『三次元躍動旋回』はアニメでの真耶さんの戦闘機動を参考にしてます。
sec.17/真剣(前)
学園に戻ってきた俺を待ち受けていたのは、自分の身長ほどもある刀を軽々担いでいる般若だった。
「卑しい“たらし”め、私直々に成敗してくれる……!」
「千冬っ、こ、これについては確たる事情が――」
「話なら墓標の前で聞いてやる、まずはその首差し出せ……っ」
まさしく問答無用、一刀両断。目尻に涙をため下唇を噛みしめる千冬に俺は言葉が出なくなる。
忌々しい我が腹黒部下の手引きにより、束と俺の添い寝写真は電波と光の海を駆け巡り世界へと晒された。
勘違いしたアホどもに俺は抗議したが、束がその火に油を注いで炎上。女性の言質が取れてむしろ信憑性を高める結果となった。女尊男卑の風潮は着実に世界に浸透しているようだ。マジ爆発しろ。
見たことのないほどに弱々しい千冬の表情にうろたえる。キャノンボール・ファストのときなど目ではない。本当に悲しそうだった。
千冬は雪片を上段に構える。緩慢な動きながら一切の隙を感じさせない、まさに完成されたものだった。
だが俺もこのまま食らってやる訳にもいかないので、飛び出して腕を掴む。
「離せ馬鹿者っ! 離せっ……離して……うぅっ」
「千冬……」
千冬は雪片を下ろして俯く。いつも押し留めていた感情のダムが決壊したのか、ついに千冬は涙を流した。
今の俺にこいつを慰める資格などないだろう。それは分かっていても、俺は肩を抱かずにはいられなかった。
「千冬、俺が悪かったよ……本当にごめん」
「馬鹿者っ、何でよりによって今なんだ!? せっかく……せっかく、自分の気持ちを受け入れたところなのに……!」
「ごめんな……お前を傷つけておいて今さら言い訳するつもりはないけど、でも……」
俺は耳に口を寄せながらささやく。
「俺は……まだ選ぶことはできない。三人ともとても大切で、誰か一人に決めるには拮抗しすぎているんだよ」
俺の言葉を聞いて一瞬、千冬の身体が震える。それから千冬は背中に手を回してきて俺と目を合わせる。泣き腫らした赤い目が普段の印象を完全に駆逐し、どうしようもなく綺麗だった。
「それは本当なんだな……?」
「あぁ」
「まったく、この女たらしが。だが――それはまだお前が私に惚れる未来もあると信じていいんだな?」
「あぁ」
「……分かった、信じてやる。信じてやるからお前も一つ覚えておけ、レヴァン……」
これ以上ないくらいに頬を赤くして、千冬は俺に顔を近付ける。『何だ』と返す暇もなく、千冬は俺の唇に口付けた。
硬直すること数秒、動悸がして足元がふらつく。柔らかい感触と体温が伝わってくる。しかしそれを楽しむ間もなく、混乱している間に唇は離された。
「千冬っ何を――」
「好きだ、レヴァン。お前を愛している。必ず私のものにしてみせるから……その、覚悟しておけよ!」
「……な」
……告られた、自分の好きな娘の一人に。
何だよこれ、改まって言われるとすごく嬉しい。束や真耶はたびたびスキンシップ図ってくるけどこういうこと言わないし――ていうかセリフがクサすぎんだよ。そして何でそれがこんな様になってんだよ!
俺はくらくらする思考を必死に押さえつけながら、何とか返事をする。
「……俺も絶対、最高の一人を選びぬいてみせるから、少しの間時間をくれ。頼む」
「ああ。なら、それまで私は女を磨くとしよう。……きっと私を選んでくれるものと信じているよ、レヴァン……」
ああ、俺は何て最悪な男だろうか……こんないい女を待たせるなんて。しかしそれならなおさらよく考えて決めねばなるまい。それが好意を向けてくれている彼女たちへの礼儀だ。
俺は三人の中から選んだその一人を伴侶にすると、心で密かに誓った。
◇◇◇
第一アリーナでちーちゃんの『暮桜』とれっくんの『アンソレイエ』が対峙している。私情を挟まない正真正銘の真剣勝負。
私とれっくんが夏休みにフランスに行ったときの添い寝の写真が流出して、ちーちゃんは少しの間荒れたけどもう大丈夫みたい。きっと私が聞いたら嫉妬するような仲直りを二人はしたんだろうけど、雑誌とかのインタビューにはれっくん『伴侶と認めた女性しか抱かない』って格好よく言い張ってたから安心はしてる。
ちーちゃんや真耶――ライバルだから名前で呼んでやる――は熱愛疑惑の記事を見てから落ち込んでたけど、私もこんなことで恋が叶ったなんて思うほどおめでたい性格してないから、公平を期すために三人が取り合いをしてるって構図は一応公にしといた。私のことをちゃんと見て選んでほしいし、ちーちゃんと仲違いするのも避けたかったから。
ちーちゃんは雪片を両手で握り、れっくんは両手に別々の銃を持っていた。プライベート・チャネルで話す音声を最近作ったウサ耳アンテナで拾う。
『今日ばかりは勝たせてもらうぞ』
『機体が変わったとて、ブランクが埋まる訳ではない。切り刻んでくれる』
