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キャノンボール・ファストの設定を少し変えました。原作のスタジアムはまだ施工中という設定です。
それにしても、たかだか二万人しか収容できないスタジアムで時速五○○キロメートル以上のレースなんてできますかね?
sec.13/新学期と弾丸レース

「生徒会役員の諸君、健勝なようで何より」

 生徒会室に集まった三人を見てレヴァン会長は言った。私も会長が元気なようで安心しました。
 でも――

「何でっ、さっきから、束先輩はレヴァン会長にひっついてるんですかぁ! フ、フランスで何が一体あったんですかぁ!」

 そう、夏休み前までは無愛想極まりなかった彼女が、新学期になっていきなりレヴァン会長にべったりなのだ。これはフランスで何かあったに違いない。
 私は束先輩を引き剥がしたいけど、彼女の切れ目が鋭くに睨み付けてくるので動けないでいる。

「名前で呼んでいいなんて束さんは一言も言ってないんだけどね。地味眼鏡はあっち行きなよ」

「じ、地味……。ででもっ、胸はあなたより大きいです!」

 そう、私にはこれがある! これがある限り地味とは言わせません!

「胸が女のすべてじゃないし! スタイルは私の方がいいし!」

「そ、そんなの負け惜しみで――」

バシンッ!

「うぅ、痛い……」

 千冬先輩がクリップボードで叩いてきた。結構いい音が鳴った。
 あ、そう言えば千冬先輩が生徒会で一番胸が小さいんだった。それでもDくらいありそうなものだけど。でも私はFだもんね、えへんっ。

――バシンッ!

「……もう一発いっておくか、山田君?」

「叩いてから言わないでくだ――」

「そうか、もう一発か」

「け、結構です……!」

 怖すぎます千冬先輩。ていうか何で私の考えてること分かったんですか!
 うう、脳が揺れる。

「フフン、眼鏡はそこでそのままうずくまって――」

バシンッ!

「痛いよちーちゃん……」

「お前もいつまでもつまらない言い争いはするなよ束。話が進まんだろう」

 束先輩もぶたれたらしい。何か千冬先輩も叩きキャラが板に付いてきた。

「あー、いいか?」

 空気だったレヴァン会長が口を開く。あ、私はちゃんと見てましたよ!

「月末にキャノンボール・ファストが控えている訳だが――」

 何だかんだで、今日も生徒会の会議が始まった。


◇◇◇


 会場が熱気に包まれる。合衆国某所、俺は国際ISレース、キャノンボール・ファストの専用サーキットのピットにいた。
 スタート地点を挟むように観客席があり、その上を高い屋根が覆っている。空中ディスプレイがあちこちに配置され、選手とそのISが映し出されていた。
 このキャノンボール・ファストは毎年催されるISを用いたレースだ。今年で二年目になるんだったか。全長約一○キロメートルのコースを平均時速六○○キロメートルで駆け抜ける、地上サーキットレースでは世界最速のレースである。
 その種目は二種類に別れている。訓練機を使い公式規格の存在する『フォーミュラ・レース』と、専用機持ち用の何でもありな『マルチ・フォーム・レース』だ。俺と千冬は後者に参加していて、これから決勝戦というところ。
 現在世界に専用機持ちは四一人。妨害OKな手間、さすがに全員一緒にするには多いので、四つのグループに別れて飛び上位八人が決勝に進むことになる。ちなみに予選でのラップタイムは千冬の『暮桜』がダントツの一位で、二位が俺だ。
 夏休みにフランスに帰っていたのは今大会のために新兵器を試験するためだ。『ラファール・カスタム』は新世代IS開発のデータ取りのために、様々な兵装でアセンブリすることができる。
 現在装備しているのは高速戦闘用パッケージ『フリート』だ。肩の可動盾をスラスターとし、背部に大型ブースターを取り付けている。中央に大きな基部があり、その両サイドに二機のスラスターが備え付けてある。十二枚のフィンを円形に配した推力偏向ノズルを採用し、加速力と運動性能を両立している。戦闘機のような外観が特徴的だ。
 まあ予選では『非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)』を採用している『暮桜』に負けたが、この程度で勝てたらむしろ拍子抜けというものだ。
 『フリート』はまだ本来の性能を発揮していない。二機のスラスターは所詮『補助(バーニア)』だからな。
 競馬のものを大型化したようなピットでレースの開始を待つ。俺を含め選手各人はウズウズしながら構えている。千冬も同じはずだ。
 俺は夏休み前に千冬とある賭けをした。このキャノンボール・ファストで負けた方が勝った方の言うことを一つ聞くというものだ。俺は千冬にメイドコスで奉仕してもらうつもりである。
 自動車のレースのようにシグナルが開始を知らせる。赤色のランプが一つずつ増えていく。俺は予選で出し惜しみしていた奥の手を早速起動させた。
 『フリート』の基部が大きく口を開け、エネルギーコンプレッサーが唸りを上げる。

