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PV488049、ユニーク62967、お気に入り1094。
いつの間にかすごい数字に……。
sec.18/真剣(後)それとほのぼの

 雪片の斬撃を受けた『アンソレイエ』が下降していく。私は追撃しようとするが、レヴァンは左手のアサルトライフルで牽制射撃し寄せ付けない。

『今のは利いたぜっ』

 レヴァンは『三次元躍動旋回(クロス・グリッド・ターン)』で体勢を立て直し、可動盾を前に突き出して急速後退していく。腰の後ろから小型のマシンガンを取り出すと、再び二挺銃(ダブル・トリガー)で引き撃ちを始めた。

「さすがはデュノアの御曹司と言ったところか」

 前は不可能だった機動も改良の結果そつなくこなす。こいつのことだから、戦闘毎に私と『暮桜』のデータを採取していたんだろう。
 先ほどより弾幕は濃くなったが、弾速はBTライフルよりもずっと遅いので避けられないこともない。
 しかし今は右のスラスターを損傷している。これでは確実に機動に支障をきたす。やはり短期決戦しかないか。
 このコンディションで『三次元躍動旋回』を行うには『アンソレイエ』の照準性能的にリスクが高いため、より単純で効果的な『円状制御飛翔(サークル・ロンド)』で実弾斉射を躱す。連射系銃器の回避に特化した機動だ。
 いかにISにPICが搭載されているとはいえ、銃弾にまでその効果が及ぶことはない。引き撃ちにより相対的に減速した弾丸を躱すのは『暮桜』をもってすれば簡単なことだ。
 私はレヴァンの直上にいたると同時、雪片を下段に構えて突撃した。

『もらった!』

 地面を抉りながらも逆袈裟に切り払う。飛び跳ねるようにして躱すレヴァンに私は踏み込み、雪片を真一文字に振り抜く。とっさに可動盾でガードするが、構造上受け流せない攻撃に『アンソレイエ』はわずかにバランスを崩した。

「せいっ!」

 さらに一歩踏み込んで、渾身の突きを放つ。雪片の切っ先がレヴァンの喉を正確に捕らえ、絶対防御を発動させた。エネルギーを大きくけずりながら、特徴的な光と共にシールドがレヴァンを守る。だが――

(なぜ笑っている……なっ!?)

『今度こそ捕まえたァ!』

 『アンソレイエ』の右の可動盾のパイルバンカーから杭が撃ち出される。先ほどとは逆、左のスラスターを貫き『暮桜』を拘束。左の可動盾が地面に向けて杭を撃ち込むと、力任せにアームを振りかぶり私を地面に叩き付けた。

「ぐあっ……!」

(攻撃が決まった瞬間の気の緩み……付け込まれたか!)

 予想外の攻撃にまともな反撃もできず、マウントを取られる。レヴァンは雪片を握る右手を踏みつけて、地面から左の杭を引き抜くと全身のバネを利かせるようにして私目がけて殴り付けた。
 パイルバンカーの一撃がシールド・バリアーを突き破り、『暮桜』に絶対防御を発動させる。抜けだそうにも杭で左の『非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)』を縫い付けられている上右手を押さえられ、上手くいかない。レヴァンはそのまま連続でパイルバンカーを当ててくる。

『動けないんじゃ「暮桜」もただのISだな!』

(まずいっ、なんとかして抜け出さねば……!)

 やられてたまるか!
 機体を新調したくらいでやられていては、織斑千冬の名が廃る。そもそもISの基本性能は『暮桜』の方が上なのだから、ここで負ければ技術の差ということになる。一瞬の油断が招いた結果とはいえ、そればかりは悔しすぎる。
 惚れた上に戦いでも下されていては、剣士として情けない。それなら今すぐこいつのために股を開いた方がましだ。

(織斑千冬はその程度で下せるほど安い女ではないぞ!)

 私は諦めない。一か八か、覚悟を決めてISの全エネルギーを放出する。
 『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』。
 地面が爆発し、土煙が立ち上がる。大小の破片を撒き散らしながら、『暮桜』は空へと舞い戻る。『アンソレイエ』は土と共に弾き飛ばされ、空中で一回転し両手の銃を構える。

『これだけやっても立ち上がるか。やっぱお前、最高だよ』

「なら私を選ぶか?」

『どうだかな、決めるにはまだ足りない』

「なら、私をもっと見せてやる!」

 雪片を両手で握り直す。レヴァンが銃撃しながら一直線に突進してくる。私も最小の動きで回避しながら、多少の被弾は無視して突撃した。

(この一撃で決める!)

