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公立高来春導入・新入試、保護者に賛否 中学側は懸念
宮城県内公立高で来春導入される新入試制度に、保護者らから賛否の声が上がっている。選抜の透明性を高めたことは好感されたものの、複数の受験機会が必ずしも確保されなかったことに不満がくすぶる。「多面的な評価が可能」「不合格者が急増するだけ」。教育現場も受験生への影響を測りかねており、新制度の評価が定まるのは来春以降になりそうだ。
現行の推薦制度は生徒に出願の最終決定権がないのに対し、前期選抜は生徒が自分で出願先を判断できるのが特徴になる。各高校が設定した評定平均などの要件をクリアすれば、どの志望校にも挑戦できる。 娘が来春受験するという仙台市太白区の女性(52)は「求める生徒像が分かり、目標を持って頑張れる。出願の可否を自分で判断できるのも魅力」と歓迎する。 ただ、前期選抜の合格者は後期の出願資格を失うため、「滑り止め」には活用できない。保護者の間には複数回の受験機会を望む声が根強く、「要件を満たさなければ前期は門前払いになる。これでは入試改革の恩恵が得られない」と失望の声も上がっている。 中学校側にも戸惑いがある。複数の中学校長らは「各校が設定した評定水準が高すぎる」「高校が優秀な生徒を囲い込みたいだけ」と、制度設計に異論を唱える。 県教職員組合の入試制度検討委員長を務める大木一彦教諭は「中学生活の全てが前期の出願要件を意識したものになりかねない」と指摘。各校が設定する前記選抜の要件によっては出願が集中し「大量の不合格者を出し、生徒を傷つけるだけの改悪だ」と批判する。 今回の入試改革は、中学校側が「生徒の序列化が難しい」と推薦制度の廃止を求めたのが発端。これに複数回の受験機会の確保や、多面的な人物評価といった保護者らの要望を勘案した結果、今回のような複雑な制度に落ち着いた経緯がある。 県教委は「点数だけに依存せず、スポーツや課外活動など多様な人物評価を合否判定に反映できる」と前期選抜の利点を強調。不合格者が増えるとの懸念には「出願要件も設定されており、倍率が極端に上がる可能性は低い」とみる。 選抜の公平性と妥当性をいかに担保するか−。高校入試制度をめぐる試行錯誤は、宮城だけにとどまらない。 和歌山県は2006年、各校の定員を二分して前後期の試験で選抜する制度を導入したが、「不合格者が倍増した」との批判を受けてわずか2年で廃止した。東北でも山形県が普通科校の推薦廃止の方向性を打ち出すなどの動きが出ている。 大手学習塾河合塾NEXT(仙台市)の伊藤聖・教室長は「入試も説明責任を求められており、選考課程が不透明な推薦を廃止したのは時代の流れ。今後は出願要件を通し各高校が特色を打ち出す工夫が求められる」と話している。
◎学力要求、人間性尊重…/前期選抜、出願要件に各校の戦略
「部活動での大会上位入賞」「リーダーシップを発揮できる人間性」−。前期選抜で高校側が示した多様な出願要件には、どんな生徒を集め、どう学校を特色づけていくかという各校の戦略が込められている。要件の柱となる評定をめぐっても学校ごとの判断には大きな開きがある。 屈指の進学校として知られる仙台二高。スポーツなどで特段の成果がない生徒については、県内で最も高い「評定平均4.8以上」というハードルを設けた。 「オール5に等しい」(中学校関係者)というほどの高い水準だが、同校は「推薦制度下での実績を考慮して設定しており、門戸を狭めたわけではない」と説明。「大学進学で成果を出すのが本校の使命。一定の学力を求めるのは仕方がない」と理解を求める。 一方、ライバル校とされる仙台一高は正反対の対応を取る。普通科高校では珍しく出願要件に評定数値を掲げず、部活動などの成果を求めるにとどめた。加藤順一校長は「教職員で議論した結果。特定分野に秀でた生徒にも入学の機会を与えたかった」と狙いを説く。 評定による制限がないことから、受験者が殺到することも想定される。加藤校長は「出願数は全く読めない。どうなるにせよ職員の総力で対応するしかない」と話す。
[宮城の新公立高入試制度] 推薦と一般入試という従来の組み合わせを、各高校が定めた出願要件を満たす中学生が出願できる「前期選抜」、前期選抜に合格していない生徒が志望校を自由に受験できる「後期選抜」に再編した。定員割れの高校による2次募集を加え、最多で3回の受験機会がある。導入は2013年春。学力検査は前期が国数英の3教科、後期が国社数理英の5教科で実施する。普通科の場合、前期の募集割合は総定員の最大2割にとどまる。
2012年08月27日月曜日
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