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スーパー束タイム!
sec.12/故郷の土

「もうすぐ夏休みということで、日頃の労いを込めて諸君らをフランスに招待しようと思う」

 終業式も間近の今日この頃、俺は宣言する。
 突然何だとばかりに目を向けてくる三人は、珍しくまともな――自分で言ってて悲しくなるな――俺の発言に驚いている様子。
 しかし詳細を話そうとする俺を遮って、いち早く立ち直った千冬が告げる。

「それは嬉しいが、気持ちだけ受け取っておこう。夏期休暇といえど、私は研究機関でIS開発に協力しなければならないからな、時間が取れない」

 うう、それは残念だ。と思っていたら真耶もどもりながら言ってくる。

「え、えっと……私も、家族で遠出する予定があるのでちょっと……」
 俺の思い付きはことごとく駆逐される運命にあるのか……束は、来る訳がな――

「――どうしてもと言うなら、束さんは行ってあげないこともないよ?」

「あなたが神か……」

「……は?」

 いぶかしげに見つめてくる束。千冬と真耶は浮遊大陸でも見たかのような顔をしている。
 そうか、着てくれるか! それならヘリもジェット機も手配した甲斐があったというものだ!
 俺は束の両手をとってありがとうと告げる。

「何でお礼言われるか分かんないけど、三日くらいなら都合つけられるから」

「じゃあその三日で目一杯楽しませてやろう。キサラギにも寄るからな!」


◇◇◇


 そして今は雲の上である。

「たかが旅行に何で自家用機を飛ばす必要があるのか聞きたいね」

「束は人混みは嫌いだろう? それにこっちの方がくつろげるじゃんか」

 IS学園からヘリで直接空港へ、そして超音速旅客機でフランスまでおよそ四時間だ。ちなみにこの旅客機、ISの格納、整備ができるように改造されている。後部タラップから出撃もできるのは知られてはならない秘密だ。

「実を言うと今回のフランス帰省は仕事も兼ねてるんだよ。千冬と同じ理由だな」

「束さんがついてきてよかったの?」

「心配してくれてるのか?」

「別にっ」

 束はそっぽを向く。可愛いよなあ、ツンデレうまうま。

「大丈夫だ、問題ない。俺には頼れる仲間がいるからな、三日くらいは女の子とのデートにかまけてられるさ」

 束はいつも持ち歩いている浮遊ディスプレイ型のパソコンを起動すると、黙って作業に入ってしまった。俺は隣で一眠りしようと目を閉じた。


◇◇◇


 資料館には試作型の多脚ちゃんがずらりと並べられていた。どれも完璧に整備され、制御ユニットと燃料を容れればすぐにでも起動できる状態だ。
 フランスに着いて、そこからは街並みを見ながら車で移動。今はキサラギの本拠施設トライトンの資料館で多脚ちゃんを見学してもらっている。

「乗ってみたいものとかあるか?」

「じゃあ一番新しいやつ、いいかな」

「勿論だ。九月始めに一般公開するやつがあるぞ」

 俺はシルバーの機体の『TRスタリオン』――この中で唯一の実用モデルだ――のところに行き素早く準備を済ませると束を呼ぶ。後部ポッドが開きドライバーを迎える。

「ヘッドギアを着けて座ってくれ。狭いと思うけどリンクしたら気にならなくなるから」

「束さんのISに比べて全然スマートじゃないね」

「それは認める。でも俺を含めキサラギのメンバーが情熱を捧げて造ったものだ。それなりのよさってものはあるはずだぜ」

「そういうものかな」

「じきに分かるさ」

 束が乗り込んだのを確認して格納庫のハッチを開ける。

「俺も行くから先にトラックで待っててくれ」

『分かったー』

 スピーカーから声を出して、『TRスタリオン』は走っていった。

「さて、俺は学園から持って帰ってきたスタコンで走るか」


◇◇◇


 君が代斉唱。
 日本のある方を向いてキサラギのメンバーは客人の国の国家を歌う。
 客人とはつまり私、篠ノ乃束だ。
 多脚車両で一通り遊んでから、みんなで少し早めの夕食を採ることになった。私は静かに食べる方が好きだけど、今日ぐらいは騒いでるのを見ながらでもいいかな。
 口々にどんなISが最強かという議論が交わされてたけど、段々最強の意味が変わってきて――

「ISも脚がたくさんある方がいいに決まってるだろ!」

「BTオンリーこそ正義!」

――とか何とも間抜けな言い合いに発展してるのを見て、思わずクスリと笑ってしまった。頭はそれなりにいいはずなのに、馬鹿にしか見えない。
 するとレヴァンが私の頬をつっ突いて言う。

