レンズの焦点距離とパースペクティブ

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  最近2chにはまっています。あるデジカメのスレッドで、レンズの焦点距離とパースペクティブの議論がなされていました。ちょっと面白そうだったので首をつっこんで見たのですが、私にとっては収穫があったのでそれについてちょっと書きます。

  「レンズの焦点距離が変わるとパースペクティブが変わる」という主張に対して、「被写体から一定の距離で撮影する限り、レンズの焦点距離やフィルムのフォーマットに関わらずパースペクティブは一定だ」という主張。どちらが正しいのか。

  まずパースペクティブという言葉の定義を述べておきましょう。パースペクティブとは「遠近感」と訳されているが、手前にある被写体と背景がどのくらい離れて見えるかということ。手前にあるものが大きく写り、遠くにあるものが小さく写る。その大小差が大きいほど、遠近感(パースペクティブ)を感じるということになります。

  写真を少しでも知っている人なら次のことは常識でしょう。
  望遠レンズ:手前にある被写体に対して背景も引き寄せられ大きく写るので、遠近感が少なくなる(これを望遠レンズの圧縮効果と呼ぶ)
 広角レンズ:手前の被写体に対して背景は小さく写るので遠近感がより誇張される。

 レンズにはこの様な特徴があるので、望遠は単に遠くのものを近くに引き寄せるというのではなく、圧縮効果を狙って使ったりもするし、広角も広い範囲を撮るのが目的でなく、遠近感を強調するために使ったりするのがちょっと「通」だったりするわけです。

  私もこれが頭にあったので、レンズの焦点距離が変わったらパースペクティブが変わる、と当然のように思っていました。ところが、正確に言うとそれは正しくないということに今日気付きました。
  正確に言うとこうです。レンズの焦点距離(またはフィルムのフォーマットが)変わってもパースペクティブは変わらない。しかし、被写体からレンズまでの距離を変更するとパースペクティブが変わる。

  私自身、この結論を理解するまでやや時間を要したので、少しずつ具体例を交えながら説明していきます。

  まず、レンズの役目をもう一度考えてみましょう。レンズは3次元の空間を2次元の平面に変換する道具です。レンズを単純化したピンホールで考えればよく分かります。
 図1を見て下さい。今ろうそくの炎のてっぺんから光が四方八方に広がっています。その無数の光線の一本がピンホールを通り、スクリーン上の一点をオレンジ色の炎の色で照らします。なお、ピンホールは面積を持たない「点」と考えておきます。

1.gif

  当然のことながら、ろうそくから出る光線は炎のてっぺん以外のろうそくの全ての点から無数の光線を発射しています。図2にはろうそくの中央部から発した光線がピンホールを通り、スクリーン上に白い点を照らす様子を描いてあります。

2.gif

  同様にして被写体であるろうそく上の全ての点から発した光は、ピンホールを通ってスクリーン上に照らされます。ろうそくの全ての点とスクリーン上の全ての点が1対1に対応したことになり、これがスクリーン上の「ろうそくの像」となるわけです(図3)

3.gif

  ピンホールの最大の欠点は、画像が非常に「暗い」ということです。光の通過する穴が小さいほど画像はシャープになるが(回折現象無視)それにより当然光量が減るからです。では穴を広げれば光量が増して明るくなるが、図4のように被写体の1点から発した光線がスクリーン上では広がって結像し、ピンぼけになる。そこでそれを解決するため「レンズ」の登場となるわけです。

4.gif

  レンズは一度広がってしまった光をもう一度一点に集める働きがあります。さきほどのピンホールの穴を広げたことによってバラけてしまった被写体からの光線群を、再び1か所にあつめてしまうことでスクリーン上に被写体と像の1対1対応が生じました。つまりピントぴったり。しかも明るい画像ということになります(図5)
 レンズの働きとは結局、像を明るくするために大きくした穴を、まるでピンホールであるかのように光線を一点に集めてしまう道具、ということになります。

5.gif

  さて、ピンホールの話に戻ります。図6を見て下さい。ピンホールは理想的な「点」の穴を持つと考えれば、スクリーンがどこにあろうとピントが合うということに気付いて下さい。

6.gif

  そしてさらに注目して欲しいことは、図を見て明らかなように、スクリーンをピンホールに近付ければ、スクリーン上の画像は小さく(=言い方を変えれば、より広い範囲が写り)、スクリーンをピンホールから遠ざければ、スクリーン上の画像は大きく(=言い換えれば、より狭い範囲が写り)なるということなのです。
 以前、理科の実験用にピンホールカメラを作ったことがありますが、トレーシングペーパーで作ったスクリーンに像を写し、そのスクリーンを動かすと見事に広角から望遠へとズームしてくれました。理屈ではわかっていながらも実際に見るとちょっと感動します。

