科学上の大発見は、頭脳が柔軟な若い時にもたらされるというのが一般通念だ。「30歳前に科学に偉大なる貢献をしなかった者は、一生涯できない」 というアルバート・アインシュタインの有名な言葉があるぐらいだ。
アインシュタインが特殊相対性理論を発表したのは1905年、26歳の時だった。しかし、ケロッグ経営大学院のベンジャミン・ジョーンズ准教授によれば、その後科学者が大発見をする時の年齢は上がっている。
同准教授の調査では、ノーベル化学賞受賞者が受賞対象となった研究で画期的な業績を挙げた平均年齢は1905年以前が36歳だったのに対し、1985年以降では46歳に上がった。物理学賞でみると、19世紀終盤から20世紀初めにかけては、40歳前に受賞につながる成果をものにした者は全体の60%に達していたが、20世紀末にはわずか19%にまで低下した。
ジョーンズ氏によると、ノーベル賞を受賞した科学者が重要な発見を行った年齢は、20世紀中に平均で約6歳上がった。米国で初めて特許を取得した人の年齢も上昇している。
その理由としては、第1に科学者が本格的な研究に入るのが遅くなっていることがある。20世紀初めには偉大な科学者が研究に邁進し始めたのは23歳だった。それが20世紀末には31歳になった。
学生の時代が長くなったのである。全米科学財団(NSF)の調査によれば、科学者が博士号過程を修了する年齢は、過去40年間で約2歳上がり31歳超となった。それはなぜか。ジョーンズ氏の仮説によれば、新発見の段階に入るまでに学ぶことが多くなったからだ。
スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツ、マーク・ザッカーバーグなどの神童の例は、若い発明家の時代は終わったとの見方への反証のように見える。これについてジョーンズ氏は、IT(情報技術)分野は新しく、学業の長さは関係がないことを指摘する。黎明期にある分野では、蓄積されたものは多くなく、若く経験の浅い者が画期的な発見を行うことが多い。
科学者が高齢になっても精力的に活動できるならば、スタートが遅くなったとしても大きな問題ではないだろう。だが、現実はそうではない。それが世界の繁栄にとって脅威となる。
だがジョーンズ氏は望みを失ってはいない。医療の発達で寿命は延びている。一方、認識能力のピークの期間は延びていない。だが、それは今のところの話である。