両者やる気は満々みたい。試合開始のブザーが鳴る。同時に、隣に座っていた真耶が私の服の裾を掴んで話しかけてきた。
「束先輩、二人が何言ってるか分かりませんか!?」
「ちょっと何なの君、邪魔だよっ」
「このウサ耳ですか? 私にも何を話してるのか教えて下さい!」
何かここのところ真耶がおかしい。いつもは引っ込み思案なのにやたらと押しが強いのだ。鬱陶しいったらありゃしない、ほら今だって私のウサ耳を奪おうと――
「――やめなって、もう! 分かった聞かせるから!」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
本当何なのこいつ……。私は仕方なくパソコンを取り出してウサ耳とリンクさせる。数秒後、音声が出力された。
『マッハで蜂の巣にしてやんよ!』
スタジアムに目を戻すと、『アンソレイエ』は四枚の加速推進翼を地面に対してX字に広げ、滑るように移動していた。両の手に握られたBTライフルとアサルトライフルが、それぞれ異なる弾速と発射間隔で『暮桜』に斉射を浴びせかける。
「すごい、千冬先輩……私だったら本当に蜂の巣になってますよ」
「比べるのもおこがましいね」
「うぅ……」
ちーちゃんもかなり躱してはいるけど、特性の違う二つの銃火に徐々に削られていっている。見たところ『アンソレイエ』にも『神経精密同調システム(NEXUS)』が使われているみたいだから、その照準性能は他のISよりもずっと高い。それを七割方回避してるんだからその技術は文句なしに学園一だろう。
「でもネクサス使うとISが二次移行しなくなる可能性があるんだよねー」
「えっ、そうなんですか」
「……君と会話してるつもりはないんだけどね」
まあいいや。
ちーちゃんはこのままだとジリ貧だと考えたんだろう急降下すると共にスラスターの出力を最高まで上げ、れっくん目がけて突撃していった。
うん、この思い切りのよさこそちーちゃんだよね。
『はぁぁぁあ!』
『そう簡単に振らせるかよっ』
れっくんもちーちゃんに向かって加速する。しかし急にスラスターを下に向けたかと思うと上昇しだした。勢い余って『暮桜』は『アンソレイエ』とすれ違う。
フェイントをかけて雪片の必殺の斬撃を躱したれっくんは、そこで宙返りを打ってちーちゃんを後ろから狙い撃つ。
『やるっ……!』
でもちーちゃんも負けてない。攻撃が外れたと分かるなりすぐさま機動を修正する。いくらか被弾しながらも、『三次元躍動旋回』で体勢を立て直す。
『三次元躍動旋回』、ちーちゃんが発案したISの戦闘機動の一つ。と言ってもスペック的に『暮桜』以外のISじゃ無理だったから、織斑千冬の代名詞の一つになってるけど。
鋭く旋回移動しながらも機体自体は別の方向に向いている。ISのPICの特性である三六○度全方向への加速能力をフルに使って、方向転換と視点移動を別々にかつ同時にこなすことができる。これによって予測射撃を狂わせたり、次のアクションへの時間短縮ができるのだ。
「いつ見てもキレイだねー」
その姿はまさしく『蝶のように舞い、蜂のように刺す』を体現していると言える。
ちーちゃんは『瞬時加速』で勝負をかける。ミサイルのようにISエネルギーの尾を引き、一気に『アンソレイエ』の正面に迫った。
『らぁっ!』
雪片がれっくんを襲う。関節を増やした可動盾が斬撃を受け止め、盾表面に深く爪痕を残した。
「危ないっ!」
右の盾がカウンターパンチを繰り出すと共に真耶の叫びが聞こえた。うるさい。
ガギィィンッ!
何が起きたかよく分からない。大きな火花が散ったかと思うと『アンソレイエ』の可動盾から射出された杭が、『暮桜』の『非固定浮遊部位』を貫通していた。
『これが男の魂だ……!』
どことなく卑猥な表現をするれっくんだけど、今の一撃は格好よかったかな。
れっくんはそのまま左の盾を構え、さらにBTライフルを『暮桜』に向けるけどちーちゃんは身体をひねって回避する。
『ただではやらせん!』
勢いを乗せて、これまでも何度か見たことのあるスラスター全開の回し蹴りを放つ――
ガンッ!
『チィッ』
――と見せかけて、雪片でBTライフルを切り払う。中枢を破壊されたBTライフルがレーザー・ジェネレーターをオーバーロードさせ、爆散した。
両者のシールド・エネルギーを削りながらも、ちーちゃんは杭の拘束から逃れる。『非固定浮遊部位』持ちの強みである姿勢制御の早さで、雪片の先制攻撃が決まった。
『たぁっ!』
綺麗な面。篠ノ乃流剣術の一刀が『アンソレイエ』に繰り出された。
――『暮桜』、シールド・エネルギー、残り246
――『アンソレイエ』、シールド・エネルギー、残り217
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