人の意志で命を左右することにつながる技術だ。どう考え、どのように使うか、ていねいに議論を進める必要がある。
お母さんの血液を少し採って調べれば、おなかの中の胎児がダウン症かどうか、99%の精度でわかる。そんな米国生まれの検査法が登場した。
新しい検査は簡単なだけに、はらむ問題は大きい。軽い気持ちで受けて、思わぬ結果を聞いて動揺したり、人工妊娠中絶を選ぶ人が増えたり、といったことが予想される。
日本産科婦人科学会は「安易に実施することは厳に慎むべきだ」とする緊急声明を発表し、ルール作りに向けた検討を始めるとした。
この検査は当面、本格的な導入に備えた研究という位置づけなので、始めるのは一部の医療機関にとどまる。だが、多くの問い合わせが集まっている。
これまでの血液検査は確率しかわからなかった。判定が確実な羊水検査は、お母さんのおなかに針を刺すため、わずかだが流産の危険があった。新しい検査への関心が高いゆえんだ。
背景には、妊婦の4人に1人が35歳以上という高齢出産の時代を迎え、高齢になるほど、胎児の遺伝子に異常が起きる確率が高くなることがある。
遺伝子の重い異常を持った子が生まれる確率は30歳の385分の1に対し、40歳では63分の1になるとされる。出生前の診断で胎児の異常がわかったことによると見られる中絶が増えていることも事実だ。
ダウン症は、染色体の一部が1本多いことによって起きる。知的発達の遅れや心疾患になることが多い。一方で、発達はゆっくりだが、豊かな感性や知性を発揮して活躍する人もいる。
こうした特徴や育て方などについて、きちんとした説明ができる態勢が欠かせない。
検査を受けるかどうかもふくめて、最終的には親の判断だ。検査の結果が意味するものは何か、どう解釈すればいいか、十分なカウンセリングをして親の判断を支えることが大切だ。
障害がある人への支援制度が十分にあれば、子にとっても親にとっても心強い。その意味で、この問題は私たちの社会そのものが問われている。
そうしたことを一つひとつ、考えていきたい。
科学の進歩により、遺伝子でさらに多くのことがわかるようになるだろう。うまく使えば、早めの対応が可能になる一方で、倫理問題も避けて通れない。重い課題だが、しっかり向き合いたい。