現在位置:
  1. 朝日新聞デジタル
  2. 社説

社説

朝日新聞社説のバックナンバー

 大学入試問題に非常に多くつかわれる朝日新聞の社説。読んだり書きうつしたりすることで、国語や小論文に必要な論理性を身につけることが出来ます。会員登録すると、過去90日分の社説のほか、朝刊で声やオピニオンも読むことができます。

2012年9月7日(金)付

印刷用画面を開く

このエントリをはてなブックマークに追加 Yahoo!ブックマークに登録 このエントリをdel.icio.usに登録 このエントリをlivedoorクリップに登録 このエントリをBuzzurlに登録

安倍元首相―思慮に欠ける歴史発言

自民党総裁選に向け、安倍晋三元首相がみずからの歴史観について活発に発言している。たとえば月刊誌のインタビューで、こう語っている。「自民党は、歴代政[記事全文]

自然エネルギー―普及への壁を取り払え

風力や太陽光、地熱といった自然エネルギーによる電力を固定価格で電力会社に買い取らせる制度が7月に始まった。原発ゼロを実現させるうえでも、大事なステップだ。制度をきっかけ[記事全文]

安倍元首相―思慮に欠ける歴史発言

 自民党総裁選に向け、安倍晋三元首相がみずからの歴史観について活発に発言している。

 たとえば月刊誌のインタビューで、こう語っている。

 「自民党は、歴代政府の答弁や法解釈を引きずってきたが、新生・自民党では、しがらみを捨てて再スタートを切れる」

 「新生・自民党として、河野談話と村山談話に代わる新たな談話を閣議決定すべきだ」

 そして、自分が首相に返り咲けば、靖国神社に「いずれかのタイミングで参拝したいと考えている」と述べている。

 自民党の一部で根強い主張である。それにしても、首相経験者、さらには首相再登板をねらう政治家として、思慮に欠ける発言といわざるをえない。

 河野談話は慰安婦問題で旧日本軍の関与について、村山談話は過去の植民地支配と侵略について、それぞれ日本政府としての謝罪を表明したものだ。

 6年前、首相になる前の安倍氏は「自虐史観」に反発する議員の会の中核として、村山談話や河野談話を批判してきた。

 だが、首相になるや姿勢を一変させ、両談話の「継承」を表明した。政権を担う身として、対外宣言ともいえる外交の基本路線を覆せなかったからだ。

 安倍氏自身が靖国参拝を差し控えたこともあり、小泉政権で冷え切った中韓との関係を改善したのは安倍氏の功績だった。

 私たちは当時の社説で、そんな安倍氏の豹変(ひょうへん)を歓迎した。

 それがにわかに先祖返りしたかのような主張には、驚くばかりだ。再び首相になればそれを実行するというなら、方針転換の理由を説明してもらいたい。

 ふたつの談話は、安倍政権をふくめ、その後のすべての政権も踏襲した。韓国をはじめ近隣国との信頼を築くうえで重要な役割を果たしてきた。

 かりに首相に再登板した安倍氏がこれを引き継がないということになれば、日本外交が苦労して積み上げてきた国際社会の信頼を失いかねない。

 自民党の一部に再び安倍氏への期待が出ている背景には、尖閣諸島や竹島をめぐる中韓の刺激的な行動があるのだろう。

 しかし、それに安倍氏流で対抗すれば、偏狭なナショナリズムの応酬がエスカレートする恐れさえある。

 政治家が信念を語ること自体を否定するつもりはない。

 ただし、それには自分なら近隣国との外交をこう前進させるという展望を、しっかり示す責任が伴う。その覚悟なしに持論にこだわるなら、一国の政治指導者として不適格だ。

検索フォーム

自然エネルギー―普及への壁を取り払え

 風力や太陽光、地熱といった自然エネルギーによる電力を固定価格で電力会社に買い取らせる制度が7月に始まった。

 原発ゼロを実現させるうえでも、大事なステップだ。制度をきっかけに、太陽光発電への投資が急増している。

 しかし、風力や地熱、さらに廃棄物や木材を利用するバイオマスへの投資はまだ鈍い。

 風力では北海道、東北を中心に多くの建設構想があるが、送電線の不足や厳しい規制に実現を阻まれている。地熱でも、温泉への影響を懸念する声が関係者から上がる。

 こうした普及への壁を取り払うため、官民の知恵と力を結集しなければならない。

 発電量に占める自然エネルギーの割合は現在、約10%。水力を除けば1%強にすぎない。

 政府のエネルギー・環境会議が示した三つの選択肢では、どの原発比率を選ぶにしても、自然エネルギーの割合を2030年には25〜35%に増やすことになっている。

 目標値はたしかに高いが、悲観的になることはない。脱原発に進むドイツの自然エネルギー比率は90年代、日本より低かったが、その後、急拡大させて現在は約20%。その比率を20年に35%に伸ばそうとしている。中国やインドなど新興国も急拡大させている。

 民間からの投資を引き出すには、政府が自然エネルギー拡充への道筋を明確にし、投資家が事業見通しを整えられるようにしなければならない。

 規制を大胆に見直し、土地利用の手続きや環境影響評価に時間がかかりすぎないようにする。発送電の分離を柱とする電力改革を進めつつ、送電線の増設を急ぐ。

 地元住民の参加も重要だ。ドイツや北欧では、風力発電所やバイオマス施設の建設を住民組織が出資、運営する例が少なくない。草の根から取り組む例を日本でも増やしたい。

 新しい技術開発へも挑戦してほしい。とくに注目したいのが浮体式の洋上風力発電だ。

 国の予算を使って、長崎県五島列島沖で実証実験が始まり、福島県沖でも大規模実験が行われる予定だ。国費の投入には限度があるが、洋上風力の発電能力は大きい。世界初となる浮体式の実用化に成功すれば、自然エネルギー普及に大きな弾みとなろう。

 企業や大学が持つ風力や地熱の発電技術はこれまで外国へ輸出されるか、そうでなければ国内で眠ったままだった。今こそ日本で花を咲かせてほしい。

検索フォーム


朝日新聞購読のご案内
新聞購読のご案内事業・サービス紹介