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PV1461417、ユニーク214365、お気に入り2105、ありがとうございます。

真耶さんや千冬さんが成長します。
sec.21/進化せし真耶2

 二人くっつきながら歩く帰り道、手はもちろん恋人繋ぎ。時間はそろそろ夜になろうかというところ。
 冬用のモコモコのジャケットや可愛い服も選んでもらったし、一緒に映画も観ました。スクリーンの照り返しでいつもと違った趣きを見せるレヴァンさんの顔は相変わらず、濃すぎず薄すぎずの日本人受けする美形で、自然と唇を求めてしまいました。あんな風にキスできることが目標だった私には、大きな収穫でした。

「今日は最高に楽しかったです! レヴァンさんとの距離もぐっと近付いた気がします」

「そう言ってもらえて嬉しいよ。俺もいつもと違う真耶の新しい一面を見れたし、真耶のことをより深く知れた」

 私が笑顔で言うと、レヴァンさんも微笑みながら返してくれました。
 人生初のデートはとても上手くいったと思います。今日だけは彼は私のもので、まさしく私が思い描く理想的な恋人関係。今日一日で人として、女として、自信が付いたんじゃないかな。いつもに比べても、かなり大胆だったし。恋は女の子を可愛くするとはよく言ったものです。
 しばらく歩くと、レヴァンさんは正面に顔を向けたままふと聞いてきました。

「真耶は、俺のことどう思ってる?」

 その声色は、先ほどまでのふわふわした雰囲気とは打って変わって真剣味を帯びていて、真意を図るのに数秒の時間を要しました。
 私は特定の個人に(みさお)を立てずに三人の女の子を囲っていることを言っているのだと判断して、できるだけ優しく答えました。

「最低の男ですね」

「……えっ? あ、ああ。自覚してる」

 私の口からこんなストレートに非難の声が発せられるのは予想外だったのか、一瞬狼狽えるレヴァンさん。そんな彼に、私は言葉を続けます。

「あなたが三人を囲っている自分のことをどう思っているかはともかくとして、それでも少なくとも私は、幸せを感じています」

 千冬さんや束さんがどう思っているかは分かりません。でも彼がハーレムを形成せず、私たちと生徒会の役員としてしか交際しなかった場合、私が今日を迎えることはなかったでしょう。引っ込み思案な私のことですから、きっと片想いのまま進展もなく、そのまま卒業まで想いを告げられずに終わる様が目に浮かびます。

「私が今日の日を迎えられたのは、間違いなくあなたが甘えさせてくれたからです。私だけを見てくれないのは悔しいし、妬ましいですけど、想いすら伝えられずにお別れなんて、もっとみじめですから」

 レヴァンさんは私の頭に手を添えて、優しく撫でてくれます。日々ケアを欠かさない髪が彼の指に絡んでサラサラと柔らかく踊り、温もりを伝えてきました。

「そうか……」

 短く答えておもむろに顔を近付けてくる彼を見つめながら、「それに」と付け加えます。

「――今、すっごく充実してるんです」

 にっこり笑った私に、レヴァンさんは映画館でしたのと同じ、慈しむような笑みを向けます。
 今日何度も味わった彼のあったかい唇が、三度私のそれに触れたのでした。


◇◇◇


 生徒の多くはまだ夕食を摂っているだろう時間帯、人がまばらな大浴場で少し早めの風呂に入る。
 レヴァンと真耶のデートを追って束と一日過ごしたが、いかな親友と言えど私の中の黒い感情を押さえ込むことはできなかった。
 浴槽に束と並んで浸かる。汗に紛れて涙が頬を伝った。

「ちーちゃん、泣かないで……」

「泣いてなどいない……ぐすっ」

「もう……」

 本当は今すぐにでも泣き付きたい。でもいつも纏っていたプライドや“私”という殻が、それを許さなかった。
 束が俯く私の頭を撫でる。思えば、こいつはいつの間にこんな世話好きになったのだろう。今までずっと私がお守りをしてやっている気でいたのに、まるで私が面倒を見られる側になっているようだ。

「お前は変わったな」

「ちーちゃんもね。やっぱりれっくんの影響かな?」

「だろうな。私がこんなに弱くなってしまったのも、全部あいつのせいだ」

 たった一人の家族を守るために、そして恩に報いるために、こいつの研究に手を貸した。
 弟を“奴ら”から守るために、ずっと強くあろうとしてきた。それこそが私の生きる理由だったのに、そのためだけに生きようと思ってきたのに、私は女の幸せを知ってしまった。
 兵器としての私、姉としての私。それらが徐々に磨耗し、女としての私が台頭してきて、私は一気に弱くなってしまった。

「それはどうかな? そもそもちーちゃんは強かったのかな?」

「どういう意味だ?」

 さらりと言ってのける束に私は凄味を利かせて返すが、束は動じた風もなく淡々と言う。

「今日気付いたことだけど、本当はちーちゃんはすっごく弱くて、私以上に寂しがり屋なんじゃないかって」

「そんなこと……」

「――ないって、言い切れる?」

「……」

 束の言葉に、私はたじろぐ。
 認めたくなかった、自分が弱いだなんて。一夏を守れるのは自分しかいないんだから。
 でも、レヴァンのことで嫉妬して冷静さを失う自分を自覚して、自分がまだまだ未発達な少女でしかないという確信が生まれてくる。

「ちーちゃん、強がらなくていいんだよ。私もれっくんも、ありのままのちーちゃんを受け入れるから。変に取り繕わないで……親友でしょ?」

「うん……」

 悔しいが、私は弱い。私に比べれば、束の方がずっと屈強だ。いや、恋を通じて得た経験がこいつを成長させたのか。
 私は自分より小さな束の肩に身を預ける。

「でも、自分以外の誰かのために頑張れるちーちゃんは、私とは違う強さを持ってるんだと思うよ。今回はたまたまちーちゃんの弱いところが露呈しちゃっただけだから、ね?」

「でも、もっと強くなりたい。自分の弱さを受け入れる強さがほしい」

 目尻に浮かんだ涙を拭う。もう泣いてない、大丈夫だ。
 たった今、織斑千冬は成長した。心のもやが晴れていく。まるで脱皮でもしたみたいだ。成長するとは、こんなにも清々しいものなのだな。
 私はもう迷わない。レヴァンを好きだという気持ちに真っ向から向き合っていこう。

「よおし、そうとなれば突撃だよちーちゃん!」

「突撃? どこにだ?」

 急に浴槽から立ち上がった束に驚きながら、おうむ返しに質問する。

「決まってるじゃん、れっくんの部屋にだよ! 今日の鬱憤を身体で晴らしてもらわないとね!」

 鼻息を荒くして言う束は少し気持ち悪いが、それは賛成だ。いくら気分がよくなったとは言え、嫉妬心が解消されたわけではない。

「そうだな。あれだけ真耶を甘やかしたんだ、散々溜まった欲求不満をぶつけてやっても文句は言われまい」

「そうと決れば善は急げだちーちゃん!」

「ああ」

 私たちは大浴場から出て、髪を乾かすのもそこそこにレヴァンの部屋へと早足で向かった。


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