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2012年9月6日(木)付

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尖閣国有化―無用な摩擦打ち止めに

政府は、沖縄県の尖閣諸島の三つの島を買い上げることで地権者と合意した。4月に購入計画を明らかにし、購入費の寄付を募っていた東京都の石原慎太郎知事も、政府の購入を認める考[記事全文]

出生前診断―重い課題に向き合う

人の意志で命を左右することにつながる技術だ。どう考え、どのように使うか、ていねいに議論を進める必要がある。お母さんの血液を少し採って調べれば、おなかの中の胎児がダウン症[記事全文]

尖閣国有化―無用な摩擦打ち止めに

 政府は、沖縄県の尖閣諸島の三つの島を買い上げることで地権者と合意した。

 4月に購入計画を明らかにし、購入費の寄付を募っていた東京都の石原慎太郎知事も、政府の購入を認める考えだ。

 政府が島を買い上げるのは、「平穏かつ安定的に維持管理していく」(玄葉外相)のが目的だ。石原知事が求めていた、漁船が避難できる港の建設もしない方針だ。

 中国政府は、尖閣の国有化には断固反対すると繰り返してきた。今回の合意に、反発は避けられまい。

 それでも、中国を「シナ」と呼んで挑発し、自らの尖閣上陸を公言していた石原氏の主導による都の所有を防いだことになる。その意味でも、国有化は避けがたかったといえるだろう。

 これを、日中関係改善への転機にしなければならない。

 そもそも、東京都による尖閣の購入計画には無理があった。

 石原氏は「東京が尖閣諸島を守る」と語っていたが、外交交渉や領海の警備はもとより政府の仕事だ。

 石原氏は、先日都内であった北朝鮮による拉致問題についての集会で、領土問題でロシアや中国の攻勢に押される日本の姿を嘆きつつ、「この国の活力を失わせたもののひとつは憲法だ。これは捨て去ったらいい」と言い放った。

 石原氏がこうした政治目的のために、尖閣問題をつかってナショナリズムをあおっているのだとしたら、あまりに危険だし、責任ある政治家の行動とは言い難い。

 この夏、尖閣に上陸した香港の活動家を日本の警察が逮捕した。中国ではこれに反発した反日デモが相次いだ。

 さらに、丹羽宇一郎・駐中国大使の公用車が襲われ、国旗が奪われた。あってはならない蛮行である。

 中国政府も、さすがにまずいと思ったのだろう。北京市の公安局が容疑者2人を5日間の行政拘留処分にしたが、これまでにない迅速な措置には、日本への配慮もうかがえた。

 日中両政府は、8日からロシアのウラジオストクで開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議にあわせ、野田首相と胡錦濤(フーチンタオ)国家主席の会談を調整している。

 尖閣国有化について、胡主席がどういう態度をとるかはわからない。だが、国交回復40年の節目を迎えた日中関係だ。無用の摩擦は打ち止めにし、大局に立って築き直すよう、建設的な話し合いを求めたい。

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出生前診断―重い課題に向き合う

 人の意志で命を左右することにつながる技術だ。どう考え、どのように使うか、ていねいに議論を進める必要がある。

 お母さんの血液を少し採って調べれば、おなかの中の胎児がダウン症かどうか、99%の精度でわかる。そんな米国生まれの検査法が登場した。

 新しい検査は簡単なだけに、はらむ問題は大きい。軽い気持ちで受けて、思わぬ結果を聞いて動揺したり、人工妊娠中絶を選ぶ人が増えたり、といったことが予想される。

 日本産科婦人科学会は「安易に実施することは厳に慎むべきだ」とする緊急声明を発表し、ルール作りに向けた検討を始めるとした。

 この検査は当面、本格的な導入に備えた研究という位置づけなので、始めるのは一部の医療機関にとどまる。だが、多くの問い合わせが集まっている。

 これまでの血液検査は確率しかわからなかった。判定が確実な羊水検査は、お母さんのおなかに針を刺すため、わずかだが流産の危険があった。新しい検査への関心が高いゆえんだ。

 背景には、妊婦の4人に1人が35歳以上という高齢出産の時代を迎え、高齢になるほど、胎児の遺伝子に異常が起きる確率が高くなることがある。

 遺伝子の重い異常を持った子が生まれる確率は30歳の385分の1に対し、40歳では63分の1になるとされる。出生前の診断で胎児の異常がわかったことによると見られる中絶が増えていることも事実だ。

 ダウン症は、染色体の一部が1本多いことによって起きる。知的発達の遅れや心疾患になることが多い。一方で、発達はゆっくりだが、豊かな感性や知性を発揮して活躍する人もいる。

 こうした特徴や育て方などについて、きちんとした説明ができる態勢が欠かせない。

 検査を受けるかどうかもふくめて、最終的には親の判断だ。検査の結果が意味するものは何か、どう解釈すればいいか、十分なカウンセリングをして親の判断を支えることが大切だ。

 障害がある人への支援制度が十分にあれば、子にとっても親にとっても心強い。その意味で、この問題は私たちの社会そのものが問われている。

 そうしたことを一つひとつ、考えていきたい。

 科学の進歩により、遺伝子でさらに多くのことがわかるようになるだろう。うまく使えば、早めの対応が可能になる一方で、倫理問題も避けて通れない。重い課題だが、しっかり向き合いたい。

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