 レヴァンがパイルバンカーを構える。私は雪片を居合いの構えで握りしめた。
 一方は上空から、もう一方は地上から。
 『アンソレイエ』のパイルバンカーが当たればあいつの勝ち、それを掻い潜って居合いが決まれば私の勝ち。
 両者『瞬時加速』を発動し、一気に彼我の距離を詰め互いの得物を交えた。


◇◇◇


 一段と大きな火花が散る。相対速度は音速を超えているだろう、凄まじい速さですれ違い、一撃が決まった。

『――勝者、織斑千冬』

 試合終了のブザーが鳴り、アナウンスが勝者を告げた。

「あーあ、れっくん負けちゃったね」

「…………」

 真耶は見入ってるのか反応しない。都合のいいやつ。
 れっくんは静かに着陸し、ちーちゃんの方に振り替える。

『まだ、足りないか……さすがだな』

『ふん、最初のパイルバンカーが直撃していれば、私が負けていたよ』

 お互いに健闘を讃え合う姿がとても綺麗だ。さっきまでの張り詰めた雰囲気は霧散し、そこにはあったかい空気があった。

「二人ともお疲れ様、ピットで待ってるよ」

 突然の通信に驚いたみたいだったけど、すぐに了解の返事が来た。れっくんがすぐに私のいる方を向いてくれて嬉しかったかな。
 ちゃんと見ててくれてるんだよね、本当抜け目ない。そんなれっくんに束さんはメロメロだよーと、私は小さく手を振っておいた。

「ほら、さっさとピット行くよ」

「ふぇ?……あ、待ってください!」

 何かとトロい真耶を連れて、私はピットに向かった。


◇◇◇


 ピットにはすでに二人が帰ってきていた。二人ともまだISを展開したままで、戦闘の傷痕が至るところに刻まれている。

「お帰り、れっくーーん!」

 束先輩が勢いよくレヴァン会長に抱きつく。レヴァン会長はすぐさまISを解除して、束先輩を抱き留めた。

「もう、抜け駆けはダメですってば!」

 私も続いて抱きつく。この人は基本的に拒むことをしない。きっと私たち三人なら、いつどこでハグを求めても答えてくれるんだろう。そんな安心感がなければ私なんて絶対に抱きついたりできないけど。
 私たち二人の背中に手を回して、その広い胸板で迎え入れてくれる。これが私一人のものになればきっと幸せだろうに。

「ただいま、真耶、束」

「ぶー、何で束さんを先に呼んでくれないのー」

「ごめんごめん」

 束先輩の我が儘も笑って受け入れて、優しく頭を撫でる。ちゃっかり私の頭も撫でてる辺りずるい人だと思う。
 しばらくして私たちを離すと、そっぽ向いていた千冬先輩に近寄る。

「千冬」

「何だ、このすけこまし」

「言うなあ、まあいいけど――」

 レヴァン会長は千冬先輩の髪を撫でると、そのまま――

チュ

「なっ何をするっ!」

 千冬先輩の頬にキスを落とした。って……

「……何やってるんですか! ずるいっ、ずるいです、そんな!」

「れっくん、いくら何でもキスはないんじゃないかな!?」

 そんな、レヴァン会長と千冬先輩がそこまでいっていたなんて……! 束先輩は添い寝したこともあるし、私だけ何もない……。不公平です!

「いや、千冬は抱きついたりしたら怒るだろ? だから――」

「だからじゃないの!」

「うぅ……」

 何だか涙が出てくる。私だけ何にもない、私だけ、私だけ……。
 だいたいレヴァン会長は節操なしなんですよ。普通なら複数の異性から言い寄られたらある程度距離をおいて、一人ひとり見極めるものなのに、このすけこまし会長は全員を恋人みたいに扱うから。ハグしたり頬擦りするのは当たり前、ときにはキス……完全に女たらしです。
 しかも三人ともしっかり気持ちを込めてるし、それを上手く回してるから質が悪い。そりゃあ想い人からそんなことされたら嬉しいですけど、一人だけ役得みたいな顔してるからちょっとムカついてます。ぷんぷんです。

「レヴァン会長……」

「……あぁ、悪い。真耶にだけ何もしてやれてなかったな……。よし、今度二人きりでデートにでも行こう! きっと楽しいぞ」

「……はい、よろしくお願いします……」

 うぅ、女の子の言いたいけど言いにくいことにも機敏に対応できるし……卑怯の極みです。だから愛想尽かすこともできないんですよ、大好きなんです。

「れっくんってば!」

「ふふ、我が儘言う束も可愛いよ」

 こんな感じで今日もすぎていく。
 ムフフ、レヴァン会長とデート……ようやく我が世の春です。そうと決まればおめかししないと。ルームメイトの娘を誘って服を買いに行こう。恋する乙女はやることがいっぱいありますね。



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