「たまにはこんな空気もいいだろ?」

「……別に。こ、こんなの疲れるだけだよ」

「そうか? でもあいつらの楽しそうな顔は、お前が作ったんだぞ。そう考えると、ちょっと嬉しくならないか?」

 それは、そうかもしれないけど、私はあの人たちのためにISを作った訳じゃないし。

「束がISを作ってくれたおかげで、俺は毎日すごく楽しくすごせてるよ。生徒会の三人と出会えたのも、まるっきり束のおかげだしな」

「……そうかな」

「ああ、感謝してる。だから今日は楽しんでくれ、お前をもてなすパーティーなんだから」

 そんな言い方って反則じゃないかな? 私がISを作ったのはちーちゃんと楽しむためだったけど、こんな予想外のところから感謝されるなんてさ。望んでもないのに宴会まで開いて……。本当にずるいよ。
 何か、いいかもとか思っちゃうじゃん。
 それに篠ノ乃束に乾杯とかされるとさ、気恥ずかしいったらないよ。

「ちょっと風に当たりたいかな」

「分かった。エスコートしよう」

「もう……」

 たくさん人がいるけど、私に話しかけてくるのはレヴァン一人。だから結構ゆっくりとはできるけど、さすがに落ち着かないから私は屋上に出ることにした。

「ねぇ……」

「どうした?」

「今日はありがとね。ほんのちょっと、君の気持ちが分かった気がするよ」

「そっか」

「うん……」

 本当に、本当に少しだけだよ。まだまだ私には馴染まない。静かなのが好き。
 けど、生徒会と似た雰囲気があるのは分かった。それは多分君の雰囲気。君の隣の空気だ。
 私は少し体重をレヴァンに預ける。疲れたからだよ、きっとね。

「今日は疲れたね」

「……そうだな、部屋を用意してあるから行くか?」

 ううんと首を横に振る。代わりに左腕に手を回して言った。

「……もうしばらくこうしてて」

「……分かったよ」


◇◇◇


 束が俺の肩に頭をもたげる。人の温もりの一端でも実感してくれたなら、来た甲斐があった。
 束は言ってないが、事前にメンバーとは束に対してどう対応するか――自分から話しかけないというだけだが――や君が代斉唱のこととかの打ち合わせを済ませていたのだが、実を結んで何よりである。
 ふと近くの棟を見る。明かりが点いてない。キサラギのメンバーの多くが管理棟に集まってきていたが、それも一部だ。よく見ればあちこちので明かりが消えている。

「停電か?……いや、これは!」

「どうかしたの?」

 この施設はテロ対策として非常電源が存在する。停電があれば三秒ほどで復旧するが、それが作動していない。ということは――

「敵襲か……!」

 束の手を引いてすぐに会場に戻る。中はしんと静まり返っており、全員が速やかに俺の方を向く。

「状況はどうか」

「ハッキングにより施設地下への扉やエレベータがロックされてるわ。一部の監視カメラから映像が取れて、敵は出荷前の多脚車両を武装して使用してるわね。恐らく盗難品よ」

 エラ・ルジャンドルが言う。いつにも増して深刻な表情だ。束も状況を理解したのか黙っている。
 近くリリースされる多脚車両は諸外国のデュノアの支部で搬入が終わっているため、そこを襲撃して手に入れたのだろう。

「そうか。よし、その程度の戦力なら問題はない。こんなこともあろうかと――」

「アレを使うおつもりですか?」

 アリ・カバニスが確認してくるのに、俺はニヤリと笑って返す。

「いい機会だろう。多脚同士の戦い、テストの汎用性は高い。敵の狙いは恐らく『MLT101/B』と新型IS兵装だ。俺は格納庫に向かって多脚戦車で応戦する。ISを使うまでもない」

「しかし格納庫は地下です」

 お前の目は節穴かね。ここには後誰がいるのかよく見たまえよ。

「問題はない。ここには世界最強のハッカーがいるじゃないか」

「……篠ノ乃束」

「レヴァンがどうしてもと言うなら、束さんは手伝ってあげなくもないかな」

 俺は束の変化に嬉しくなり、ついつい頭を撫でてやりたくなる衝動を抑えて言う。

「頼むよ、束」

「仕方ないね」

 カタカタとパソコンのキーを叩き、空中ディスプレイが目まぐるしく変わっていく。俺は頼もしく思えて、アリに数人の技術者を選ばせて格納庫へ向かった。後は束とエラが何とかするだろう。


