福島第一原発事故を受けて、日本人は原発とどう向き合うべきなのか。首相官邸を包囲するデモ隊が口々に「脱原発」のスローガンを叫ぶ中で、多くの政治家は原発の再稼働を容認しつつも、原発の必要性そのものには口をつぐんでいるのが実態だ。そんな中、「原発をやめるべきではない」と、一貫して訴え続けている政治家がいる。石破茂・衆院議員だ。自民党の前政調会長であり、防衛大臣、農林水産大臣などの閣僚を歴任している。軍事問題に精通しており、独特の丁寧な語り口で安全保障や国家の問題を論じることで、テレビやニコニコ生放送でもお馴染みだ。
日本列島に大量の放射性物質をまき散らした昨年の事故を受けてもなお、原発を日本が維持すべき理由とは何か。奇しくも官邸デモの主催者が、野田佳彦首相と面会した8月22日、議員会館で石破議員にインタビューしてみた。
・特集「どうする?原発」
http://ch.nicovideo.jp/channel/genpatsu
■原発をやめれば一気に電力危機が来る可能性も
――まず、戦後の日本のエネルギー政策についてお聞きします。「原子力」という発電方法が、日本の電力のうち約3割のシェアを占めるようになった背景には、何があるのでしょうか?
「石炭は掘りつくしたし、石油は出ない、しかし日本は工業化を進めていかなければならない」という必要性からですね。原子力を使い始めた昭和30年代前半は、まだ石炭は国内にあったんですが、埋蔵量に限りがあることも分かっていましたから。これから先、日本が工業化を進め、国の経済を発展させるために「エネルギーは死活的に重要である」、そして、太平洋戦争が、資源をめぐっての戦争であったという反省もあったんでしょう。第一義的には、日本の経済発展のために安定した国産に近いエネルギーを確保したいというのが、原子力を選択した一番の理由だと私は考えています。
――日本の原発は、東京や大阪などの大都市ではなく過疎の地域に集中しています。そのため都市では、例えば「原発は要らない」と、地方では「原発が無いと困る」みたいな"ゆがみ"が出てきているという声もありますが、それについてはどうお思いですか?
たとえばフランスの原発は、 もう少し都市に近いところに立地しているといいます。日本国民には、原子力に対して一種特別な感情があるのではないでしょうか。それは、日本が唯一の被爆国であるということに起因するものです。ですから、原発を作ると言ったときに、多くの人々の理解と支持を得るべく努力をしなければなりません。送電ロスをなるべく減らそうと思えば、需要地域に近い方が良いわけですが、人口が稠密(ちょうみつ)な地域であればあるほど、より多くの方々にご理解いただかなければならない、ということになります。
一方で、それほど人口が集中していない地域は、財政力も乏しいわけです。だから、まだインフラの整備が充分でない地方にとっては「嫌だけどまあ仕方ないよね」となることが多かったのではないか。
――現在、首相官邸前では毎週のように脱原発のデモに人が集まって、"再稼働反対"というスローガンがよく唱えられています。 "再稼働反対"という、この言葉について石破さんはどのようにお考えになりますか?
率直に言えば、「再稼働反対」というスローガンにどういう意味があるのかよくわからないところがあります。原発の再稼働をやめればいい、というのは、現有する原発をただ「使わない」ということなのでしょうか。福島第一原発だって「止まっている」のです。しかしそれは、「放射能が全く出ない」という「安全」ではない。
――再稼働しない場合のメリットやデメリットは、 どういったものが考えられますか?
そういうわけで、メリットはよくわかりません。デメリットは、まず電力の不安定化です。一気に火力で代替するわけにもいかず、風力や太陽光で代替するわけにもいかないので、常に電力の供給不足の心配が残ります。世界中から「石油を買う」「天然ガスを買う」ということになれば、大変なお金がかかりますよね。ですから、電気料金は跳ね上がります。
そして、中東情勢が非常に見通しの付きにくい状況にある中で、仮に、日本が金に糸目をつけず、高い電気料金も甘受したとしても、中東で紛争が起こって、ホルムズ海峡が封鎖され、石油が日本国内に入らなくなりましたということもありうるわけです。そういうことになると一気に電力危機が来るわけで、非常に国家経営が脆弱(ぜいじゃく)になるでしょうね。
――現時点で「原子力をゼロにする」「原発を全く使わない」ということは現実問題としては可能でしょうか?
現在、日本人が享受している生活レベルを維持するという前提なら、現実的ではありませんね。そうでなく、「江戸時代のような暮らしでもいい」という方向を国民が支持するのであれば、何十年も何兆円もかけて、ただただ廃炉にしていくだけ、そういうことになるんでしょう。それは民主主義国ですから、そういうものです。ただし、私はその前に国民に真剣に問うべきだと思いますし、その上で国民がそういう判断をするとも思っていません。