  さて、そしてもっと注目して欲しいことは、前後にある2つの被写体の大小の比率なのです。この大小の比率こそ本題である「パースペクティブ」そのものなのですが、これはスクリーンがどこにあっても常に一定であることに気付いて下さい! つまり望遠であろうと、広角であろうと手前のろうそくと奥のろうそくの像は、大きさの比率が変わらず一定なのです。
 
比率が一定というのは、三角形の相似から明らかだとは思いますが、図7で説明しておきます。

7.gif

 三角形OABと三角形OCDは相似、また三角形OA'B'と三角形OC'Dも相似。さらに両者の相似比は等しい。よってAB:CD=A'B':C'D' 従って、AB:A'B'=CD:C'D' つまり手前の画像と奥の画像のパースペクティブが常に同じであることが示された。

  さて、上はピンホールでの話ですが、これはそのままレンズとフィルムの話のにそっくり置き換えることが出来ます(なぜなら前に話したように、レンズはピンホールの穴を大きくすることにより広がってしまった光をすぼめる役割をするだけだからです。(実際はもっと複雑なのはいうまでもないが))
 スクリーンをピンホールに近付けたり遠ざけたりするのは、レンズの焦点距離を短くしたり長くしたりすることにほかならないのです。
 もう一度図6を見てください。

6.gif

  今スクリーンに大きな画像を結像させたければ、レンズとスクリーンの距離を伸ばしてやればよいわけです。そのためには焦点距離の長いレンズをつけてより後方のスクリーンに結像させればよいわけです。小さい画像を作るためにはその逆です。正式には被写体とレンズとスクリーンを描いて、光線の経路を作図すべきですが、それをやらなくても直感的にわかると思いますので省略します。

  ここまでのどころで、被写体に対するレンズの位置が変わらなければ、望遠であろうが、広角であろうが画像のパースペクティブは変わらないというのが納得出来たと思います。
  ではなぜ「広角だとパースペクティブが強調され、望遠だと圧縮効果がある」といわれるのでしょうか。どの本にも、メーカーのレンズのカタログにもそう書いてあります。実はこれは被写体とレンズの距離、つまり撮影距離が関係しているのです。
  広角で撮影すると被写体の画像サイズは小さくなります。そこでそれを画面いっぱいにとらえようとして被写体に近付きます(被写体とレンズの距離が短くなる)。望遠の場合はその逆。画像が画面からはみ出すので被写体から遠ざかります=被写体とレンズの距離が長くなる。(ま、普通は遠くのものを撮るから望遠を使うわけですが)。これを図を見て考えましょう。図を単純化するためピンホールで考えます(何度も言いますが、レンズは広がった光を一点にあつめるだけの働きなので、本質的にはピンホールと同じです)。ピンホールで考えますが、より現実味を増すためにピンホールをレンズ、スクリーンをフィルムと置き換えて表現してみます。

 広角で撮影するとパースペクティブが強調されるのは以下の理由からです(図8)。

8.gif

  広角で撮りたい→フィルム上の結像を全体に小さくすればよい→レンズとフィルムの距離を短くすればよい(図より明らかですが、レンズーフィルム間の距離を短くすればフィルム上には広い範囲が写ります)→焦点距離の短いレンズを使う→これでそのまま位置を変えずに撮影すれば、図6で説明した様にパースペクティブは変わらない。ところが、像が小さくなるので大きく撮影しようと、被写体に近付くと上の図に示したように、2つの被写体の像の大小比率が変わり、近いものがより大きく、遠いものがより小さな比率に変化する。これによりパースペクティブが強調される。

 望遠で撮ると圧縮効果が起こるのは以下の理由からです(図9)。

9.gif

  望遠で撮りたい→フィルム上の結像を全体に大きくする→レンズとフィルムの距離を長くする→焦点距離の長いレンズを使う→これでそのまま位置を変えずに撮影すれば図6で説明したようにパースペクティブは変わらない。ところが像が大きく画面からはみ出るので、被写体から遠ざかると上の図に示したように、2つの被写体の像の大小比率が変わる。2つの像の大きさの差が小さくなる。つまり遠近感がなくなり圧縮効果が出てくる。