◇◇◇


 格納庫に最短経路で着く。まだ敵は来ていないらしい。手にはアリに渡された護身拳銃。俺は新型多脚戦車『MLT101/B』に乗り込んで叫ぶ。

「アリ!」

「準備できてます!」

「よし! 『ディソーダー』、発進!」

 俺の掛け声と共にハッチが開き、格納庫の奥から俺の乗る多脚戦車より大分小さい四脚の機体が姿を現す。その数六。
 『自律攻性多脚戦車ディソーダー』。タランテラにAI管制システムを搭載した『MLT101/B』を司令塔にAI制御によって動く自律兵器。ISに苦汁の敗北を喫した真の多脚愛者たちが作り上げた、一人プレイ仕様の多脚部隊だ。

「刺激的にやろうぜ!」

 緩い勾配を七機の多脚戦車が駆け上がっていく。地上に出ると各機を散開させ、索敵に向かわせる。俺も出力を上げて動きだした。


◇◇◇


 強固な攻性防壁を突破して施設の中枢コンピューターに潜り込む。今までで破った中でもかなり頑丈なセキュリティだった。

「でも、束さんにかかればこの通りなんだよね」

「さすがね。世界一二ヵ国の軍事システムを同時にハッキングした腕があれば内のセキュリティなんて障子(しょうじ)みたいなものなのかしら」

 金髪の女が話しかけてくる。名前は知らないけど、さっきレヴァンと話していた人だ。

「……あちゃー。向こうも多脚持ってるね」

「えっ、それってマズいじゃない!」

「さっきから君は何なのかな? 横からじろじろ見てきて鬱陶しい、あっち行きなよ」

 いつもの調子で金髪を拒絶する。金髪は少し距離をおいたものの、ニヤニヤしながら言った。

「世界最強の天才っていうからどんな娘かと思ってたけど、ボスから聞いてた通りねっ。可愛い可愛いツンデレちゃん!」

「……何こいつキモいっ」

 何か急に身体をくねらせて近付いてくる。来るな!

「ねえ、お嬢ちゃん」

「…………」

「ボスのどこらへんがよかったの?」

 壁際まで追い詰められてにじり寄ってくる。意味不明なことを言うのにクエスチョンマークで返せば、こいつはとんでもないことを言った。

「だぁかぁら、ボスのどこらへんに惚れちゃったのかって聞いてんのよ。束のお嬢ちゃん」

「はぁ!? 意味不明だよ!」

 何なのかなこの金髪は!? 束さんを混乱させるなんて尋常じゃない。人間じゃない。
 私はとりあえず多脚戦車のことをレヴァンにメールで伝えると金髪から逃げるために私は部屋を抜け出した。

「あら、行っちゃった……」

 去り際に何か聞こえた気がしたけど無視無視。
 あの変態女の言ったことが頭をよぎるけど、何も考えずに外に出た。

「この束さんが赤髪を好き? ないないそれはないよナンセンスだよ」

 確かに一緒にいると落ち着くし、それなりに役立ってあげようとは思うけど、それはあくまで一緒にいて不快じゃないだけだし、あいつが生徒会長だからだ。うん。

「きっとそうだね!――うわっ!」

「動くな。そうすれば命までは捕りはしない」

 背後から誰かが掴み掛かってきて押し倒される。
 ありゃ、束さんが不覚をとるなんて……。みんなみんなレヴァンのせいだ!

「来いっ」

 私は首に拳銃を向けられながら引っ張られる。
 怖いかもしれない。ISがあればよかったんだろうけど、生憎手元にはパソコンだけ。どうしようか……。

「……ムシャクシャする」

 レヴァンのせいだ。あいつがいなければこうはならなかっただろう。確かに不用意に外に出たのは私だけど、大元を辿ればレヴァンが悪い。絶対そう。
 だから早く助けに来てよ……。

◇◇◇


「ようやく終わり、と」

 途中で現れた多脚戦車にディソーダーを二機破壊されたが、その隙に真横から一二○ミリ弾を叩き込んで沈黙させた。武装した多脚車両もすべて破壊。一二.七ミリ弾には耐えられなかったようだ。

 引き続き警戒しながら――

『ボスっ!』

「エラか。どうした?」

 俺の思考を遮ってエラが通信を入れてきた。

『篠ノ乃束が人質に!』

「何だって!? クソっ今行く!」

 何だってこんなときに……! 何やってんだよ篠ノ乃束、世界最高の頭脳があるんじゃなかったのかよ!
 どうする。敵の狙いは恐らくこの多脚戦車とIS兵装だ。
 束と交換して後から『ラファール・カスタム』でぶっ潰すか。いや、それだと束の無事が保証されない。ISを捨てて俺と束を交換させるか。駄目だ。二人とも殺されるだろう。なら――

