トーハン会長の引退で出版界の地殻変動が始まった!
2012.08.31
トーハンは、小城氏が丸善の社長に就任する前に、窮地に陥っていた丸善へ出資しており、日販よりもその関係は濃かった。丸善CHIホールディングスとなった今でも、第4位の株主でもある(平成24年の有価証券報告書)。それにも関わらず、丸善はトーハンと競合する日販への帳合変更という事態に至ったのである。
こうした事態を見て、講談社、小学館といった2大出版社がトーハンの新体制を批判した。それに加えて、これまで不満が溜まっていたナンバーワン書店までもが、新体制移行問題という格好の契機に反旗を翻した。
市場規模が年々落ち込んでいる出版業界だが、2大取次も売上高を落としている。そうした状況下で、取次業のトップに君臨していたトーハンがその座を日販に明け渡した。その間、トーハンで実質的に経営を牛耳っていたのは誰なのか。売上減少の責任は誰にあるのか。流通システムやあらゆる売上増・返品減の施策で日販よりも一歩も二歩も遅れたのはなぜなのか。こうした問題と今回の帳合変更は決して無関係ではないだろう。
最後に今回の事態をみて憤る書店関係者の話で締めくくりたい
「日販もトーハンも、そして帳合変更する店も大変なのは現場の人たち。お店の売上・利益が上がるというなら積極的に協力するが、結局は政治的な意味合いでの帳合変更。それに振り回されておびただしい業務をこなさなくてはいけない現場の気持ちをもっと分かってほしい」
(文=碇泰三)
【参考】講談社や小学館、紀伊國屋書店、ジュンク堂書店など大手の出版社や書店は読者にとっても馴染みは深いが、取次会社と言われると、何? と思われる人も多いと思う。だが、出版業界はこの取次会社なくしては存在しえないほど、巨大な存在なのだ。というのも出版業界には2大取次という圧倒的に売上が大きい日販とトーハン、その下に大阪屋、栗田、太洋社といった取次が存在する。日販の売上高は5895億円(単体)、トーハンは5039億円(同)となっている。業界第3位の大阪屋が1199億円(同)だから、その差はおよそ5倍。栗田、太洋社に至っては500億円以下という状況だ。いかに日販・トーハンという2社が別格か、お分かりだろう。
さらに、出版社からみると、取次会社の重要性を図るひとつの指標が帳合書店(取引している書店)なのである。トーハンは紀伊國屋書店、丸善書店、ジュンク堂書店、文教堂、くまざわ書店といった特販グループ、いわゆる大手書店の取引先となっている。日販は紀伊國屋書店、TUTAYA、有隣堂、リブロ(子会社)などが主な大口取引先だ。書店の中には、取次1社をメインとする一本帳合店のほかに、紀伊國屋書店や丸善書店、三省堂書店のように、店舗や商品単位(雑誌、書籍、コミックなど)で日販とトーハンを使い分けたり、ジュンク堂書店のように大阪屋とトーハンを使い分けたりもする。取引高でみると、紀伊國屋書店は日販がトーハンよりも多く、丸善書店はトーハンが多かったようである。