 まとめると次のようになります。

  被写体からレンズまでの距離が変わらなければ、どんな焦点距離のレンズを使おうと、フィルムや撮像素子の大きさが変わろうと、パースペクティブは変わらない(なお、超広角レンズを使うと歪曲収差が出て広角特有の画像になりますが、あれはあくまでも収差であってその効果は含めません)
  ところがひとたび被写体とレンズの距離を変えたとたんにパースペクティブは変わる。つまりパースペクティブはレンズの種類やフィルムのサイズに依存するのではなく、被写体との距離にのみ依存するということが分かった。

  それでも感覚的に今ひとつ納得しないと言う人に。
  超広角で撮った写真の中央部(周辺部はわい曲しているのでダメ。これは本来はないはずの収差が原因)をずずずーぃっと拡大してみて下さい。拡大部分に遠くのものが写っている方が分かりやすいと思いますが、どうですか?遠近感がなくなって、圧縮効果が出てくるのが感じられるはずです。近くのものはどんどん画面からはみ出していく。遠くの小さな矩形を切り出して拡大することをイメージすろとわかるかもしれません。広角で撮った写真も一部分を切り出せば、それは望遠で撮った画像と全く同じということです。
  広角でとった写真をトリミングして伸ばせば良いのですが、それでは粒子が荒れてざらざらになってしまう。それでは困るので望遠レンズがあるのです(でもそれって、写真に全くの初心者が思っていることと何も変わらないんですよね)。つまりちょっと写真を知っていると、広角はパースペクティブ強調、望遠は圧縮効果なんて中途半端な知識が頭にあるからなのですが、そうではない。
  あくまでも「近付いて撮るとパースペクティブ強調、遠くのものを撮ると圧縮効果」というのが正しいわけです。何度も言うがレンズの焦点距離には関係なし! 実は私も今さっき、このことを認識したのです。

  それでも納得出来ない人、今すぐカメラ店に行ってニコンのレンズ総合カタログを見て下さい(2003年9月10日版)。
28ページにお決まりの焦点距離による画角の変化がのっています。これは被写体までの距離を変えていないパターンと、手前の被写体の大きさを保持して(つまり距離を変えて)撮ったパターンと2種類。とてもいいサンプルです。

  まず上の農夫とトラックの写真。トラックのミラーとその背景の道路のパースペクティブ、確かに変わっていません。広角側は小さすぎて見えませんが、50mmあたりから500mmまでミラーと上りの道路の大きさの比率は一定に見えます。これがレンズの焦点距離が変わってもパースが変わらない証拠。

  その下のサーフボードと海の背景の写真はパースが思っきり変わってます。手前のサーフボードの大きさが同じに写ってますから、200mmに比べて28mmではそうとうサーフボードに近付いたはず。そうすればサーフボードは極端に近いから大きく写り、海は遠いから小さく写る。200mmでは画面にサーフボードを入れるために相当離れた。そうすれば相対的に海とサーフボードの距離にそれほど差はない。海もサーブボードも大きさにそれほど差がなく写るというわけです。
  もし28mmでもおなじ距離だけ離れて撮影すれば、サーフボードと海は同じ程度の大きさで写り(全体にすごく小さくなりますが、そのかわり広い範囲が写る)それをあとで部分的に拡大すれば200mmでの画像と同じパースペクティブになるのは予想できると思います。

  気が付いたらすごく長い説明になっていました。しつこい説明でごめん。最後まで読んでくれた人ありがとうございます(カメラの素人が書いています。間違いがあったらご指摘下さい)。
 2chで上記の件で議論していた方々に感謝いたします。

コメント(2)

はじめまして。
私も同じ疑問を持っていたので非常に参考になりました。
丁寧な説明、ありがとうございました。

はじめまして。
私は以前、学研のデジタルキャパの仕事で、「撮影距離が一定なら、広角レンズで撮影した写真をトリミングすれば、望遠レンズで撮影したものと(粒状製は無視して)同じである」という主旨の記事を書いたら、編集員にそれは間違っているといわれました。この記事を見せてやりたいです。
ちなみに、テーマは「被写界深度」だったのですが、パースペクティブと同じ現象が起こるものだと思っています。しかし、現実には、レンズの個性と撮像素子の飽和があって、ピント(焦点深度)のことは強く言えなかったのですが、「原理」そのものは同じだと思っています。
分かりやすい説明、ありがとうございました。

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このブログ記事について

このページは、arataが2003年11月10日 01:11に書いたブログ記事です。

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