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れんが積みの壁の一部や、井戸水を流していた水場跡が残された旧山崎歯科医院の解体現場の一角 |
昨年6月の地震で破損し、解体が進む国登録有形文化財「旧山崎歯科医院」(松本市丸の内)の所有者、歯科医の山崎一郎さん(47)が、れんが積みの外壁の一部などを保存する方針であることが分かった。有志も廃棄されるれんがの一部を回収、希望者に配布することを計画。建物の保存はかなわなかったが、周辺住民の思い出や街並みを築いた先人の思いを少しでも伝えようとの試みだ。
解体は月内に終わる見込みで、跡地は現在の歯科医院の駐車場などになる。29日はれんがの搬出作業などがあった。山崎さんは、建物南西側の壁の一部の他、熊の頭をかたどった陶製飾りをあしらったコンクリート造りの水場跡、カエルの陶製飾りが載った敷地北東の塀を保存する意向だ。
同医院は1888(明治21)年築。山崎さんによると、水場やカエルの飾りは1967(昭和42)年ごろ、祖父の故・建三さんが設置した。水場では74年ごろまでポンプでくみ上げた井戸水を流し、子どもの遊び場にもなった。親しんだ住民らから「壊さないで」と伝えられ、外壁とともに残すことにした。山崎さんは「祖父の思いもある。建物を完全にはなくさない方がいいと思った」と語った。
れんがの回収、配布は同市元町3の建築士山田健一郎さん(48)らが「れんがをただの産業廃棄物にはしたくない」と発案。知人に呼び掛け、17人が28日、現場から約1200個を運び出した。建物の歴史などをつづった説明書を添えて分ける方針だ。
山田さんは「医院への憧れから、その後洋館風の建物が並ぶ街並みができた。今後の街づくりを考えるために、れんがに詰まった先人の思いも伝えたい」と話している。