「人質を取る相手にとって一番困るのは……これか」

 俺は手の内の護身拳銃を握り締めて戦車を進ませた。

「戦車から降りろ!」

「レヴァン……しくじったかな」

 そこでは防弾ベストと多脚車両のヘッドギアを着けた男が、束の首に拳銃を突き付けていた。俺は奥歯を噛み締める。全部俺のせいだ。
 だが奪わせはしない。
 俺はディソーダーの一機に建物に突っ込むよう指示する。男のすぐ後ろでディソーダーは壁に体当たりし、大きな音と共に大破した。
 俺はタイミングを合わせてハッチから上半身を出す。瞬時に狙いを定め発砲した。

――束に向けて。



◇◇◇


 ベッドで眠っていた束が目を覚ます。起き上がるも状況が理解できないのか寝惚けているのか、その顔を少し困惑気味だ。

「あれ? 束さんはどうしちゃったんだっけ……?」

「起きたか、束」

「レヴァン……? そうだよ、私人質にされてレヴァンが来て、それから……ちょっ、何!?」

 俺は何だか感極まって、気付けば束を腕に収めていた。束はとたんに慌てだす。

「え、何、何なのかな!?」

「よかった……よかったよ」

「あ……うん。ありがとね……」

「生徒会長として、生徒を守るのは当然の行為だ」

 俺は束を解放して言う。束は「似合ってないよ」と言いながらその顔は少し赤い。

「……結局どうなった訳?」

「人質を取る相手にとって一番困るのは、人質が自分で立てなくなることだ。だからその……束を麻酔弾で眠らせて、それからあの男の頭を吹き飛ばした」

「あ、それで束さんは寝てたのね。いいよ、助けてくれたんだし、感謝してる」

 俺はそれを聞いて少し安心する。するととたんに眠くなってきて、目蓋を重く感じた。

「ね、眠たいなら一緒に寝ようっ。今日の束さんはちょっぴり傷心だからね……」

「なっ……ま、まあ今日ぐらいは、いいか……いいのか」

「うんっ、いいから! まだ寝足りないんだからさっさと寝るよ!」

「……分かったよ」

 レヴァン・デュノア、一八歳にして女の子と同衾……もとい添い寝であります。でも相手が束だと素直に喜べないのはなぜだろうか。スタイルは千冬よりいいんだけど雰囲気がどうもそういう感じじゃないというか……。
 まあいい、考えるのはよそう。変に意識すると眠いのに眠れなくなる。それは地獄だ、二重の意味で生殺しというものだ。
 でも安心するのは事実だからいいかな。

「おやすみ」

「おお、おやすみ」

 俺は久しぶりに最高の眠りを味わうことができた。


◇◇◇


 謎の部隊の襲撃から二日間。俺は束とフランス中をデートし、休暇を満喫した。その間やたらとくっ付いてきたけど、俺もそれなりに受け入れられたってことかな。
 そして束が日本に帰る時間が来た。

「楽しかったよ。珍しい経験もできたしね」

「あはは……まあフランスのことを知ってもらえて嬉しいよ」

 俺は無難に返す。珍しい経験とは言わずもがな、人質になったことだろう。

「たまには誰かといるのもいいものだね」

「それが分かってくれたなら何よりだ」

 本当、最初会ったときから変わったよな。少しでも人の温もりが分かれば、こいつももっと豊かに生きれるだろう。

「悪いな、帰り付き合えなくて」

「いいよ、よくしてもらったしね。……そうだ、これあげるよ」

「何だ?」

 束はポケットからデータチップのようなものを取り出すと、俺の手にそれを握らせた。

「帰ったら見てみて。それと……」

チュッ

 頬に温かい体温を感じる。そこだけやけに熱くなる。こいつ今何した……?

「お、欧米ではこうして挨拶するんだよね?」

 あ、挨拶か。挨拶ですか……。そうだよ頬にキスするくらい普通のことダヨ。
 ちくせう、可愛いじゃんかさぁ。
 俺も束の頬に唇を落とす。束は自分から言ったくせに真っ赤になっていて、思わず笑ってしまう。

「笑わないでよ! もう……また学園でね、れっくん」

「クク……ああ、新学期にまた会おう……って、れっくん?」

 俺は呼び止めようとしたが、束は駆け足で行ってしまってもう声も届かないところにいた。
 俺は追及を諦めて、見送り終えると踵を返してキサラギに向かった。


◇◇◇


 キサラギ本拠施設トライトン。俺は束からもらったデータチップから情報を落としていた。

「これは……すごいな。エラ、急ぎ唐沢博士に連絡を。『データ入手。己がロマンを実現せよ』」

「分かったわ。『データ入手。己がロマンを実現せよ』ね」

 キサラギのBT兵器信者たち、『チーム・ミラージュ』が動きだした。



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