「――オーケィ、レッツパァリィィィィィイァ!」

 鳴り響いたブザーを合図に、『オーバード・ブースター』の金切り声を上げながら俺はすっ飛んでいった。
 開幕早々他の選手に大きく差を付けて、俺はカーブに入る。いきなりの連続カーブに『オーバード・ブースト』を切り、機体を切り返す。両肩の可動盾で体勢を整え、推力偏向ノズルをうねうねと動かしながら鋭いヨーイングでコーナーを抜ける。
 いくつかのコーナーを曲がったところで千冬が追い付いてきた。曲がるたびに『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』を行う離れ業で詰めてきたらしい。

「何という千冬ミサイル……」

 そうこう言ううちに雪片で切り掛かってきた。俺はロールして紙一重で躱す。いくら推力偏向ノズルといっても、『非固定浮遊部位』を持つ『暮桜』ほどの運動性能はないのだ。

「そんなものを隠し持っていたとはな!」

「今回は勝たせてもらうぞ!」

「勝つのは私だ!」

 雪片ヤバス。盾がちょっと欠けた。
 俺はバレルロールで千冬を追い抜かせると、両手の機関散弾砲と無反動機関砲を斉射する。面白いように命中して焦る千冬に俺はほくそ笑む。体勢を崩した『暮桜』を追い抜いてトンネルに入った。
 他のレースと違ってこういった絡め手が打てるのがキャノンボール・ファストの面白さだ。

「ハッハァー、修行が足りんのう!」

「レェヴァンッ!」

 何か怒らせたっぽい。
 視線もくれずに後ろに向かって牽制射撃する。避ける千冬とさらに距離が空く。通常の空中戦と違って直進しなければならないため、弾幕はいっそう回避しづらくなるのだ。
 ふと見れば、腹いせとばかりに千冬が追い付いてきた選手を速攻で(ほふ)っていた。

「あいつちょっと張り切りすぎだろ……」

 もしかしたら俺の命令に直感的に尊厳の危機を感じたのかもしれない。いいじゃないか、メイド服きっと似合うぞ。
 『オーバード・ブースト』で一気に振り切ろうとするが、向こうも『瞬時加速』で追随してくる。
 急カーブに差し掛かり、『オーバード・ブースト』を解除すると旋回性能で勝る『暮桜』が『ラファール・カスタム』と並び、雪片を振るってくる。何とか盾で捌く俺に千冬が言う。

「私にああも食らわせるとは、期待以上だよレヴァン!」

 ん? 怒ってるというより何か楽しそうですね、千冬さん。上気した頬がむしろ怖いです。
 開幕早々シールドエネルギーの三割持っていったことで変なスイッチが入ったらしい。心なしか肌がつやつやしているように見える。

「お望みとあらば、マッハで蜂の巣にしてやんよ!」

 マシ(マシンガンとショットガンのダブルトリガー)の恐ろしさ見せてくれる。
 急カーブを抜け再度『オーバード・ブースト』で加速する。巡行型の『瞬時加速』を行う専用ブースターが機体を押し上げ、俺を亜音速へと導く。
 みるみるうちにカーブで距離を稼いだ『暮桜』に迫り、機関散弾砲の射程に入ると俺は両手の指でトリガーを引き絞った。
 火薬と薬莢がスネアーの利いたビートを刻む。
 千冬も不意打ちでもない攻撃に当たることもなく、超人的な回避機動で射線を逸らす。

「グレマシならどうよ」

 機関散弾砲の給弾ルートを変更し、榴弾を薬室に送り込む。それだけで左の武器は速射投擲銃に変わる。
 毎秒五発という速度でグレネードが発射されていく。これには千冬も答えたのか、速度が落ち俺と並んだ。
 そのまま二人で一週目をクリアした。

――ラップタイム、48秒27


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都合により分けます。


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