」
また、こんな功徳もある。
「奥さんが『お米がない、お米がない』と言ったら、ドーンお米が届いたり、『ジュースがない。ジュースがない』と言ったらジュースが一ダース届いたり、『お金がない、お金がない』と言ったら税金の還付金が入ってきたり・・」
「祈り出したら、とたんに近所のおじさんが「米食ってくれ」と30キロ持ってきてくれたり。五年前になくした五万円の入った財布が、鬼の祈りをやったら出てきたとか。いきなり三〇〇万円の臨時収入が入った男子部とか。不整脈が突然治った壮年部とか、とにかく不思議な変化が現れます。これは法則なんですね。極悪と戦えば、極善となる、と・・」
僧侶が、「打倒日顕」と戦う学会員が、このような「功徳」の体験を受けていると、延々と説いているのだ・・・。
昭和初期から六十余年間「日蓮正宗」を信仰の対象にして教勢を誇ってきた創価学会。それが一転、同宗をを悪と断じ、攻撃をすれば功徳が出ると言う。信仰とはこんなにも単純なものであろうか。
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